[KATARIBE 28952] [HA06N] 小説『ねづみ騒動顛末記』その四

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Date: Thu, 21 Jul 2005 01:34:02 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28952] [HA06N] 小説『ねづみ騒動顛末記』その四
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年07月21日:01時34分02秒
Sub:[HA06N] 小説『ねづみ騒動顛末記』その四:
From:久志


 久志です。
吹利ねづみ騒動、先輩パートを続けます。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『ねづみ騒動顛末記』その四
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登場キャラクター 
---------------- 
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。 
 軽部真帆(かるべ・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。ネズミが大の苦手らしい。 
 本宮史久(もとみや・ふみひさ) 
     :吹利県警刑事課巡査。屈強なのほほんおにいさん。昼行灯。 
 石垣冬樹(いしがき・ふゆき) 
     :吹利県警刑事課巡査。相羽の後輩で史久の同期。 

本文
----

 理屈でもなく。
 耐える耐えられるという問題でもなく。
 生理的に駄目なものというのは確かにある。

『……い、一匹じゃない、ひっかかってるのっ』

 電話の向こうの声はほとんど泣き声で、こみ上げてくるものを必死で押さえ
てるのがひしひしと伝わった。

「ああ、わかったから。すぐ行く」

 電話を切って、机の上の書類を軽く揃える。すぐ向かいの席で報告書をまと
めていた後輩が少し怪訝そうな顔をした。まあ普段から仕事漬けの俺が、ここ
しばらく日が高いうちに県警を出るのが珍しからなんだろうけど

「相羽さん、もうあがりですか?」
「ん、ああ、ちょっと呼び出し。石垣ちゃん、なんかあったら携帯連絡入れて」
「え、ええ……あの、失礼ですがどなたから?」
「ちと友人がトラブっててさあ」
「……はあ、友人、ですか」
「そんな遠くじゃないから、なんかあったらすぐ戻る」
「はい……」

 少し後を引くような言葉を背中で聞きながら、ハンガーに掛けた上着を引っ
つかんで、デカ部屋を後にした。


 待ち合わせの場所。
 涙と寝不足の真っ赤な目で、縋るようにスーツの袖を掴んできた。

「とりあえず、現場にいこか」
「……はい」

 おぼつかない足どりのやつを片手で支えながら、家へと向かった。

「台所?」 
「うん」 

 俺が覚えている限り。
 ネズミ捕り用の罠にかかった奴、網やトリモチで捕まえた奴を合わせれば、
昨日の時点で相当数のねずみを始末したはず。

 だが。

 台所の戸を開ける。
 昨日一昨日と、さんざんネズミに見慣れたはずの自分ですら一瞬息を飲んだ。

「……こらまた大漁」 

 ころころよく肥えた……というのも嫌な言い方だが、大人の手の平程の大き
さのねずみが軽く見て十匹強。それも戸から見える一箇所の粘着テープでの数。
他にも主要経路に結構な数の粘着テープと罠が仕掛けてあることを考えると、
潜んでいるネズミの数は相当なものだろう。
 しかし、たとえどこかに侵入経路があるにしろ、餌を仕掛けてるでもなくこ
れだけの数のネズミがこの部屋に湧くのは、どう考えても異常だ。

「侵入経路があるとして、ここまで湧いてくるのは……ちと不自然だね」 

 つっと、視線を動かす。

 外からの侵入経路は昨日の時点で全てつぶしたはず。
 それでもなおこれだけのネズミが湧いて出てきている。

 だと、したら。
 異常は、この部屋自体にある……か?

 ゆっくりと視線をめぐらせる。
 壁、家具、天井……そして。
 当たり前のようにある場所で目に付かない箇所。

 とんとん、と、畳を指先で叩く。
 畳越しに、ざわ、と、何か……奇妙な気配が動くのを感じた。


「鍵あるでしょ」
 原因は見えないにしろ、これ以上ここにこいつを居させるわけにはいかない。
「適当に荷物もって家にいってな」 
「……え?」 
「ちょっと、その間に調べとくから」 
 一瞬の間を置いて、口を開く。
「……相羽さんとこに?」 
「俺はここで原因さぐって、必要なら……ちょっと県警でアテがある」 
 史の奴は確か、今朝から表向き研修という名の……その手のヤマの応援に出
ている。昼間の連絡によると、夕方には県警に戻ると言っていた。
 ならば、丁度いい。
「……宜しく、お願いします」 
「先に寝てて」 

 荷物をまとめたカバンを持って。何か言いたげな顔をこちらに向けたまま、
ぺこりと一礼して、部屋を出て行く。
 ドアの閉まる音と遠ざかっていく足音にじっと耳をすませる。
足音が完全に聞こえなくなったのを確認してから、もう一度、畳を握りこぶし
で叩く。

 ぞわり、と。何かがざわめくような感触。
 ゆっくりと手のひらを畳に当てる。

「さて、確認してみましょかね」

 スーツのポケットから十得ナイフを取り出して、刃を一本伸ばす。
 なるべく部屋に傷をつけないよう、慎重にナイフの背の部分をゆっくりと畳
の隙間に押し込んでいく。床板に当たる感触をつかんでから、テコの要領でナ
イフをねじりこむようにゆっくりと床と畳の間に押し込む。
 べこん、と。軽く細かなホコリを舞わせて畳の端が微かに持ち上がる。

 と。
 細かなホコリに混じって、ふわっとなにか生暖かいような空気が流れてきた。
 同時に、鼻に掠める……微かにドブくさいようなどこか不快な匂い。

「よっ」

 持ち上がった畳に指をかけて、ぎしぎしと音を立てながらゆっくりとめくる。

 そこには。

「……っ!」

 思わず片手で口元を押さえた。


 畳の下。
 床板の上、染みのように黒々と渦を巻くように広がった……

 こいつをなんと表現すべきか。
 どす黒く広がる水面を湛えた泉。

 つんと鼻につく、ドブくさい匂い。
 まとわりつくような生暖かい空気が湧き上がってくる。

「……これは」

 と、渦巻いていた水面が軽く跳ねた。
 小さな飛沫がみるみると膨らみ、薄こげ茶色の毛がびっしり生え始め……

「なっ!」

 大人の握りこぶし程の大きさになった――ネズミ――が、ちぃという鳴き声
をひとつあげると、あっという間に部屋を駆け出して行く。
 普段はめったなことで驚く性質じゃないが、流石にこれは一瞬息を呑んだ。

 ぴしゃん。
 飛沫が跳ねる。

 一匹、ネズミが一鳴きして駆け出す。

 ぴしゃんと。
 また一匹。

「くそっ!」

 慌てて畳で床板の泉を塞ぐ、が。数秒の間を置いて、ちぃと背後から鳴き声
が聞こえる。振り向いた先にはもうその姿はなく、小さな足音だけが耳に残っ
ている。

 なるほど、これじゃキリがないわけだ。
 ここ昨日今日のネズミの増え方にも納得が行く。

「……やっぱり、その手のヤマか」

 胸ポケットの個人用携帯を取り出す。
 奴は夕方には県警に戻るといっていた、時間からいってそろそろ連絡がつく
頃だろう。

「よう、史」
『はい、本宮です。先輩、どうしました?』
「もう、県警?」
『つい今しがたついた所です、これから報告が終わればこっちはひと区切りつ
きますから。また真帆さんの所でなにか?』
「あのさ、そっちに報告ついでに、出動要請してくんない?」
『え?』
「どうやらね、このネズミ騒動、ただ事じゃない」

 とん、と畳をつつく。

 ざわり、とうごめく気配。
 ちぃ、と鳴く声。
 とたとたと響く小さな足音。

『…………何か、わかりましたか?』
「ああ、普通じゃないことが起きてるよ」


時系列
------
 2005年7月2〜3日 
解説 
---- 
 ねづみの異常な発生に不穏な影を感じ取った先輩は。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
いじょう! 



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