[KATARIBE 28949] [HA06N] 小説『ねづみ騒動顛末記』その参

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Date: Tue, 19 Jul 2005 00:13:05 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28949] [HA06N] 小説『ねづみ騒動顛末記』その参
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年07月19日:00時13分05秒
Sub: [HA06N] 小説『ねづみ騒動顛末記』その参:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
仁義無き戦いは、未だ続いております。
……故に、恐怖が何か妙に書きやすい(いやまてこら)

というわけで、続けます。

***************************************
小説『ねづみ騒動顛末記』その参
==============================
 登場人物
 --------
  軽部真帆(かるべ・まほ)
   :自称小市民。多少毒舌。ネズミが大の苦手らしい。
  相羽尚吾(あいば・しょうご)
   :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。
  本宮史久(もとみや・ふみひさ)
   :吹利県警刑事課巡査。屈強なのほほんおにいさん。昼行灯。
  本宮和久(もとみや・かずひさ)
   :吹利県警生活安全課巡査。生真面目さん。史久の末弟。 


本文
----

 その夜は結局、なかなか眠れなかった。
 暑いのを我慢して、布団を頭から被って。
 でも、耳に。

 ととととと。
 偶に、ちいっと、小さく鳴き声。
 そして、何かを齧る、音。


 ……で、案の定。
 朝には、2匹のネズミが。
 昼にはそれが一匹増えて。
 この辺で、台所が殆ど使用不可能になってたんだけど。


 
「遅くなりました」

 定時を待って、電話した。じゃあ直ぐ行くから、と、相羽さんが言ってから
半時間。
 ……まさか本宮さんと豆柴君まで来るとは思わなかった。

「台所に、入れないもので」
 何が困るって、水が汲めない。一度だけ必死でネズミ捕りを避けて、空いて
たペットボトルに水を入れて……結局それで一日何とかしたけど。
「それは大変ですね」
 妙にきちんと正座して、豆柴君がそう言う。
「……なもんで、すみません」
 紙コップと、ペットボトルのお茶。紙皿に和菓子。
「何か、こんなのしか出せなくて」
「いえ、頂きます」
 紙皿を、本宮さんがさっさと配る。相羽さんは黙って手を伸ばす。
 ……性格というか、役割分担というか。

 一間の部屋の真ん中に、座卓を置いている。大して大きくないその周りに、
男性三名。
 ……何かこう……県警から捜索本部をそのまま引きずってきたらこうなる、
みたいな。
 ある意味非常に贅沢な人員かもしれない。

「罠を置いてあったのが、ここ」
 とりあえず、と、ネズミ捕りを始末してくれた相羽さんが、図面に印を入れ
る。
「三匹だっけね」
「……確認求めないで欲しかった」
 いや、見たんだけど。
 見ただけでもう、寒気がするというか……
「で、通路がここ」
 すっと線を引いて。
「ああ、じゃ、今度は」
「こことここに罠はってさ」
「ああ、ここに毒餌をしかけて……」
 本宮さんが指で示す。
「あ、ここをふさいでおくのは」
「ああ、それ先にやらないとね」
 豆柴君の言葉に、相羽さんが頷く。
 ……この人達、ネズミより作戦会議で盛り上がってるような気が……。

 と。

 (とと)

 え?

 一瞬躊躇った。見たら本当になる。見たら本当になってしまう。
 でも。

 (ととと)

 でも、こっちにまでネズミに来られたら。
 必死で、音の先を、見る。
 
「…………っ」

 多分、一番良い場所を選ぶ為に、相羽さん、一度ネズミ捕りを外したのだろ
う。そしてそこから突破する形で。

 ずるずると、身体を引っ張る。ネズミと自分の間に三人が来るように。
 ネズミ。
 そう、言おうとして。
 声が。

 (とと)

 何でこういうことだけ、見えないのにはっきり判るんだろう。
 あれが、こちらに来てる。近づいてる。

「……っ」
 必死で手を伸ばして、相羽さんの手を掴む。
「ん?」
「そこにいるんだってばっ」
「あ?」

 もう見たくないから、目をつぶって、気配のほうを指差す。
 何となく間の抜けた、数瞬。

「ああ、いたわ」
「え?」
「あ!」

 ばたばた、と、人の立ち上がる気配。そして何かが空を切るような音。

「あー始末したらいうから、伏せてな」
 とん、と、一度頭を、撫でるように叩く手。
「……お願いします」

 目をつぶって、耳を抑えて。
 出来るだけ小さくなる。出来るだけ。

 でも。音が。
 ……気配、が。

         **

「じ、自分でも情けないとは思うけどっ」

 結局、こちらに流れてきたネズミは、捕まったらしかった。
 その後、三人とも軍手とマスクを装備。そして台所に行ってしまって。

 バケツに入れた水に漬けられたネズミの数は……聞かなかった。
 ただ、現時点で台所にて発見したネズミは、一応全部片付けたから、と、相
羽さんは言った。
 相当の数、なのかもしれなかった。

「駄目なんだから仕方ないっ」


 実際には、一時間と経ってなかったと思う。流れてきたのは一匹のみ、後は
台所に三人とも移動して、ネズミを追って、そして適当な位置にネズミ捕りを
仕掛けて。

「終わったよ」
 ぽん、と、頭に触れる手。
「こちらの部屋には、来ないようにしといたから」
 ぽんぽん、と。
 安堵した。
 同時に……何だか涙が出てきて。


「……大丈夫ですか、本当に」
 本宮さんが、心配そうにそう言う。
「だ……大丈夫ですけど」
 何にもしてないのに。全部この人達にやって貰ったのに。
 気が付いたら、身体中がたがた震えている。
「かなり退治したから、多分大丈夫です」
 やっぱり心配そうに、小首を傾げて、豆柴君が言う……そう、言ってくれる。
「うん……」

 でも。
 確か、昨日も。
 
 笛の音と一緒に、流れるように出て行ったのは……並の数じゃなかった。

 仮に、昨日居たのが10匹としよう。そして今日捕まったのが、最初の三匹
に加えて……全部纏めてやっぱり10匹くらいか。

 ……仮に、周囲の家全部で、ネズミを追い出したとしても。
 そんなに一気に、こちらに来るものだろうか……?

「……ともあれ、どっかで元をとめないとキリないね」

 多分、同じことを思い出しているのだろう。相羽さんがぽつりとそう言う。
 
「…………やっぱ、どっかに居るの、かな」
「こんだけ始末しても次から次へを湧いて出るってことは、どっかに侵入経路
があるはずだね」
「…………」
 確かにそれが、妥当だ。
 妥当だ、とは、思うけど。

「それも一つ二つじゃない」
「…………っ」

 冷静に。そして淡々と。
 だから余計に。

「……怖い……」

 たかがネズミじゃないか、と、自分でも思う。思っている。
 でも……でも。
 戸板一枚に隔てられてはいるけれど、この向こうにネズミが居る。

「…………怖い……っ」

 情けない、と、自分でも思う。でも。

 ……と。
 また、ぽん、と、頭に手が乗せられる。

「とりあえず塞げるとこは塞いだし、残りは駆除した。あと、様子をみてまだ
侵入してきていたら、追ってまたつぶすか」

 顔を上げると、三人は何時の間にか、図面を眺めていた。

「主要経路に粘着テープ貼ってあるから踏まないようにね」
 顔を上げて、相羽さんがこちらを見る。
「……はい」
 返事をして……気が付く。

「か……かかってたら?」
「……俺か、史か豆柴くん呼んで」
「明日でも、いいですか?」
「いいよ」

 掛かっていないに越したことは無い。
 でも。

 ……でも。

「…………怖い」

 何でだろう、と、自分でも思う。どうしてそんなに怖いんだろうと思う。
 自分でも本当に情けない、と、思うんだけど。
 
 また、ぽんぽん、と、頭を叩かれた。
 そして溜息交じりの、声。

「とりあえず辛抱しなさいよ」
「……うん」
「どうしても辛抱できなかったら、うちの隣の部屋貸すから。とりあえず、今
見た奴は駆除したし」
「はい……」
「遠慮しないで、電話して下さい。先輩が忙しいなら僕でも良いですし」
「…………ごめんなさい」
「それだけ怖いもの、我慢しなくていいんですからね」
「……本当に、ごめんなさい……」

 頭を下げる。
 本当に情けないんだけど。本当に本当に情けないんだけど。
 
「……有難うございました」
 
 それでも。
 震えが、止まらなかった。

          **

 その夜も。
 結局、そのまま眠れなかった。

 やっぱり、ととと、と、足音がして。
 時折高く鋭く鳴く、声。

 そして、聞き間違えじゃなければ。
 かりかり、と、何かを齧る音。それも断続的に。

 ちいっ……と。

 ……何度。

 数えるのも怖くて。でも。

 …………一体、何度。


          **

 そして、朝になって。

 一度だけ、台所への扉を開けた。
 一度で充分だった。

 
 五時まで待った。相羽さんだって仕事だ。幾ら何でも昼間っから呼びつける
わけにはいかない。
 台所との間の扉。まさかあそこを齧って穴をあけるネズミは居ないだろう。
だから大丈夫。だから平気。だから。

 だから。

 必死でパソコンに向った。絶対扉のほうを見ないようにした。
 これくらい長い一日も、久しぶりだったと思う。
 四時半に、外に出た。何というよりそれ以上もたないと思った。
 何度も何度も、高く鋭い声が。

 扉のほうから。


 そして、五時になったのを幾度も確認してから。
 やっぱり確認しておいた公衆電話に飛びついて。

「もしもしっ」
『ああ、出た?』
「……い、一匹じゃない、ひっかかってるのっ」
 声がいつのまにか泣き声になる。
 みっともない。自分でもそう思ったけど。
「ごめんなさい、でも、誰か……っ」
『ああ、わかったから。すぐ行く』
「そ……外で待ってるから」
『わかった』

 
 そして本当に、相羽さんは半時間と待たない間に来た。
 

「台所?」
「うん」
「……そっちに座っといて」
「はい」

 できるだけ台所から離れて、座る。相羽さんは扉を開いて。

「……こらまた大漁」

 呆れたような声が、背中越しに聞こえた。

 確かに、大漁というのは嘘じゃないと思う。朝の時点で既に、仕掛けてあっ
た粘着テープにびっしりとネズミがくっ付いていたのだから。
 あたしが見たのは、一箇所だけだけど。でもそれにしても。
 
 幾らなんでも、異常。

「…………う、うちのなかに、何か変なものでもあるのかな」
「ありえるね」
 ぱたん、と、扉を閉めて、相羽さんが淡々と言う。

「侵入経路があるとして、ここまで湧いてくるのは……ちと不自然だね」

 
 とんとん、と、畳を指先で叩く。
 ざわ、と、何か……奇妙な気配が動いた。

「…………っ」

 本当に。畳一枚。
 その、下は。
 

「鍵あるでしょ」
 ふいに、相羽さんがそう言った。
「適当に荷物もって家にいってな」
「……え?」
「ちょっと、その間に調べとくから」
 口調も表情も、微塵も変わらない。
 だから一瞬意味を取り損ねた。
「……相羽さんとこに?」
「俺はここで原因さぐって、必要なら……ちょっと県警でアテがある」

 アテ……

「……お願いします」
「家には出ないから」
「…………うん」
 鞄を出して、適当に荷物をまとめる。手が震えているのが、もう何だか他人
事のようでもあって。

「……宜しく、お願いします」
「先に寝てて」
「…………」

 一礼して、部屋を出る。
 靴を履く間も、何だか玄関の片隅から、ネズミが出てくるような気がした。

         **

 暗がりから、ネズミが湧くような気がする。
 さわさわと揺れる草の音は、あれが動く音。
 その暗がりから。

 暗がりから。
 恐らく…………無数の。

         **

 走っていった先には、ベタ達が待っててくれた。
 相羽さんはまだ帰らないけど、と言ったんだけど、偉く何だか喜ばれて。
 ぷくぷくぱたぱた、くるくると廻る。
 青と赤。二色の本当に綺麗な。

 ……綺麗な。

 何だかまた、涙がこぼれた。

「…………怖かった」

 慌てたように、ベタ達がくるくると廻る。首の辺りをするりと抜けて、また
正面に。

「ほんっと、怖かったのっ」
 手を伸ばす。その両手に、ふわっと小さな魚達は乗っかって。
「……こわ、くて」

 手の中の二匹の鮮やかな魚。
 それがふわりと手の中から浮き上がって、近寄ってくる。
 長い鰭を器用に動かしながら、そろそろと。

「……一緒に、いて」

 ぱたぱたぱた。
 小さな気配は、けれどもここでは全く怖いものではなく。
 ぱたぱたぱた。

 ……せめてご飯を作ろうと思ってた。これだけお世話になってるんだもの、
その程度当たり前だろ、と。

 でも。

 ひんやりとした、小さな、どこか硬い感触。
 本当に、安堵して。
 安堵して。

 (ここには怖いものは居ません)
 (ここには何も怖いものはありません)

 ……そんな、風に…………



 それから以降の、その日の記憶は……無い。


時系列
------
 2005年7月2〜3日

解説
----
 ねづみ騒動により、真帆の避難完了。
 
*************************************

 結構真帆が目をつぶったり寝たりしてるんで、情報のかなりが無いわけですが(笑)
一応……こんなもんですかね。

 ではでは。



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