[KATARIBE 28946] [HA06N] 小説『女の子の心情』

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Date: Mon, 18 Jul 2005 17:51:59 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28946] [HA06N] 小説『女の子の心情』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年07月18日:17時51分58秒
Sub:[HA06N]小説『女の子の心情』:
From:久志


 久志です。
このとこ妙に正念場がおおい。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『女の子の心情』
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登場キャラクター 
---------------- 
 中村蓉子(なかむら・ようこ) 
     :スポーツシューティング部の一年、部長である秋風秦弥をどこと
     :なく意識している。ちょっと複雑な家庭事情の女の子。
 奈良井・トレース・知恵(ならい・とれーす・ちえ) 
     :スポーツシューティング部の一年、蓉子のクラスメイト。
     :実はホムンクルス、蓉子にひよこのごとく懐いている。

電話の向こう
------------

 携帯電話の発信履歴。
 部の連絡用にと番号を教わっていたけど、今まで一回もかけたことがなかっ
た部長の番号。
 それも、意識して架けたわけじゃなく、別のところに電話をかけようとした
時に、胸に抱いていた猫にいたずらされてうっかり架かってしまった事故のよ
うなものだった。
 それだけなら、ただの間違い電話で済んだのに。
 間違えたことを伝えて謝って、また部活でと言って終わりだったのに。

 どうしちゃったんだろう、わたし。

「蓉子さん」
「え、はい。どうしたんですか、知恵さん」
 顔をあげると、知恵さんが淡い碧の真っ直ぐな目でわたしの顔を見ている。
その顔は無表情に見えるけれど、その裏でわたしのことを心配しているのを感
じる。
「……なんでもないんです」
 なんでもないはずなのに。
 電話の向こうで、微かに聞こえた音。
 それはわたしも聞きなれた、副部長の声。

 部長は副部長と一緒にいた。

 それだけなら、なんの不自然もないはず。
 普段から射撃部の打ち合わせや運営についてのことで、二人はよく会って話
をしていたし、部長と副部長という立場から言えば珍しくもなんともないこと
のはず、なのに。
 でも、電話越しに微かに聞こえてきた副部長の声は。
 普段の凛とした厳しくて、でもしみるような優しい声ではなくて。
 少し鼻にかかったような、かすれるような……
 泣いている、声?
 副部長が?
 どうして?

 忘れ物を届けにきた、と部長はいっていた。
 そして、相談事をされた、と。
 あのいつも毅然としていた副部長が涙を流すほどの悩みを抱えていて、部長
に相談する。
 ずきりと、胸が痛くなる。
 自分も部長に悩みを聞いてもらったことがあるし、そういう悩みを打ち明け
やすい人なのかもしれない。
 でも。
 部長が副部長と一緒にいて、副部長が泣いている。
 どうして、それが胸に痛いのかな。
「……蓉子さん」
 俯いてしまったわたしの顔を覗き込む。
「……どうしました?」
 ああ、駄目だ。知恵さんに心配かけちゃいけない。
 なのに。
 目頭が熱くなった、目の前の知恵さんの顔がゆがんで映る。
「蓉子さん、どこか痛いのですか?」
 ぽつんと涙が一粒落ちる。
 知恵さんの手が軽く頭にのせられる。
 そのまま、ゆっくりと回すように頭を撫でる。
「泣いているときには、こうすればよいと尊さんに聞きました」
「……ごめんなさい、知恵さん」
 どうして涙が出るんだろう。

 自分はずっと悩みを抱えてて。
 部長も私より重い悩みを持ってて。
 きっと、副部長も……人に言えない悩みを抱えてて。

 悩みを聞いてもらって、ホッとして。
 それだけのはずなのに。

 どうしちゃったんだろう、わたし。


涙の理由
--------

 お母さんと二人きりの夕飯。
 でもお父さんが家を出る間から、仕事に追われているお父さんはわたし達と
一緒に夕飯を食べることはめったになかった。

「あら蓉子、もういいの?」
「うん……もうお腹一杯」
「そう?随分小食だけど」
「ごめんなさい、知恵さんのお家でオヤツとか食べてきちゃったから」
「あら、そうなの?」

 食器を流しに片付けながら、お母さんの後姿をそっと見る。
 お父さんが仕事で帰らない日。夜、わたしが寝た後、いつもお母さんは食卓
に座って一人で泣いていた。

 どうして泣くの、お母さん。
 お父さんが心配なの?

 あの頃。
 こんなにお母さんに心配をかけるお父さんは酷いと、ずっと思っていた。
 だから、わたしは優しい人を好きになろうと思ってた。

『ねえ、蓉子ちゃん。好きな人だあれ?』
『本宮さん!』
『ほぉ、史か』
『だって、本宮さん優しいし親切だし!』
『いやぁ、モテるな史よお。憎いやつだねえ』
『先輩っ!』
『ははは、ダンナににらまれるぞ、お前』

 本宮さん。
 お父さんの部下で、優しくて穏やかでいつもにこにこ微笑んでる人。
 同じくお父さんの部下の相羽さんと一緒に、時々わたしの面倒をみてくれて
いた。

『本宮さんなら、お父さんみたいにお母さんを泣かせたりしないもん』
『なるほど、ねえ』
『……蓉子ちゃん』

 そっと、本宮さんが頭をなでる。

『お母さん、泣いているの?』
『……お父さんが、帰ってこないから。お母さん、いつも泣いてる』
『……そう』
『でも、中村さんは本当に奥さんを大切に思っているんだよ』
『うそ!』
『せつないねえ』
『だったらどうしてお母さんは泣いてるの?どうしてお父さんはお仕事ばかり
でお家のこと考えてくれないの?』

 黙ってしまった本宮さん

『だから、わたしは本宮さんみたいに優しいひとがいいもん』
『蓉子ちゃん、そのうちわかるよ』

 優しいから好き。
 そう、単純に思っていた。

『本当に好きな人ができたら、きっとわかるよ』

 好きなのは嬉しい。
 好きな人がいるのは楽しい。
 そう、思っていた。
 ずっと。


 ベッドの上に転がって、色々考えてる。
 射撃部で知恵さんや副部長さんたちと一緒に活動するのはすごく楽しい。
 部の人はみんないいひとで、部長も副部長さんも優しくて頼れる人で。

 色々指導してもらって。
 悩みを聞いてもらって。

 ぎゅっと枕を抱きしめる。
 他の人にも同じように?

 目が熱い。

 優しいから好き。
 好きな人がいるのは楽しい。

 枕に落ちた涙が小さなしみをつくる。
 どうして涙がでるのかな。

 好きだから?
 お母さんも?


 ……好きな人がいても、涙がでるんだ。


時系列
------
 2005年7月
解説
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 部長に対する微妙な気持ちを抱える蓉子。
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いじょう!

 だー(ぢたばた




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