[KATARIBE 28943] [HA06N] 小説『ねづみ騒動顛末記』その弐

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Date: Sun, 17 Jul 2005 23:50:52 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28943] [HA06N] 小説『ねづみ騒動顛末記』その弐
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年07月17日:23時50分52秒
Sub:[HA06N]小説『ねづみ騒動顛末記』その弐:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
ねづみ騒動、ようやく一日目です。
……何かこう、ログを利用して、でけるだけいぢめたよーな気が……
チェックお願いします>ひさしゃん、きりえさん

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小説『ねづみ騒動顛末記』その弐
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 登場人物
 --------
  軽部真帆(かるべ・まほ)
   :自称小市民。多少毒舌。ネズミが大の苦手らしい。
  相羽尚吾(あいば・しょうご)
   :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。
  遊野桐子(ゆうの・きりこ)
   :創造する想像者。何となくネズミ退治に参加。


本文
----

 本当に怖い時に、悲鳴ってあげられるものだろうか。
 息を吸って、吐く。
 その、吐くということが出来なくなるのである。

 ……などと、そんな時でも、声を出さない理由を頭の片隅で考えていたりす
る。
 そういう余裕は、あるのかもしれないのに。

 

「来たな」

 咄嗟に目をつぶってしゃがみこんでしまったので、何がどうなったか良く判
らないのだけど。
 ただ、目を閉じる前に見えた、灰色の『それ』と。
 何だか妙に鮮やかな黄色い塊と。
「ゲットだぜ」
 妙にうきうきとした、桐子さんの声。
 そしてととと、と、軽い小さな……故に恐ろしい足音。
 どうやらその音は二重で……二匹?

 と。
 パチッ……と。
 静電気の飛ぶ、あの音に良く似た音。
「……次は……金具の無い虫取り網を」
「え?」

 思わず目を開く。と、飛び込んできたのは、くったり倒れた桐子さん。
 そして黄色い……何かなあれ。
 そして。

「…………っ」

 目をつぶって耳を抑える。それでも耳の奥に響くように。
 とととと、と、軽くて早い足音。
 駄目だ。このままだと桐子さん踏まれる。
 一歩だけ踏み込んで、手を伸ばす。肩に手をかけると、彼女はむくり、と、
自分から起き上がった。
「あー不覚」
 ……いやそでなくて。
「こっち、きといたほうがいいですよ」
 このままだと邪魔だし。
 桐子さんを半ば引っ張るようにしてこちらの部屋に戻りかけた時に。

「……手ごわいね」

 何でまたその台詞を、嬉しそうに言うかな。

「……相羽さん、面白がってる?」
「手ごたえある相手だと、気合はいるじゃん?」
 いや、そうかもしれないけどさ……
「あの、退治してもらってる分際で言うのもなんだけど」
「ん?」
「戦線拡大しないでね?」
 ネズミが通った床。一度は拭かないと……まともに歩くのが怖いんですけど。
「ああ、だいじょぶ。そこらへん心得てるから」
「……お願いしま」

 言いかけたところで。
 ちう、と。

「そっちにひっこんどいて」
「……はい」

 入れ替わりのように、桐子さんが立ち上がる。

「……ハルキゲニア?」
「え?」
 って、あの、カンブリア紀の?
「なんだろ一体?」
 桐子さんはどんどん、台所に踏み込んでゆく。
 
 なんだろって…………

 え?


 黄色くて丸っこい、甥っ子が集めてるカードの絵に酷使した格好。
 そしてハルキゲニア。
 ……なんでそんなもんが居るわけ?ここに?

 とふとふ、と、軽い足音。ゆっくりとしたの、妙にせっかちなの。
 何か……何か、変。


「まず現存部隊の逃走経路をつぶす」
 ふらふらととりとめもなくなっていた考えを、途中で止めたのは相羽さんの
声だった。
「つぎはアジトを突き止め次第、一斉に殲滅にかかる。いいな」
「……いいなと言われても……」
 アジトって。
 殲滅って。
「あたしも、やるんですかそれ?」
「ああ、お前さんはひっこんでて」
 ほっとするの半分……役に立たないなと思うの半分。
「……すいません」
 
 座り込んだ、時に。
 
 ちう。
 そして、とっ……と、何かが跳ねる音。

「動くな!」
 
 どす黒い色合いの塊。
 それが宙を。

 
 後で考えると、判らないでもない。要するに台所からこちらの部屋に入る、
その丁度通り道にあたしがいた訳だから、向こうは逃げるならこちらに来るし
かない。

 って、理屈で判っても。
 
 咄嗟に目は閉じた。だけど。
 とん、と、何かが頭の上で跳ねる感触。

「きた」

 ひゅっ……と、何かが流れるような。

「……こいつだけか」
 そして、少々落胆したような……相羽さんの声。
「うわ、また変なのを」
 興味津々、といった風な桐子さんの声。
 ……ああ駄目だ、何かがくがくしてる。

「とりあえず、処分するか」
「……うん」
 怖い。
 どうしてって自分で思うけど、どうしても怖い。
 それが。

 身体を丸めて怖さを押し殺そうとした……時に。

 ちいっ。
 高い、音。
 それが、何時の間にか複数で。
 ちうちうちうちう。

「…………ひいっ」

 背筋がぞっと震える。耳を抑えてもその声は届く。
 ちうちうちう。

「……千客万来だね」
「招かれざる客ばっかりっ」

 耳を掴んで押えつけて。丸くなって。

「虫取り網でももってくりゃよかったかねえ」

 独り言のような、相羽さんの声。
 セミの合唱を思わせる……否、そんなものならこんなに怖く無い。
 ……怖い……っ

「ん?」
「あれ?」

 一瞬、ネズミの鳴き声が途絶えた。
 そして。

「笛、ですねえ」

 妙に呑気な、桐子さんの声と。
 確かに、笛の音。

「そっち、窓開けて」
 妙に慌てたような、相羽さんの声。足音と、硝子窓の開く音。
 
 笛の音?

「目、つぶっといて」
 
 そして……気配。沢山のものが一時に動く時の、川や流れる風に似た。
 少しざわざわとした。
 それが台所から、窓に向って。

 多分。どす黒い色で。
 小さくてこそこそ動くもので。
 複数の足音。その気配。

「…………っ」

 何でそんなものが、うちにいる。
 何でそんなものが、ここに―――


 窓際の枠を蹴るような音。軽い、小さな、それが幾つも。
 耳を塞いでるのに。
 聞きたくない。聞きたくないのに。



「……レミングみたい」

 ぽそ、と、小さな声がしたのは、それからどれくらい経った後だろうか。

「いっちゃいましたね、見事に全部」
「…………もう」
 声が、かすれる。
「もう、いません?」
「……いったっぽいね」

 溜息交じりの声。
 何だか、ようやく肩から力が抜けて。

 ……ああ駄目だ、何か泣けてきた。

 何だろう一体。この前まで古いったって、ネズミなんて出てなかったのに。
 一匹居ても大変なのに。それがどうしてこんなに一度に。
 なんでそんなもんが、よりによってうちに…………

 
「しょーがないねえ」
 ぽん、と、頭に手が置かれる。
「……ごめんなさいて……」
 情けないとは、判っている。泣くほうがおかしいのも判っている。
「でもなんでっ……」
「謝らんでいいから」

 ぽんぽん、と。
 宥めるように。

        **

「……一応、ネズミ捕り、残りのを仕掛けておくから。まだ出るようだったら
連絡して」
「…………明日でも?」
「出るようならね」

 まだ、出るのかな。
 泣きそうになった気配を察したのか、桐子さんが慌てたように口を開く。

「だ、大丈夫ですよ、あれだけ一気に出てったんだから」
「……そうですよね、だって」

 まるで、うちのどこかに、ねずみを引き寄せる何かがあるように。

 …………。
 ………………。

 ……………………まさか、ね。


「……ええと、有難うございました」
「いえいえ」
 桐子さんの声は明るい。
「こちら、面白かったですし」
「……有難うございました」

 ほんとに、一人だったら……多分あたし、今頃家から飛び出してると思う。

「じゃ、またー」
「おやすみ」
「……有難うございました」

 何度も頭を下げて。
 扉を閉めて。

 そのまま、そこに座り込みそうになるのを、必死で我慢して。

 台所。せめてあそこだけでも、床を拭こう。
 そして。


 とととと。

「…………っ」


 小さな足音が。
 床下から。


時系列
------
 2005年7月1日。「ねづみ騒動顛末紀」その一の直後。

解説
----
 一旦は、ネズミを追い払ったかのように見えたわけですが。
 ちなみに、真帆が目をつぶってるのでわかりませんが、笛を吹いてるのがユニです。
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続きは後日(どーん)
ではでは。



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