[KATARIBE 28936] [HA20N] 小説『図書室通信・其の弐』

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Date: Sun, 17 Jul 2005 01:20:18 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28936] [HA20N] 小説『図書室通信・其の弐』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年07月17日:01時20分18秒
Sub:[HA20N]小説『図書室通信・其の弐』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
というわけで、西生駒です(何がというわけでなんだ)。
またも先輩が出てきてます。
そのうち、キャラシート作ります。

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小説『図書室通信・其の弐』
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 登場人物
 --------
  石雲悠也(いしくも・ゆうや)
   :西生駒高校一年生。図書委員。石化能力者。
  火渡源太(ひわたし・げんた)
   :西生駒高校二年生。図書委員。図書室の本を知悉している。

本文
----
 どの学校にも七不思議ってのはあるだろうし、そのうちの一つに『図書室の
幽霊』だの『図書室の呪われた本』なんてのが含まれてても、それは珍しくも
ないとは思う。
 ただ、うちの学校が普通じゃないと思うのは。

「図書室だけでも、七不思議があるから気をつけるように」

 …………これだ。

「何なんですかそれ、先輩」
「うん、古い本多いし」
 それ理由ですか?
「ほら、骨董品には想いが憑くっていうじゃないか」
「……はあ」
「櫛や簪に憑くなら、本に憑いてもおかしくないだろ」
「…………」
「また、本好きってのは本に執着するだろ。ここには結構寄贈本があるしね」
「寄贈ってことは、ある程度諦めてませんかね?」
「生前に寄贈されるんだったらね」
 ……おいおい。
「いや、あるんだよ。亡くなって遺言書に『これこれの本、散逸を避ける為に
図書室に寄贈』っての」
「ああ、それは判ります」
 もしも、本を手放さなければならないとしたら、僕だってまず本好きに貰っ
てもらうことを考えると思う。無論古本屋に売ったほうが得だろうけど、一文
にもならなくても、その本を確実に大切にしてくれる人にあげたほうがいい。
「だから」
 困ったように先輩は頭をかく。
「その本を、例えば誰かが無くしたとかいうと……」
「……ああなるんですか」

 閉館15分前。
 有難いことに、図書室には殆ど人が居ない。
 カウンターには先輩と僕だけである。

 開架式の本棚のところで、女性が困ったように本を探している。
 ある程度年配の、人の良さそうなおばあさんである。
 ……とりあえず、先生にしても年をとり過ぎている。

「あの人はどんな本を探してるんですか?」
「ああ、牧逸馬の『めりけんじゃっぷ』連作かな」
「……絶版じゃなかったですかそれ」
「というか良く知ってるよね、石雲も」

 本体は読んだこと無いけど、その本についてのエッセイ集なら読んだことが
ある。

「って……え、その本ここにあるんですかっ?!」
「あった」
 何だか先輩、歯にモノが大量に挟まったような声だ。
「ってことは今は?」
「あるんだけどあそこじゃない」
「へ?」
「図書の先生が預かってくれてるんだ。一応、石雲なら貸し出し許可出るんじゃ
ないかな?」
「……って?」

 おばあさんは、やはり困ったような顔で辺りを見回している。
 
「一応、ほら、絶版の本だろ」
「はあ」
「盗んだ奴が居てね。それもたちが悪くて……自分の家に置くならともかく、
売り飛ばそうとしたんだよね」
「え」
「俺が一年生の時」

 くい、と、親指で自分を示しながら、火渡先輩は言う。

「で、おかしいってんで、特捜第一課が出動して、売り飛ばした奴を締め上げ
て本を回収したんだけどね」
「……回収できたんですか?」
「うん。もう買ってた人居たけど、事情を聞いたら『それは返さなければ』っ
て……あ、でも、全部コピーしてったなあの人」
「ってことは、本当に話を読みたかったんですね、その人は」
「うん」

 だから話がすぐ通ったんだよ、と、先輩は笑った。

「ただ、それから……そういう本だってのが、何か話題になっちゃってさ、結
構『借りてって期限がきても返さない』ってのが続いたんで、先生が」
「預かったんですね。あんまり人の目の触れないところに」
「うん。だから一応、所定の場所には箱が入れてあるよ」
「箱?」
「こういう本がありますってのをさ」

 ……成程ね。

「でも、そしたらその本、ここにあるんじゃないですか。何であの人が出てく
るんです」
「うん、それが、ねえ」

 火渡先輩が困った顔になる。

「愛読書だったらしいよ」
「……は?」
「自分が読んで楽しくて、わくわくしながら頁をめくったのを憶えてるんだっ
て。だからどうしてもここの学生に読んで欲しかったんだって」
「…………で?」
「一応、こちらも説明したし、本人も一度はわかったって言って下さったんだ
けど……」

 先輩は肩をすくめる。

「執着って、消し難いね」

 わかっているのだ、という。
 わかっているから、彼女は探すだけで、別にこちらに文句を言わないのだと
いう。
 わかっている。

 ……けれども。

「……でも、火渡先輩」
「ん?」
「どうしてそんなこと判るんですか?」
「訊いたから」
「………………は?」
「判らなければ質問。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」

 いやそうじゃなくて。

「……幽霊、でしょう?」
 思わず声が小さくなったのだけど。

「ちがう」
 びし、と、先輩は言った。
「あの人は別に、迷ってないよ」

 ああそうか……ってそうじゃなくて。
「ええと、でも、霊なんでしょう?」
「そうだね」
「……何で話せるんですか?」
「見えるから」

 …………どこか論理はおかしいのはわかるんだけどな。

「まあ、そんなんであの人も偶に出てきては、ついつい本を探すらしい」
「いいんですか、放っておいて」
「いや、図書室閉める前に声かけとくから」
「もうすぐですが」
「……あ、そうか」
 じゃ、カウンターんとこ片付けといて、と、先輩は立ち上がり、その人のと
ころに向う。鉛筆と貸し出しカード、本に被せるビニールシートを片付けなが
ら、僕はついついそちらを見る。
 先輩がその人のところに近づく。その人は少し困ったような顔のまま先輩を
見て……そしてふと笑った。まるで孫を見るおばあさんのような穏やかな顔で。
 そしてこっくりと頷くと。

 そのまま、ふっと消えた。

「あ――」

 思わずそう呟いてしまった僕の耳に、5時のチャイムが聴こえた。
 図書室、閉館時刻である。


「…………さて」
 ぽんぽん、と、歩いてきた先輩は、カウンターのこちら側に廻ってきて、残っ
ている生徒達に向って一声。
「閉館です。借りたい方は即刻こちらに来て手続きして下さい」
 わらわらと、残っていた数人が本を抱えてやってくる。その殆どがどうやら
図書委員らしい。
「あ、やるやる。鉛筆貸してー」
「俺も」
「あ、はい」
 一旦片付けた鉛筆を、数本引き出しから出す。こちらもカードを一枚取って、
本の題名を書き写す。
 その間に先輩は、ぱたぱたと図書室を巡って窓を閉めていっている。
 やっぱり作業が早い。

 図書室だけで、七不思議がある、と、先輩は言った。
 ということは……多分まだまだ、何かあるんだろう。
 先輩は一年で、どこまでその不思議のことを知ったんだろう。
 一年で……どれくらいそんなことを知ることが出来るんだろう。

 そんなことを思いながら、カードに書き込む。
 窓の外は……まだまだ明るい。

時系列
------
 2005年5〜6月。

解説
----
 図書室七不思議についての、ちょっとした風景。
 この先輩は、前回の先輩と同じです。
 図書室の本、また図書室についての万全の知識:15 くらいもってそうな。
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てなわけで、ではでは。



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