[KATARIBE 28935] [HA06N] 小説『ねづみ騒動顛末記』その一

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Sun, 17 Jul 2005 00:26:24 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28935] [HA06N] 小説『ねづみ騒動顛末記』その一
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200507161526.AAA83946@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 28935

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28900/28935.html

2005年07月17日:00時26分24秒
Sub:[HA06N]小説『ねづみ騒動顛末記』その一:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
この前より流している、ねづみ系のログを使って、話書いてます。
結構、継ぎ足したりした部分もありますので、
チェックお願い致します(ぺこり)>ひさしゃん、きりえさん。

***************************************
小説『ねづみ騒動顛末記』その一
==============================
 登場人物
 --------
  軽部真帆(かるべ・まほ)
   :自称小市民。多少毒舌。ネズミが大の苦手らしい。
  相羽尚吾(あいば・しょうご)
   :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。
  遊野桐子(ゆうの・きりこ)
   :創造する想像者。何となくネズミ退治に参加。


本文
----

 人間、苦手なものはある。
 それも、ある時まではそれほどでもないのに、たった一つのきっかけから全
く苦手になることがある。
 理由が判っても、生理的に駄目……となると、やっぱりきつい。

 ……情けないと、自分でも思うけども。

         **

「しょーがないねえ」
「だってほんっとに苦手なんだあれはーっ」

 居酒屋『かんくさん』。相羽さんや本宮さんと呑む時に、以前からよく来て
いたところ。
 最近になって『かんくさん』の意味を、本宮さんが教えてくれた。要するに
ここ、店主さんが元警察官らしい。よって案外、同僚さんが来るという。つい
でにここの二階は弁護士事務所らしく、そこの仕事を終えた人たちが、ここで
一杯やってから帰る、ということも多いという。
「下手すると警官、弁護士、検察官、裁判官ひとそろえいる時すらあるしねえ」 
 相羽さんにそう言われて、思わず周りを見回したことがある。そう言われれ
ば、確かにここは、強面の人が若干多いかもしれない。
 無論、それとは全く関係無い人も結構居るのだけれど。

「自分でも、本当に情けないとは思ってるんだよ」
「そうだろうけどね……で、何買ってきたの」
「……とりもち式のネズミ捕りと、スプレーと、軍手と、火バサミと」
「火バサミ?」
 尋ねたのは、さっきまで一人で呑んでいた女性である。こちらの会話を聞き
つけたのか、ひょい、と、会話に加わった彼女は、桐子さんと言うらしい。
「何に使うんですか?」
「…………ネズミ捕りにひっかかったネズミを捨てるのに」
「軍手じゃなくて?」
「…………駄目なんですっ」

 もともと、近辺でも破格に安いアパート(というより長屋)の一室である。
ネズミの運動会くらい、毎度天井から聞こえてきていたし、壁の後ろをばたば
た走る音もきっちり聞こえていた。それでも不思議なくらい、今まで被害はな
かったのだけど。
 この数日、その足音が格段に増えた。壁をどんと叩くと、ざわざわと音が返
るのが判るくらいに。
 そしてとうとう2日ほど前から、壁からこちら、台所のほうに連中が出現し
てきたようなのである。
 ネズミが台所を走るというのは、確かに衛生上良くない。食べ物が齧られる
のも相当困る。
 でもそういうことを全部棚に上げても、とにかく。
 ……ねずみってのは、あたしにとって鬼門である。

 で。
 冒頭の、会話に戻るのだけど。


 最近、またよく相羽さんとこでご飯を作っている。ただ、ネズミが出現しだ
してからこちら、台所でがさっと音がすると……それが相羽さんのところでも
……どうも竦むというかなんというか。
 それで、今日、ネズミ退治の為の道具を買ったついでに、居酒屋に相羽さん
を呼び出したのだ。
 ネズミ退治だと多少時間がかかる、それなら定時退庁してそっちに行くから、
と、言って貰って。
 現在まだ、外は少々明るい。

「まずは通り道に罠張って」
 買ってきたネズミ退治の道具を見ながらの相羽さんの言葉に、
「そして自分が引っ掛かる」
 冷酒のグラスを片手に、桐子さんがのんびりと返してくれる。
 ……それも、相当哀しいんだけど。
「重々、そうならないように気をつけますが……」
「まずはアジトをつきとめて数を把握しないとな」
「い、いや、多分、アジトは隣の部屋とかそういうことだと思うけど」
 というかうちの部屋にアジトなんて無いと信じたい。
「でも吹利のネズミってアレですよね。何か進化してるらしいですよ」
「……聞きたくないーっ」
 思わず耳を塞ぐ。
 やれやれ、と、いいたげな表情のまま、相羽さんが烏龍茶のグラスを手にす
る。
「……って、でも、鼠捕まえることは、多分、ネズミ捕りとかあればできるだ
ろうけど」
「まあ、ねえ」
「……掴まえたのどうするの」
 一番それがいいでしょ、と言われたのはとりもち状のネズミ捕り。以前使っ
てたのを見たこともある。だから効き目があるのは確かだと思うし、そういう
意味では使う価値ありそうなんだけど。
「え?水に沈めて処分するかねえ」
 ……軽く言わないで欲しかった。
「弱肉強食」
 おつまみ代わりのおせんべを齧りながら、桐子さんがあっさりと言う。
「……でも対してくうとこなさそうだし、食ってるもんから考えるとちょっと
ねえ」
「唐揚げとか割といけるらしいですよ」
 ってだからっ……!
「やーめーろーーっ」
「……あ、ごめんなさい」
「に、苦手なんですほんとに」
 みっともないとは思うのだけど、本当に涙出てくる。
「お詫びに、ネズミ退治、お手伝いします」
「い……いいんですか?」
「面白そうだし」

 どうしようか、と、相羽さんを見ると、手が多いほうがいいんじゃない、と
あっさり言われた。

「じゃ……移動、していいですか?」
「はいいつでも」
 軽やかに、桐子さんが言う。


 ……そして、一時間ほど後。

「こんなちまいのが怖いかねえ」
 もしかしたらあたしが思っているよりも、ネズミの数は多いのかもしれない。
買ってきたネズミ捕りを通り道に仕掛けて半時間。冷蔵庫に避難させておいた
お菓子を食べている最中に、ネズミはもう一匹引っかかっていたのだから。
「…………怖いんだから仕方ないでしょうっ」

 ちなみに、台所でネズミを検分しているのは、相羽さんと桐子さんの二人だ
けである。お前さんはそっちにいて、と、ネズミ捕りを仕掛けるところからこ
ちらに避難させて貰っているから、それでも会話が成り立っている。

「昔何か酷い目に遭わされたとか」
 ネズミの掛かったネズミ捕りを処理して、新しいネズミ捕りを置く。その処
理は相羽さんがやってくれているとかで、桐子さんはこちらの部屋に戻ってき
た。広げたお菓子の袋に手を伸ばしながら、ちょっと首を傾げてこちらを見る。

「……昔、そば屋でバイトした時に、朝一番で米洗ってたんですけど。そこも
結構ネズミが出るところで、一週間に一度、ネズミ捕りを仕掛けるんですよね」
 一番早く店に入って、皆が来る前にお米を洗い、炊く用意をする。それが当
時の最初の仕事だったんだけど。
「だから一週間に一度、床にちーちー鳴くねずみが……」
 必死になって逃げようとするネズミ達が、あたしがくると一斉に鳴き出す。
確かに向こうも必死だったんだろうけど。
「……そのちーちー鳴くねづみの向こうに、米を洗う鍋があったんですよね」

 まさか10も20も、ネズミ捕りがしかけてあるわけがない。だから避けてゆく
のに苦労はなかった。
 なかった、けど。

「やっぱり食べ物ある所には寄ってくるんですねえ」
 ポテトチップスをつまみながら、桐子さんはのんびりと言う。
 相当ネズミに慣れているのか。それともこれが普通なのか。
 後者だとすると……相当自分が情けない。

「米のなかにいたとか?」
 仕掛け終わったらしく、手を洗っているらしい音、そしてその後に相羽さん
がこちらの部屋に戻ってくる。
「それもあったっ!」
「まあ噛み付かれたりしなけりゃ、大したことは無いだろうけど」
 お菓子に手を伸ばしながら、相羽さんが首を傾げる。
「ああ、警察学校の寮はひどかったねえ」
「…………て、いた?」
「そりゃね」
 軽く言ってくれる……。
「建物もぼろいし侵入経路はやまほどあったし」
 想像するだけで何か涙出るんですけど。
「婦警の子も怖がってたけど、しまいにゃ慣れたよ?いすぎて」
「……慣れたくないっ」
 ともかくもそういう理由では慣れたくない。切実に。
「そこまで増えられて堪るかっ」
「まあ、さすがに建て替えてからは出てないみたいだけど。俺らがいたころは
一番ボロかった時代だし」
 懐かしそうに言うかな、そこで。
「雨漏りとか、ドアのたてつけも悪かったしねえ」

 いや、この家古いし。多分その当時の寮くらいにはぼろいかもだし。
 ……なんかほんとに、泣きたくなるんですけど。

「やっぱり猫飼いましょう猫。それもたっくさん」
 気がつくと、こちらを心配そうに見ていた桐子さんが、お菓子を持ったまま
力説してくれる。
「うちでは、猫とか飼えないから……」
「じゃあ引っ越し」
「引越しする金もないし、ここの家賃、鼠が出ても仕方ないくらい安いんで」
 
 結局、我慢するより仕方ない……んだろうな。

「んじゃ取った奴だけでも始末してくるわ」
 おせんべを食べ終わって、相羽さんが立つ。
「……お願いします」
「あ、じゃ、あたしも」
 慌てておせんべの残りを口につっこんで、桐子さんが後を追う。
 と。

「おっと」
「わあっ」
「え、何っ?!」


 …………考えてみれば。
 ここで付いてゆかなければ、良かったのかもしれない。
 そこで大人しく、こちらの部屋で待ってれば良かったのかもしれない。

 と――

 台所の真ん中に、てんと座っているネズミを見て、真剣にそう思った。


時系列
------
 2005年7月1日

解説
----
 ネズミ退治の其の一。この装備は現在の我が家の台所にございます(滅)

**************************************

というわけで、ではでは。



 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28900/28935.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage