[KATARIBE 28916] [HA06N] 小説『 behind of the Mask 』

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Date: Tue, 12 Jul 2005 00:01:03 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28916] [HA06N] 小説『 behind of the Mask 』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年07月12日:00時01分03秒
Sub:[HA06N]小説『behind of the Mask』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
5月22日の一件から、7月までに起こった、まあそういう普段の話。
チェックお願いします(ぺこり)>ひさしゃん
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小説『behind of the Mask』
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登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。
 軽部真帆(かるべ・まほ)
     :自称小市民代表。多少の異能あり。


本文
----

 時折考えることがある。
 善人であることの価値とか。
 ……善人であることのもろさとか。
 (無論自分が過去に善人であったというわけではないけれども)

 考えざるを得ない、というのが、本当かもしれない。

     **

「ホストに化けて張り込みしたことがあったねえ」
 こちらは思わず、グラスの冷酒にむせそうになったものだけれども。
「…………相羽さん、それ、化けたって言う?」
「さあ」
 相羽さんは笑いながら、水菜のおひたしを食べている。

「でも本職より指名きてたよ」
「……刑事さんやってるより、儲け多そう」
 半ば冗談の積りで言ったのだけど。
「悪徳ホストのあぶり出しが目的だったんだけどねえ」
 思い出すように、箸の動きを止めて。
「俺のがそいつより客とってたらしいよ」
 ……妙に納得が行くんですが。
「おかげでしっぽつかむのも楽だったけどね」
「って……」
「おネエちゃんにそいつの情報かたっぱしから聞き出したからね」
「……あー」
「とっつかまえてお店出るときにスカウトされたよ」
「……さもありなん」

 てか、本職のおネエちゃんをひっかけてた人だもの。
 悪徳ホストより、いざとなれば悪辣にもなれるだろう。

「あれ、でも相羽さん、お酒呑めないでしょ?」
 現に今、呑んでいるのはあたしだけなのだし。
 ……と思ったら、即答された。
「飲まないように飲ませる」
「……やっぱ、悪辣」
 言ってしまって、思わず顔を見たけれども。
 相羽さんはやはり平然として、魚の煮つけを食べている。
「むしろ『俺下戸なんですよ』とか言いながら会話の取っ掛かりをつかむんだ
よ」
 器用に魚の骨を避けて。
「なんでも使いよう」
 そんな風に、あっさりと。

 時折、自分の言葉を悔やむことがある。
 悪辣、と、多分おネエちゃん達は、この人に言ってきたのだろうと思う。実
際、それは悪辣と言われるだろうって話を、あたしも幾つも聴いている。
 でも。
 ……あたしは、言ってはいけないのだと思う。

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「まあ、捜査の為ならなんでもやったよ」
 それでもやっぱり、相羽さんの口調は軽い。
「…………そだね」
「張り込みの為に清掃員に扮したり」
「うん」
「史の奴はあれだ、近場にある幼稚園の先生に扮してたよ」
「おや」
「あっちもスカウトされたらしいよ」
「それは……適任だね」

 くすくす笑いながら、相羽さんは頷く。

 それは確かに。
 子供の相手とおネエちゃんの相手と、どっちを選ぶって訊かれたら、この人
は絶対おネエちゃんを選ぶだろうなとは思う(というより子供を相手に出来る
とは思えないんだが)。

 でも。

「見返りなんてないけどね」

 笑いながら、なんだけど。
 その言葉が妙に……耳に痛い。

 だから、つい手を伸ばして。

「ん?」

 頭を撫でるように叩いてみる。
 
「…………一般市民代表。ありがとうございます」
「ありがと」

 少し笑いながら、相羽さんはそう言った。

「護民官、だからね。義務は果たすよ」
「……そうだけど」
 確かに一面、義務なのかもしれないけれども。
 でも、あまりにきつい義務だとも思う。
 それに。

「…………あたしには出来ないことだから、さ」
「そういう仕事だしね」
「そう、だけど」
「俺だって、奴だって、豆柴くんだって好き好んで足突っ込んだ稼業だし」
 そう言って、相羽さんは少しだけ首を傾げた。
「……まあ、豆柴くんにホストは無理ってことは確かだけどね」
「それは同感」
 散々っぱら玩具にされて、帰ってくるのが落ちだろう。

「……ただ」
「ん?」
「ホストとか……そういう暗いとこに足突っ込める人、あんまりいないんじゃ
ない?」
「いないから、俺が行くの」
 にやっと笑って……自信ありげに。
「でも、そういうとこに潜んでるからね」

 それは、わかる。
 奇麗事で済むところに居るなら、そもそも犯罪沙汰は起こらない。
 だけど。

「…………だから」
 この人に掛かる負担は、尚更に大きくなる。
 悪辣な顔を、平然と作れる人だからこそ。

「誰かがつっこまなきゃ、炙り出せない」
「…………」

 そのとおりだとは、思う。
 そのことに、相羽さん自身納得して、否誇りを持って仕事をしているとも。
 ……でも。

 あたしが見ている範囲で、相羽さんが悪辣だったことはない。
 信頼して裏切られたことは無い。
 悪辣な顔は作れるだろうけれども、悪辣である人じゃない。

 ……そのことが。


 不意に、ぽん、と、頭を叩かれた。
「……?」
「野良猫はさ、屋根で昼寝してる、でしょ?」

 そういえばそんな風に、喩えたことがある。
 狼の相羽さんやピレネー犬の本宮さん、渾名どおりの豆柴君が走り回ってい
る間に、屋根の上で居眠りしている野良猫。
 あたしはそういう奴なのだ、と。

 …………ここまでそのとおりだとは、自分でも思いたくなかったけど。

「…………そだね」

 ぽんぽん、と、二度。
 慰められている、と、思う。
 ……情けない、話だ。

「醤油」
 ……へ?
「醤油、無い」
 
 思わず顔を上げると、相羽さんはテーブルの上の醤油刺しを困ったように眺
めていた。

「醤油が尽きてる」
「あ……ごめん」

 流しの下の扉を開けて、醤油を継ぎ足す。
 
「はい」
「どうも」


 ご飯をつくって、お弁当を作って。
 この人が悪辣な顔を作る、そのことを思うと、あたしの出来ることは本当に
僅かでしかないのだけれど。
 
 せめて、その程度はしたいと思う。
 否、その程度は、当然だと思う。

 護民官、と、相羽さんは言う。
 ならば護られるほうは、護られるだけでは申し訳が立たないもの。


「お味噌汁、お代わりある?」

 相羽さんが、そう言った。


時系列
------
 2005年6月頃。

解説
----
 5月22日後、またご飯を作り出した頃の話。
 まあ、こういう話しながらご飯食べてるんでしょうね。
************************************************

というわけで、ある日の会話です。
……ベタずは……ねんねしてたんだろう(え?)

ではでは。



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