[KATARIBE 28910] [HA06N] 小説『街角を走る魚達』

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Date: Sun, 10 Jul 2005 20:45:37 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28910] [HA06N] 小説『街角を走る魚達』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年07月10日:20時45分37秒
Sub:[HA06N]小説『街角を走る魚達』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
ふと、出くわした、本日の風景です。
べたずお借りしました>ひさしゃん。

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小説『街角を走る魚達』
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 登場人物
 --------
  軽部真帆(かるべ・まほ)
   :自称小市民。異能あり。ベタずになつかれている。

本文
----

 梅雨と夏を交互に繰り返すような毎日。
 でも今日は綺麗に晴れて。
 ……その分、この街は相当に暑い。

 ねずみ退治は、妙に時間が掛かっている。
 何でも、『根っこは潰したが、そこから派生したネズミについては各個撃破
のみが有効』ということらしく。
 結局……相羽さんにはずっとお世話になるばかりで、流石に……気が引ける
のだけど。
 

 日陰を選んで歩く。常日頃昼間に外を歩かないから、どうしても陽光が眩し
くて仕方ない。
 ブロック塀の影は、案外長く歩道へと伸びているのに。
 トマトの鮮やかな朱の色や、茄子の濃い紫。何より街路樹の、油絵の具を叩
きつけたような緑の色。
 陽光の下で、それらの色は尚更に鮮やかで。
 それらの店を越えて、少し歩いて。

 ……と。
 きゃらきゃらと笑い声がした。それも複数、高い子供の声。
「?」
 そして、アスファルトを元気に蹴る足音。やっぱり複数。
「……?」

 所謂、市民センターみたいなところなのかな。建物と道路までの間に少し幅
があり、植え込みや小さなベンチで少しずつ区切られている。その間を子供達
が走り回っている。
 ピンクの、たっぷりとタックを取ったドレスと揃いのリボンの女の子。白い
ワンピースに青いリボンを飾った子。小さな花柄のドレスの子もいる。女の子
が殆どだが、中には真っ白なワイシャツと黒い半ズボン、白い靴下と黒い靴の
男の子も居る。よく見ると女の子達も黒のエナメルの靴か、しっかりとしたサ
ンダルを履いている。

(……大丈夫かな、あれで転んだらお母さんもだけどあの子達も泣きそうだな)

 そんなことを思いながら、建物の入り口を見て。
『○○クラス ピアノ発表会』

(あー……成程ね)

 走り回ってる子は、殆どが小学校低学年。大体こういう会は、初心者から始
めて熟練者で終わるから、多分この子達は自分の出番が終わって退屈して……
それで『外出てなさいっ』と、親に叱られたんだろうなあ。
 ……それでこれだけ跳ね回ってると、ちょっと危険だけど。

 タックやフリルを一杯に取ったワンピースやアンサンブル。鮮やかな色合い
の一張羅を着て植え込みの間を走り回る子供たち。
 ……何かに似てる。いつも良く見ている、何か。


 などと思ってたら、案の定、走り回ってるうちの数人がこちらに来た。一番
前のお嬢ちゃんは、これはまた格別小さい。走り回っているうちの誰かの妹、
といった年頃のその子は、逃げるのに夢中になりすぎ……結果こちらにぶつか
りかけて、必死で回避したのはいいけれども、よろけてぺったりと道に座り込
む格好になってしまった。

「大丈夫?」

 問い掛けると、最初は痛みで泣きかけていた女の子は、あっけに取られた顔
になってこちらを見た。慌てて立ち上がる。その後ろからどうやらお母さんら
しい若い女性が、これも慌てて駆け寄ってきた。

「すみません、ほんとに」
「いえこちらこそ……ほらリナちゃん、ごめんなさいはっ?」
 あー……リナちゃん、何かそれどころでなく呆気に取られてるし。
「いえ、こちらこそぶつかりそうになっちゃって……怪我、無いですか?」
「ええ、全く……すみません」

 双方、深々と礼をして。
 そしてお母さんは、リナちゃんの手をしっかと握って、そのまま会場に戻っ
てゆく。

 走ってきた子の……小さい子特有の、赤いドレス。ふわふわとした布地に、
後ろで結んだ大きなリボン。
 何かに……似てると思ったんだけど、なあ。


 ……などと思いながら、そのまま歩いて相羽さんのところに行く。
 一応言い付かったとおり、左右を確認してから鍵を開ける。
 と。

「…………っとと」

 急降下。
 二匹の赤と青のベタが、玄関の扉にぶつからんばかりの勢いで飛びついてく
る。
「……どしたの一体」
 返事、無し。というか二匹揃ってえらい勢いでくるくる周りを廻った挙句、
目の前でぴた、と止まっている。
「そこで止まられると、何か入りにくいんだけど」
 言うなり二匹がぴゅっと後退する。並んで動いた筈が、しかし弾みでか、尾
びれを互いに絡ませる格好になったらしく。
「……だーから……」
 途端に互いに突っつきあいになるし。
「こーら、もうっ!」
 間に入ると、二匹はそれでもしばらくあたしを中心にくるくると互いを追っ
かけて、最後に右と左でにらみ合った挙句、ぷん、と、そっぽを向いた。
「ったく、あんたらは……」

 右に、赤のヒレをふわふわと流したベタ。
 左に、青のヒレをさらさらと纏ったベタ。

 …………あ。

「そうか、あんたらか!」

 思わず声をあげてしまった。
 二匹のベタはきょとんとしてこちらを見ている。

「さっきの子達……何に似てるかと思ったら」

 夏の気候に負けないような、鮮やかな色合いと。
 タックを沢山とっても大丈夫なくらい、薄手の……故に走り回るとひらひら
とするスカートや袖と。

 ……夏の街を、走り回る子供たちと。
 この部屋の中を、くるくる飛び回る魚達と。
 それは確かに、似ていて。

 夏の街の中を、走り回る鮮やかで小さな魚達。

 そんな風に思うと……少し、おかしい。


 気が付くと、ベタ達がそろそろと左右から近寄っていた。
 目が合うと、双方きょとっと首を傾げる。

「……いや、思い出してただけ」
 そこで首をますます傾げない。倒れるぞ。
「ご飯の用意にはまだ少し早いね。一時間くらい遊ぼうか?」
 遊ぶったって、所謂『おはなし』をするくらいのことしか、あたしには出来
ないんだけど。
 でも、そう言った途端、ぴうっと二匹は首の辺りから外れて、くるくるとま
た人の周りを巡り出した。
「その代わり、ご飯の用意してる時には、邪魔しないでよ?」
 ぷくー。ぱたぱたぱた。
 Yes の返事はもうすっかり憶えた。
 ……ついでに当てにならないのも、だけど。

 でも……まあ。


 残像を残して、赤と青のベタが飛び回る。
 さっきの小さな子供のように。
 冷蔵庫に買ってきたものを仕舞いながら、何だかおかしくておかしくて。

 
 いつかこの子達を、外に連れて行ってやりたいな。
 もっと広いところを、飛ばせてやりたいな。


 ぱたん、と音をたてて、冷蔵庫の扉が閉まった。


時系列
------
 2005年7月初め。
 
解説
----
 一張羅を着てても、子供はじっとしてないものです(しみじみ)。
 子供子供したベタの姿と、子供達を重ねる真帆の風景です。
**************************************

 てか、丁度そゆ場面に出くわしたんですがね。
 最初はかけっこだったのが、いつのまにかかくれんぼ。
 ……おいそこな嬢ちゃん。そのわんぴーすで身を伏せたら、
あとでおっかさんが泣くぞえ?……みたいな(笑)

 ではでは。


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