[KATARIBE 28908] [HA06N] 小説『 5 月 22 日……相羽〜3』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Sun, 10 Jul 2005 20:03:50 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28908] [HA06N] 小説『 5 月 22 	日……相羽〜3』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200507101103.UAA60942@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 28908

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28900/28908.html

2005年07月10日:20時03分50秒
Sub:[HA06N] 小説『5月22日……相羽〜3』:
From:久志


 久志です。
 こ、これで、終わりだ!!!読み返しなどせぬ!!!(しようよ

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
[HA06N] 小説『5月22日……相羽〜3』
===================================

登場キャラクター 
---------------- 
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。
 軽部真帆(かるべ・まほ)
     :自称小市民代表。多少の異能あり。

崩れ落ちて
----------

 繰り返し、繰り返し。
 ゆっくりと髪を撫でる手。

「……大丈夫」

 自分の中に降り積もったものを払うように。
 繰り返し、繰り返し。

 今まで、自分がずっと目を背けてきたもの。

 霧雨の日に負った傷。
 滝のようなシャワーに打たれて、パーカーの袖を噛み締めながら、一人で必
死に耐えていた。
 あの頃の自分は何を思っていたのか。
 泣いていたのか?
 怯えていたのか?
 孤独でつぶされそうになっていたのか?

 細い肩に顔をうずめたまま、背中に回した腕に力がこもる。
 しがみついた体は思っていたより小さかった。

「……大丈夫」

 繰り返し繰り返し、髪を撫でる手。
 するするとほどけるように、体中に絡みついた重苦しさが解けていく。

 ゆっくりと溜めた息を吐き出す。
 今更のように殴られた頬がずきずきと痛んだ。

「……ありがとう」 

 吐き出した息と一緒に零れ落ちるように。

 へし折れて、そのまま立ち上がれなくなることが怖くて。
 それでも、構わないほどに。

 もう一度、腕に力をこめてからゆっくりと体を離す。地面に膝をついたまま、
じっと見つめる真帆の頬を片手でぬぐった。

「…………ありがとう」

 かくん、と。
 糸が切れたように倒れこんできた体を抱きとめて、頭を撫でる。

 それでも。
 必要、だということか。


二色の影
--------

 あれから。
 倒れこんだまま、ぐったりと寝入ってしまった体を背中にしょいあげて。
 胸ポケットの携帯で、とりあえず無事に保護した事を史の奴に伝えて、自宅
へと歩を進める。

 三日間こいつはどんな生活をしてたのか?
 思わず疑問を感じてしまうほど、疲れきった体は軽かった。


 自宅の前で背後を軽く警戒して、部屋に入る。
 閉まったドアを確認してから、背負った体をベッドに寝かせて布団をかける。
そのまま、ずるずると崩れるように床にしゃがみこんだ。
 体中に深い疲労感が残っているが、霧雨の日からずっと胸に圧し掛かってい
たつかえは消えている。

 ひとつ、安堵の息をついて天井を仰いだ。

「……ん?」

 ふと、目の前をよぎったもの。

「……いまのは?」

 見上げた先、視界に飛び込んできた二色の影。

 片や鮮やかなヒレを大きく泳がせた赤い影、もう片方、えらぶたをこれでも
かとばかりにふくらませた青い影。半分透き通るような姿でふわふわと宙を泳
ぐように目の前でゆっくりとこちらに顔を向けている。
 その姿に見覚えはある、むしろ長年親しんできた懐かしささえ感じる。

 こいつらを飼い始めたのは、いつだったか。
 最初にこいつらを飼いだしたのは母親だった気がする。最初はさして興味が
なかった自分も、こいつらの鮮やかな色と威嚇する姿を気に入って……

 思わず伸ばした指先を二匹が揃ってつくつくとつつく。
 そこには確かにまぼろしではないふわりとした感触が残る。

「……夢、じゃないらしいね」

 つくつくと指先をつつく赤と青のベタ。ふわふわと手の周りにまとわりつく
ように泳ぎながら、二匹ぶつかって威嚇をしあって。
 思わず喉の奥からこみ上げる笑いをそっとこらえて、指先でそっと二匹をな
ぞった。

 しばらく指先をつついたりふわふわと周りを飛び回っていた二匹が不意に身
を翻した。そのまま二匹並んで廊下の奥へと泳いでいく。

 目で追った先、その部屋は。

 ドアの前、赤と青の二匹がばたばたとヒレを躍らせた。
 そして、赤いベタがドアの向こうへするりと消える。

「…………」

 取り残された青いベタがひとしきりエラを膨らませてヒレをばたつかせる。
 そして、赤の後を追うようにドアの向こうへと消える。

 あの部屋。
 もう何年、足を踏み入れてなかったのか。
 何年、目を背け続けてきたのか。

 冷やりとしたドアノブを掴んで、一瞬躊躇する。
 ひとつ息を吐いてドアを開いた。

 ふわりと感じる淀んだ空気。
 日の傾いた薄暗い部屋は、記憶の中の部屋と寸分たがわずそのままだった。
 壁に置かれた大きな本棚と、作業用の机、そして棚にはカメラのレンズが並
んでいて。
 足を踏み入れて、ゆっくり部屋を見回す。
 部屋のあちこちに飾られた額縁。
 そこに飾られた写真はどれも色褪せて、ずっと捨て置かれるままに積もった
ホコリがうっすらとガラスを覆っている。

 二匹のベタが、目の前でふわふわと宙を泳いでいる。

 目を閉じて耳を塞いで歯を噛み締めて。
 走り続けて、自分は何から逃げたかったのか。


 ああ、そうか。
 自分は辛かったのだ。

 苦しかったのだ。

 耐えられなかったのだ。

 この……傷に。

 何もかも投げ捨てて走り出さなければ、自分を保てなかった程に。


独り言
------

 どのくらい、佇んでいたのか。
 ふと、背後に人の気配を感じた。

「……真帆?」
「…………」

 一瞬、躊躇した雰囲気。

「親父の部屋だよ」

 息をついて、目を閉じる。

「親父が事件に巻き込まれて死んでから、ずっとそのままだった」
「………」
「……母親が死んだのはね、俺が中学入って間がない頃だった」

 あの日も霧雨が降っていた。

「買い物に行くと言って出かけたきり、二度と帰ってこなかった」
「…………」
「ひどい事故だったらしくてね、母親ばかりでなく巻き添え食った他の車の奴
らも、当の運転手もみんな死んだらしいよ」

 あの事故の後。どんなに頼んでも、母親の遺体は見せてもらえなかった。

「母親轢いた奴は、どんな奴か教えてもらえなかったよ、未成年だったしね」

 背後から二の腕に触れる手。

「親父を死なせた奴もね、結局裁かれなかったよ。捕まった時にはもう薬で体
ボロボロになっててね。起訴されたけど、判決が下る前に病院で死んだ」

 父も母も。
 自分ではどうしようもない所で、知ることも裁くこともできず。

「あの頃はさあ、莫迦みたいだけど、どうにもできなかったんだね。どこにも、
ぶつけようがなかったんだよ……」
「……大丈夫」

 ぎゅっと二の腕を掴む両手と、背中に感じる……感触。

「あたしは貴方より、長生きするよ」
「…………」
「最後まで、蹴飛ばしてやるよ」

「約束する」
「……ありがとう」


時系列と舞台
------------
 2005年5月22日
解説
----
 やっと自分の思いを確認し、閉ざされたままの父の部屋にて想う相羽。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。



 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28900/28908.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage