[KATARIBE 28900] [HA06N] 小説『 5 月 22 日……真帆〜 3 』

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Date: Thu, 7 Jul 2005 23:51:51 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28900] [HA06N] 小説『 5 月 22 	日……真帆〜 3 	』
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2005年07月07日:23時51分51秒
Sub:[HA06N]小説『5月22日……真帆〜3』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
ええ七夕ですね。

…………流してやるーっちくしょうっ

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小説『5月22日……真帆〜3』
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   登場人物
   --------
    相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。
    軽部真帆(かるべ・まほ)
     :自称小市民代表。多少の異能あり。

本文
----

 少しざらつくような肌触りと、今まで気がつかなかった煙草の匂い。
 何度か見たことのある灰色のスーツ。

 意識の全てを、覆い尽くすように。

 ふと、脳裏を過ぎる言葉。
  (此こそわが骨の骨わが肉の肉)
  (かすめるように)


 肩と背中が軋んだ。
 痛い、というよりも、押し潰されるように。
 ふと、手を掴まれた時のことを思い出した。
 あの時は悪夢から逃れる為。そして今は多分……現実にある恐怖から逃れる
ために、この人は縋りついているように思えた。

 耳元の呼吸音。ほんの少しざらついて、荒い音。
 まるで泣くのを堪えているような。

「……真帆」

 その声が、そして微かに残る息の音が。
 耳に焼きつく。

  (此こそわが骨の骨わが肉の肉)
  (どこかで聞いたその言葉)
  (どこで)

 
 不意に、引っ張られた。
 膝が折れる。そのままずるずると引っ張られるままに座り込む。
 廻された腕だけはそのままに、熱を持った頭が肩に押し付けられる。
 そしてようやく気が付く。
 ……相羽さんが、崩れたのか。

 震えが伝わってくる。
 荒く小刻みな呼吸音。呼気の音。まるで。
 (まるで、泣いているような)

「……大丈夫」

 どうしたらいいか判らないまま、手を伸ばしていた。
「泣かないで」
 
 刺された日の夜、まるで夢の中で呟くような声を聞いた。
 降り積もったら立てない、折れてしまう、と、この人は幾度も。
 それでは今は。

「立てるから。大丈夫だから」

 ただ、辛くて。
 この人の恐怖が、呼吸音と一緒に流れ込んでくるようで。
 だから抱きしめた。

「……立てるかね」

 かすれるような声が、そう呟くまでにはどれだけの時間があったろうか。

「立てるよ。当たり前だよ」
 折れることは辛い。折れることは怖い。
 ……でも、それでも立てる。
「倒れても立てる。あたしは知ってる」
 込められるだけの真実を込めて。
 
「……倒れなきゃ、わかんないんだよ……ね」
 呟くような、泣くような声。
「倒れるまでが、怖くてしょうがないんだ」
 言葉と同時に、震えが大きくなる。
「倒れる前から、あたしは、大丈夫だって知ってるから」
 どうやったらこの人の恐怖を押し留められるのか。
 どうやったら。
「……心配しなくていいから」
 震えを止めたくて、腕に力を込める。
「信用できなくてもいいから」
 俯いたままの顔。
 表情は判らない。
 ただ、呟くように。
「…………倒れたら、立ち上がれない、って思ってたから」

 倒れたら立ち上がれない。
 折れてしまえば進めない。
 目標も、願っていたことも……否、今まで握っていたものが、全て崩れてゆ
く怖さ。

 それが……痛くて辛くて。

「ばっか言え」
 でも。それでも。 
「あたしは、真ん中から折れて……でも生きてるよ」
 折れたら死ぬと思っていた。死ねると思っていた。
「無様だけど、生きてる」
 死ねない己の不甲斐なさと情けなさが辛くてならなかった。
 どうして死ななかったか。何度そう思ったか判らない。
 ……それでも。
「あんたが、立ち上がれないわけないでしょ」

 腕の中の震えが、ふと、止まった。

「…………無様でも、何でも」
 溜息のように。
「……また……立ち上がる、か」
 微かな声、だったけど。
「そう」
 肯定して……気が付く。
「……だから、大丈夫」

 大丈夫、何があっても。
 あたしはその言葉を、ほんとうのものにするから。
 し続ける……から。

 廻された腕に、力が込められる。
 ……莫迦力。そんな単語がようやく浮かんで。
 思いつくほどのゆとりが無かったのだと……その時気が付いた。
 
「……ありがとう」

 涙がこぼれた。
 
     
 そして同時に思い出した。
 記憶から甦ってきた言葉の出処を。

  (此こそわが骨の骨わが肉の肉)

 ―― 知ってる?アダムって最初は、男性と女性がくっ付いた姿だったって。
 ―― だって神様って、男じゃないし女じゃない、その両方を全部含むから。
 ―― だから、本当は男性と女性が一体だったのを、切り離して男性と女性
    にしたんだって読み方が、ユダヤ教にはあるの。

  (そう教えてくれた子の、きらきらとした目)

 多分。
 恋愛かといわれれば、多分そんな生易しいものじゃないと答えるだろう。
 この人は……相羽さんという人は。


 あたしの半分だ。


時系列
------
 2005年5月22日

解説
----
 一つの結論を出した真帆。

*******************************************

………ええ、七夕ですからええ!!
(ごろごろごろごろ)

あとは任せますっ>ひさしゃ
ではでは。



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