[KATARIBE 28896] [HA06N] 小説『5月22日……真帆〜2』

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Date: Wed, 6 Jul 2005 00:48:34 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28896] [HA06N] 小説『5月22日……真帆〜2』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年07月06日:00時48分34秒
Sub:[HA06N]小説『5月22日……真帆〜2』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
がすがすドーピングして書いてます(いや音楽ですけど)。
久志さん、本当に有難うございました。
……続けます。

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小説『5月22日……真帆〜2』
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登場人物
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 軽部真帆(かるべ・まほ)
   :自称小市民代表。多少の異能あり。  
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。

本文
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 不思議な言葉を聞いたと思った。
 どうしてだろうと思った。

 公衆電話の、薄緑の受話器を置いて。
 少し曇ったガラスの内側から、空を見る。

 どこにいる、と。
 行くから、と。
 
 ……会いたい、と。


 どこにいるかわからなかったから、そう言った。
 ほんとうに適当に、道を選んだから。
 周りの建物。くすんだベージュ色のアパート群。半端な空間と公衆電話。

『待ってろ、探す』
『お前動くな』

 公衆電話の硝子の扉を押して、外に出る。
 陽射しの割に……風はまださらりとしている。
 共鳴し、響き渡るような空の青。

 ……あんな声を出す人だったっけか。

 初めて会って、話して。
 何時でも驚かず、何時でも余裕綽々で……だからこそ口惜しいと思ったこと
もある。
 
『待ってくれ!!』

 喉元をしっかりと掴んで離さぬ腕のような。
 そして……まるで。
 泣いているような、かすかな声。

 (もう会えない、と、一度は言った声が)


 …………硝子戸にもたれて、そのまま座りこんだ。
 硝子に映る空もまた、青くて。

 会わないほうが……良いのかもしれない、と、どこかで思っている。
 だけど。
 
 …………ごめんなさい。だけど。

 
        **

 さらさらと。
 夏至まであと一ヶ月の陽光は、それでもゆっくりと傾いてゆく。
 微かに橙の色を混ぜた空を見上げる。もう何度目かに。

 耳に届く足音。少し引きずるような。
 降ろした視線の先に。

「……相羽さん」

 口の端から血がこぼれているのが目に付いた。

「……莫迦だねえ」
「莫迦だよ……」

 くしゃ、と、口元を歪めるように笑う。
 その顔も。

「史の奴におもきしぶん殴られた……」

 言いながら手を上げて、腫れたところに手をやっている。
 ああ……道理で。
 思っただけで……なんだか笑えた。

 ああ、そうだ。
 あたしは。

「…………会えないと、思ってたよ」
「……そう思ってた」
 静かな声が、そう肯って。
 
「けど……愕然としてた」
 
 斬り捨てられる、その理由も判っていた。納得していた。
 ……それでも。

「……それがね、どうしようもなく……辛かった」

 あたしは。

「ごめんね」
 
 斬り捨てる辛さも、降り積もることの怖さも。

「降り積もったら払ってやるって言ってたのに……積らせるばっかだったね」
「いや」
「電話しなければよかったね」
「……いや」

 一瞬ひどく辛そうな顔を、相羽さんはした。
 
「でも……」

 何時の間にか、手を伸ばせば届くところに立って。

「会えて……よかった」
「…………うん」

 あたしはこの人の名前も考えまいとしていました。
 考えたら会いたくなるから。声を聞きたくなるから。
 どうしても会いたくなるって、判っていたから。

 声を聞きたいと思った。
 代わりに死んでしまってもいいから。
 会うことが出来ないなら、せめて。


「…………会いたかった」


時系列
------
 2005年5月22日

解説
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 どちらが蜘蛛の糸で、どちらがカンダタなのか。
 そういう場面です。

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てなわけで。ではでは。



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