[KATARIBE 28890] [HA06N] 小説『 5 月 22 日……史久』 (後編)

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Date: Tue, 5 Jul 2005 21:28:26 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28890] [HA06N] 小説『 5 月 22 	日……史久』 (後編)
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年07月05日:21時28分25秒
Sub:[HA06N] 小説『5月22日……史久』(後編):
From:久志


 久志です。
 史兄怒れ(久志の代わりに)

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[HA06N] 小説『5月22日……史久』(後編)
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登場キャラクター 
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 本宮史久(もとみや・ふみひさ)
     :吹利県警刑事課巡査。屈強なのほほんおにいさん。昼行灯。
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。

握り拳
------

 県警を後にして、駆け出す。
 先輩が情報集めで出入りしそうな所は、大体目星はついている。

『留守電に、残ってて』
『……ごめんねって』

 片帆さんの悲痛な声がまだ耳に残っている。
 きつく握り締めた拳、手のひらに感じる爪の感触。

 相羽先輩。
 あなたは、本当に。
 どうして、わからないんですか。

『……友人だと、思ってるよ』

 ええ、そうでしょう。
 大切だと思ってるからこそ、危険に巻き込んでしまう自分から斬り捨てるこ
とで真帆さんを守りたいんだ。
 どうして、そういうやり方しかできないんですか。
 そのやり方で余計に傷つけてることを、どうしてわからないんですか。

 そうやって、何もかも斬り捨てて。
 傷だらけになって。

 本当に、大莫迦だ!


拳の痛み
--------

 吹利裏通りにある、裏情報屋の溜まり場。
 後ろ暗い連中が集う中、半分死に掛けたような目をした先輩を見つけるのは
すぐだった。

「先輩」
「……どしたん、史?」

 落ち着き払ったというより、半分魂の抜けたような目がちらりと見る。

 先輩。
 そんなに愕然としてるのに。
 それほど真帆さんを斬り捨てたことが痛いのに。
 どうして。

「……なんか用?俺、資料集めしてんだけどさあ」
「……相羽先輩」

 握りこんで、爪が手の平に食い込んだ拳が震えた。

「相羽先輩、あんたって人はっ!」


『あの人、死ぬ気です!』
 片帆さんの悲鳴のような声。


「この大莫迦野郎!!」

 振りぬいた拳に感じる重い衝撃。
 先輩の体が一瞬宙を飛んで、そのまま地面に倒れこんだ。

「ごほっ……」

 痛い。
 握りこんだ拳より、心が。

 相羽先輩。
 莫迦です、あなた。

「……随分手荒だね、史よお」
「ふざけるな!」

 倒れこんだ先輩の襟首をつかんで持ち上げたまま、路地の塀に押し付ける。

「どうして、わからないんだ!」
「…………」
「どうして認めないんだ!」

「真帆さんを斬り捨てたことが辛いんでしょう!失くしてしまうのが怖いんで
しょう!どうしてそんな簡単なことがわからないんだ!」
 襟首をつかんだまま、がくがくと先輩を揺さぶる。
「真帆さんが大事なんでしょう!必要なんでしょう!なのに、そんなやり方で
本当に守れるとでも思ってるのか!」
 先輩の答えはなく、揺さぶられるままで。
「必要なことがいけないか?すがってはだめなのか?!あなたの勝手なやり方
で、真帆さんがどんな思いをするか、どうしてわからない!!」

 だんだん目頭が熱くなってきた。

「……ついさっき、妹の片帆さんから連絡がありました」
 何も言葉を返さない先輩の襟首を離す。
「……留守電に、真帆さんからのメッセージがあったそうです」
 微かに先輩目の奥に動揺が走る。

「ごめんね、と」

 息を呑む音。
 お互い似たような何かを持っているからこそ、一瞬でその言葉の意味を理解
しただろう。

「……真帆さんを、止めてください」

 何故、あそこまで惹きあっているのか。
 そこまでは僕にはわからない。
 ただ、でも。

「あなたしか、できないんですよ」
「…………」
「僕にとって真帆さんは大事な友人なんです」
「…………」
「それから、相羽先輩、あなたもですよ」

 つかんだ手に力を込める。

「あなたも!真帆さんも!僕にとって真帆さんは大事な友人なんですよ!友人
が苦しんでいるのを放っておけるはずないでしょう!どうしてそんな事もわか
らないんですか!!」

 襟首をつかんだ手が緩んで、ゆっくりと先輩の体が崩れ落ちて行く。

「……どうして」

 じっと見つめていた先輩の顔が滲む。

「……どうしてわからないんですか……」

 目が熱い。

「お願いします……真帆さんを止めてください」
「……史……」
「あなたしかいないんです、お願いします、真帆さんを助けてください……」


時系列と舞台
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 2005年5月22日
解説
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 片帆の電話を受け、相羽をさがす史久。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。



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