[KATARIBE 28886] [HA06N] 小説『 5 月 22 日……史久』 (前編)

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Date: Mon, 4 Jul 2005 01:04:21 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28886] [HA06N] 小説『 5 月 22 	日……史久』 (前編)
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年07月04日:01時04分21秒
Sub:[HA06N] 小説『5月22日……史久』(前編):
From:久志


 久志です。
 なんとか終わらせたいこの騒動。
 まとまって書けないので書き次第流す方向で。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
[HA06N] 小説『5月22日……史久』(前編)
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登場キャラクター 
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 本宮史久(もとみや・ふみひさ)
     :吹利県警刑事課巡査。屈強なのほほんおにいさん。昼行灯。
 軽部片帆(かるべ・かたほ)
     :違和感の無い毒舌大学生。姉のことになると相当頭に血が上る。
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。

頑なな者達
----------

『俺になんか用?』
『既にわかってるんじゃないですか?』

 二日前のあの日から、僕は先輩とほとんど口を聞いていない。
 耳に残っているのは、二日前に問いただした時に聞いた先輩の声。

『とぼけないで下さい、真帆さんのことです』

 じっと見返す目はどこか光を欠いていて。

『……友人だと、思ってるよ』
『なら、どうして!』
『これ以上、巻き込むわけにいかないでしょ』

 お前ならわかるでしょ?と目で語りながら、それきり先輩は口をつぐんだ。
 それ以降、私事でいっさい先輩が口を開くことはなかった。


 つきぬけるような五月晴れの空の下。
 昼休み、コンクリートの照り返しがまぶしい県警屋上で、何度目かの電話を
かける。電話帳からでなくリダイヤルで番号を表示して、通話ボタンを押す。
 この二日の間、携帯の発信履歴はほとんど真帆さんと先輩の個人携帯の番号
で埋まっている。

「本宮です……すみません、何度も」
 一体、自分に何ができるのか。
「先輩のことで、お話ききたくて……本当に電話下さい」
 彼女は死なせないなどと、片帆さん相手にえらそうなことを言っておきなが
ら、僕自身が彼女に対してできることなど、どれほどのものか。
 二人に対して何ができたかというと、ほとんど何もできていないに等しい。
「また、電話します」
 こうして連絡を試みることで、真帆さんを少しでも引き止めることができる
とでも思っているのか。
 ただの思い上がりにすぎないのかもしれないけれど。
 僕にとっては真帆さんも先輩も大切な友人だし、これからもそうありたいと
思っている。僕の一方通行な想いかもしれないけれど。
 それでも、どうしようもない自分の無力さを噛み締めながらでも、似たよう
な歪みを抱えたあの二人を放っておくことなど、自分にはできない。
 先輩。
 真帆さん。
 あなた達がどれほど面倒で難儀な人だろうと、一度あなた達を大切な友人だ
と認めたからには、僕は絶対にあきらめません。しぶとい男ですから。


悲痛
----

 デスクにつたままため息をつく。
 結局、昼をとうに過ぎて、何度か電話をしたものの。結局真帆さんとは連絡
がとれなかった。
 いっそのこと、失礼を承知で彼女の家に訪ねようか。片帆さんにお願いして
立ち会ってもらって、と、まあ最終手段ではあるけど。
 先輩とも、手待ち時間で資料集めに行くといって出かけたまま、今だ戻って
きていない。行き場所には大体見当はつくけれど、あの頑なな様子だとまとも
にとりあってはくれないだろう。

 何もかもを投げ捨てた、色を失った目。

 先輩のあの目には覚えがある。
 お父さんを亡くした後。一人きりで、誰にも心を開かず、貼り付けたような
笑顔を浮かべていた先輩。

 どんなにわずかなことでも、力になりたかった。
 自分にできることならば、できる限りのことはしたかった。

 でも。
 どんなに長く顔を突き合わせていても、理解したいと思っていても。
 結局、僕はあの頃から何一つ先輩の力になっていなかったんだろうか?

 先輩を救うことができるのも、真帆さんを生かすことができるのも。
 自分ではない。

 僕にできることは、何もないのだろうか。


 ふと、胸ポケットに入れた携帯が震えた。

「もしもし?」
『本宮さんですか?』
「はい」
『軽部片帆です。真帆の妹の』
「……どうしました?」
 その声は、明らかに尋常でない。
『……姉から……留守電があって』
「真帆さんから連絡ですか?僕も何度も連絡したんですが……」
『あの人…………っ』
 その声は悲鳴にも近い声で。

「片帆さん?どうしました」
『留守電に、残ってて』

『……ごめんねって』

 一瞬、息をのんだ。
 その言葉の意味を理解して、その意味に背筋が凍る。

『あの人、死ぬ気です!』

 一番考えたくないことが。
 いや、ありえそうなことだとわかっていて、どうして。
 思わず携帯を握った手に力がこもった。

『……電話かかってきたのが、お昼くらい……あたし居なくて、バイト入って
て、今聴いて』
「お昼……」
 思わず腕時計を確認する、時刻は……三時半。
『……本宮さん!』
 悲痛な声が耳に痛い。
『死なせないって言ったよねっ!?』
「わかりました、なんとしてでも先輩を説得します」
 歯がゆさともどかしさと、無力さと。
「……あの人でなければ、真帆さんは止められません」
『……なんでもいい。ねえさんを、たすけて!』
 同じような気持ちを、片帆さんも感じているんだろうか。
『真帆姉を、生かして返してよ!』
「わかりました」

 先輩。
 あなたは、本当に。

 携帯を切って、席を立つ。
 向かいに座っていた同僚が一瞬驚いたようにこちらを見て、凍りついた。

「……史さん……ど、どうしたんですか?」
「石垣さん……すいません、ちょっと相羽先輩を探してきます。何かあったら
連絡をお願いします、すぐ戻りますから」
「……史さん、どうしたんですか……一体」

 青い顔をした石垣さんに一礼して、デスクを後にする。

 相羽先輩。
 あなたは、本当に。
 本当に。

 どうしようもない大莫迦だ!!

時系列と舞台
------------
 2005年5月22日
解説
----
 今だ連絡の取れない真帆と話をしない相羽に、史久は思い悩む。
 そして、片帆の悲痛な電話を受けて。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。

 つぎ、先輩を殴ります(史兄が)





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