[KATARIBE 28885] [HA06N] 小説『あやかしと怪談』

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Date: Sun, 3 Jul 2005 22:56:39 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28885] [HA06N] 小説『あやかしと怪談』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年07月03日:22時56分38秒
Sub:[HA06N]小説『あやかしと怪談』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
本体のねづみ騒動から始まって、真帆におっかぶせられ、ついでに吹利のあちこちで
ねづみぱにっくと化した『根の泉騒動(勝手に名前をつけないように>己)』ですが。
まあ、こういう風景もあったということで。

ベタずお借りしてます。

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小説『あやかしと怪談』
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 登場人物
 --------
  軽部真帆(かるべ・まほ)
   :自称小市民代表。多少の異能あり。ねずみが大の苦手。
  赤&青ベタ
   :ベタの姿のあやかし。ぷくぱたと宙を飛ぶ。怖がりであまえっこ。

本文
----

 どういう理由でかネズミが家で大量発生した。
 相羽さんに本宮さん、豆柴君まで巻き込んだ挙句、どうやらあまりに異常で
あると結論が出て。

『避難してていいから』
 その言葉に甘えて、相羽さんのところに泊めて貰っている。
 夜、ここに残るのは、当然ながら初めてで……故に何やら、ベタ達がえらく
喜んでいるらしい。


「怪談、かなあやっぱ」

 多分数日で戻れるだろう、と、相羽さんは言う。つまり夜、ここに泊まるの
は数回。これ以降そんなことはまず無かろうから(ネズミがまた大量発生でも
しない限り……それは相当御免だけど)。
 なら、夜、一緒に遊ぶには……と考えて。

「怪談、嫌い?」
 赤と青の二匹のベタは、揃って身体ごと斜めに傾く。
「好き?」
 今度は反対にことっと傾いて。

 まあ、もともとこの子達もあやかしなわけだし、そうそう怪談なんぞ怖がる
わけがないとは……思ったのだけど。

 ど。

「んじゃ、割とオーソドックスなところでまいりましょうか」

 牡丹灯篭とか鍋島の猫騒動は向かないっぽいし。やっぱりここは『むじな』
だろう。
 3本のロウソクに火を灯して、本を開く。小泉八雲の『怪談』。

「んじゃ、読むよ」
 青と赤のベタは、ロウソクの灯の向こうで並んでこちらを見ている。
 丸い目が、幼い子供のそれに似て、わくわくしているのがわかる。

「東京の、赤坂への道に紀国坂という坂道がある」

 話はほんとうに短い。そしてとても単純だ。泣いている女を男が後ろから宥
めてやると、不意に女が顔を手で撫でる……と。

「――見ると目も鼻も口もない――きゃッと声をあげて商人は逃げ出した。」

 ばたばたばたっと、急に青のベタが浮き上がった。わらわらと暫く跳ねた挙
句、慌てて赤のベタの横に戻った。
 ぺったりとくっついてる……のかな?あれ、結構怖がってる?

「しかしどんな明かりでも、どんな人間の仲間でも、以上のような事に遇った
後には、結構であった。」

 赤のベタが、こと、と、小さく身体を傾げた。
 青のベタも、少しほっとしたように鰭を振るわせる。
 ……てか、ほんっとに、怪談を初めて聞くちっちゃい子供みたいな反応だ。

「『へえ! その見せたものはこんなものだったか?』と」
 言いながら、左手を額にもってゆく。

「蕎麦屋は自分の顔を撫でながら云った――」

 そしてゆっくり手を降ろしながら、ロウソクを一つずつ吹き消して。
 一本残ったロウソクの向こうで、ベタ達の目がまん丸に(そしてやたら大き
く)なっていたような……気は、したのだけど。

「それと共に蕎麦売りの顔は卵のようになった……そして同時に」
 つるり、と、顔を撫でおえて。
 最後の一本を、ふっと吹き消して。

「灯火は消えてしまった」

 一瞬。
 綺麗に沈黙した。

 ……あれ、と思った。実際のとこ、これだけ怖がってるんだから、こちらに
飛んでくるかと思ったんだけど。
 …………あれ?

 と。
 ころ、と、小さな音が二つ。
「………………へ?」

 慌てて立って、灯を点ける。と同時に。
「あらら…………」

 テーブルの上に、ぺったりと横倒しになった、ベタ二匹。
 
「ちょっと待って」
 慌てて戻って、手の上にベタ達を乗せる。そっと二三度撫でるうちに、へろっ
としていた鰭の先が、ひくひくと動いて。

 途端に。

 ぴょいっと二匹のベタは手の上から飛び上がって、肩の上、首の辺りに左右
から突っ込んだ。

「……なに、どうしたの?」

 ふるふる震えているのが、よく判る、のだけど。

「てっか……ねえ、あんたたちと同じものよ?あやかしだよこれ?」

 ふるふるふる。これは多分首を横に振ってるの図だな。

「……悪かったってば」
 そっと手で受けて、首から引き離す。手の上で青と赤のベタはお互いぴった
り寄り添ったまま、ふるふる震えている。

「そんなに怖かった?」

 と、言い終わるか終わらない前に、手の上で二匹が大騒ぎし出す。

「あー……悪かった、ほんっと悪かった、ごめんっ」

 頭を下げると同時に、二匹がまたぴょんと掌を飛び出して、肩の上、首の横
に陣取る。
 ぴっとりと、首にくっついて。

「……てかね、一応あんたたちもおばけなんだけど?」

 って……ああわかったわかった、首の横でばたばたしないの。

「ったく……」

         **

 早手回しに言うと、それから丸々二日、二匹ともきっちり貼り付いて離れな
かったあたり……小泉八雲氏にとっては本望だろうと思いつつ。

「……これでいいのかなあ」
「仕方ないんじゃないの?」

 妖怪ってなんだろうなあ、と、考えてしまったのも、事実である。


時系列
------
 2005年7月はじめ。根の泉によるネズミ騒動の頃。

解説
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 一応あやかしとは言え、あまえっこで怖がりなベタ達には、背景付きの怪談
は、ちょっと迫力があったようで。
 なお、『むじな』の引用文については、青空文庫のそれを使わせて頂きました。
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まあ、何となく何となく(笑)
ではでは。


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