[KATARIBE 28869] [HA06N] 小説『風の記憶』

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Date: Mon, 27 Jun 2005 22:52:59 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28869] [HA06N] 小説『風の記憶』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年06月27日:22時52分59秒
Sub:[HA06N]小説『風の記憶』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
もしかしたらJになるかもな話ですが、ついでに書いちゃいます。
(いやわいたぞわいたぞになったのだっ)

先日の、如月尊嬢帰還ログ
(http://kataribe.com/IRC/HA06-01/2005/06/20050626.html#220000)
 から数日後の、真帆の風景です。

*******************************:
小説『風の記憶』
===============
  登場人物
  --------
   軽部真帆(かるべ・まほ)
    :自称小市民代表。平塚花澄と同期の留学生。

本文
----


   うちは 
   うつくしいまちで
   風のピアノを叩いている
   石の指に会いました

   まっさをな坂をのぼっていく
   鋼鉄のくるぶしを見ました
   雨の駅で
   コンクリートの肺と並んで
   何両もの列車を見送りました


    ――――――詩誌 ”楚” 5号より
       山本英子 『レモンと光るパン』 部分

            ***


 面白い人に会った、と、妹が連絡をしてきたのが一昨日。

「面白い?」
『姉さん的にはね』
 電話でも判る、どこか皮肉げな響きの声で。
『平塚花澄さんの、お友達だったってさ』

 
     (夢の中で、以前読んだ詩の破片を思い出しました)
     (そんな詩誌があったかどうかさえ、大概の人が忘れていそうな)

 
 花澄、という名前は、今でもやっぱりどこか鬼門のようで。
 でも決して忘れることが出来ない名前。
 記憶と精神にしっかりと刺さった、水晶で出来た杭のようなもの。

 花澄のこと。
 ここに住んでいた当時の、花澄のこと。
 偶に出会うことはあっても……ほんのそれは一瞬で。
 
 一体花澄がここでどんな縁を結んだのか。
 一体どんな風に、あの書店で過ごしていたのか。

 ……案外に、そう考えるとあたしは知らないかもしれない。


 そのうち、お姉さんと一緒にいらして下さいってことでした、と。
 やっぱり皮肉げに告げて、片帆は電話を切った。


 ……そして不意に花澄と一緒に読んだ詩の風景を、夢の中で思い出したのが
昨日の夢の中。
 
      (それ、高校の図書室の詩の雑誌で読んだ!)
      (あたしも)

 まっさをな坂を登る、鋼鉄のくるぶし。
 風のピアノを叩く、石の指。
 崩れそうな肺胞を幾つも重ねた、コンクリートの肺。

 それらの言葉で紡がれた幻想は、あの乾ききった風の国の砂ばかりの風景に
ひどく似合っていた。


 そして。
 そんなことを考えながら……今日は確かに妙に早い時間に目を醒ました。
 時刻は、5時。


    ウチハ
    ウツクシイマチデ
    風ノぴあのヲ叩イテイル
    石ノ指ニ会イマシタ


 あの国の、午前五時のまだ鋭いように冷たい風を思い出す。
 水の国では片鱗すら、つかめないその風を。

 ……多分花澄という記憶と、その風の鋭さが、あたしの中では結びついてい
るのだ。


 適当に髪をまとめて、外に出る。
 既に、周囲は明るい。

 皮膚感覚で残る風の記憶と、凪に近い今の状態と。
 その、齟齬に。
 少々の不快感と。

 
 ……あたしは尊さんというその人に会いたいんだろうか。
 それとも彼女に残る、花澄の記憶を知りたいんだろうか。

 それとも、その花澄の記憶に連動する、あの乾いた風の記憶に触れたいんだ
ろうか。


 …………何とも、人非人な発想では、ある。


 大通りに出るのは何だか面倒なので、適当に道を選ぶ。
 ゆっくりと上昇する坂。
 
 ……残念だ、せめて今日、もう少し風があれば、あの言葉の幻想がこの坂を
すれ違って進んでゆくだろうに。
 そうしたら。
 そうしたら、多分。


 と。
 道の向こうで何か動いた気配に振り返った。
 灰色の坂を、大きな三毛猫がゆらゆらと歩いていた。

 琥珀の目が、きろりとこちらを見て。

 やはりそれも
 杭のように。


    マッサヲナ坂ヲノボッテイク
    鋼鉄ノクルブシヲ見マシタ


 ―――― 一瞬。
 前頭葉の右半分。
 見える筈の無い風景。

 触れる筈の無い鋭い風――――




 気が付くと、時刻は6時に近くなっていた。
 猫はいつのまにか消えていた。
 だから……踵を返した。

 尊さん、と言ったっけか。
 その人に会ってみたいな、と、ふと思った。

 風の残像のような、その記憶ごと。


時系列
------
 2005年6月。如月尊が吹利に帰還した数日後。

解説
----
 もしかしたら、この話自体がJになる可能性はあるのですが。
 現在時点での話が、浮いてくるので仕方が無い(おい)
 この詩、本当に高校の頃に図書室の詩誌で読んだものです。
 ネットで探しても、ないんですよね、この全文。
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 てなもんで。
 ええ、のそのそしてる奴は……奴だと思います(笑)。

 ではでは。


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