[KATARIBE 28868] [HA20N] 小説『図書室通信』

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Date: Sun, 26 Jun 2005 00:23:54 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28868] [HA20N] 小説『図書室通信』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年06月26日:00時23分54秒
Sub:[HA20N]小説『図書室通信』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
西生駒の小説です。
……この委員なら書けるかなと(笑)

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小説『図書室通信』
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 登場人物
 --------
  石雲悠也(いしくも・ゆうや)
   :西生駒高校一年。沈黙を周囲に強制する異能在り。図書委員。

本文
----
 高校に入学して、もう3ヶ月近く経とうとしている。一応中間テストも終わ
り(まあ、結果は……おいておくとして)、それなりに何となく勉強のペース
も判ってきたような気がする。
 それと、この学校の図書室の様子も。

 入学して、一番嬉しかったのは、ここの図書室の充実度合いだ。
 妙なハードカバーの本が山ほど。幻想文学に化学、博物系。古典SFの全集
なんて、この図書館で初めて見たし、特撮(?)でUMAの骨を作って撮影し
ている写真集なんて、従姉の話に聞いただけの本だったのに。
 中には修理されている本もあるが、それも結構丁寧で、ここの図書委員が本
好きの集団であることを示しているような気がした。
 だから、クラスで委員を決める時に、迷わず図書委員に立候補した。

           **

「うん、図書委員に本好きは多いよ」
 図書委員の当番になった最初の日。
 そんな風に、一年上の先輩は言った。

 一旦委員会で集まって、一応仕事を教わる。そして最初の数回は先輩が一緒
に図書当番に入る。カードの書き方や保管場所。一度聞けば憶えられるが、一
度は教わる必要がある。一通りの引き出しの中身や棚の備品を示しながら、こ
ちらの問いに答えて先輩はそう言ったものだった。

「結局、新着本を決めるのは、図書委員と図書係の先生だし、先生も相当の本
好きだし……でも最近、基本として『自分の小遣いで買える本より買えない本』
ってのが言われだしてるから、文庫本は入りにくいかな」
「最近の本もそうですけど、古い本が凄いですね」
「もともと学校が古いしね。当時から結構書籍の品揃えは良かったらしいし」
 ああ、そういえばそんなことを委員会で先生が言ってたっけ。
「あと、結構、卒業生の人が寄付したりもするらしい」
「やっぱり元図書委員ですか?」
「他にも図書の先生とか。そこらの大学の図書室よりも、貴重な本があるらし
いし、だから卒業生も借りに来ることはあるらしい」
 無論その場合は、かなり貸し出し基準は厳しくなるけどね、と、先輩は言う。

 改めて、本棚を見る。
 確かに相当な冊数の本であるし、また背表紙から判断しても相当珍しいだろ
うと思われる本も、ざっと見ただけで数冊はあるのが判る。

「でも、そういう本盗まれたりしませんか?」
「そういうのを防ぐために、図書委員が居るんだけど」
「いや……そうですが」

 ちょっと口が悪いかもしれないけど、書籍を一番欲しがるのは、多分図書委
員だと思う。そうするとミイラ取りがミイラになったりしやしないだろうか。
 そこまではっきり言うのは流石に気が咎めたが。

「あと、図書委員の不正は、図書の先生が取り締まるしね」
 貸し出しカードに書き込む為の鉛筆を削りながら、先輩はさらっと言った。
「図書の、先生が、ですか」
「そう」
 尖らせた鉛筆の先端を、軽く叩きながら。
「結構怖いらしい」
「こわい?」
「……試さないほうが良いとは、言っとくよ」

 その口調が、どうにもこうにも冗談からは程遠かったので、そうします、と、
素直に頷くことにした。
 確かに卒業生にまで開放(ある程度であっても)されているなら、下手に不
法入手するよりも、きちんと規則を守っていつまでも借りられるほうが良い。

 奥の本棚で本を選んでいた女生徒が、本を持ってカウンターに来た。
「お願いします」
「あ、はい」
 本からカードを抜き取り、その人のカードを受け取る。名前を確認して本の
カードに書き付ける。
「じゃ、本のほうに書いて。返却日は2週間後」
「はいはい」
 え、と、顔を上げると、先輩と借りに来た人、両方が笑った。
「あたしも図書委員」
「……あ」
 カードに夢中で、そういえば借りに来た人の顔を良く見てなかった。

「結構ね、特殊な本は特殊な部の人が借り出すことがあるから、顔の確認もお
願いね」
 返却日を本の後ろの欄に書き込みながら、借りに来た図書委員の先輩が言う。
「特殊な?」
「オーリン・ヘイゲルの本は、結構弓道部の新入生が借りるね」
「そうそう、で、最初の数ページのとこにしおりが挟んだままで戻ってくる」
 先輩達は可笑しそうに言う。
「あと、オカルト研なんかは気をつけないと。結構図書委員にも居るんだけど、
新着本で選んだ本を速攻で借り出して部に持ってって、そしていつまでも戻ら
ないってことが数度あるから」
「……」
「いや、妙な本だと、結構先生が水際阻止するし、本当に危険なら持ち出し禁
止に指定されるけど」
「それを持ち出してってのは、確かにあるわ……まあ、最終的には戻ってくる
けど」

 でも、持ち出し禁止の本を持ってゆくってことは、要するに勝手に持ち出し
てるわけだし……大丈夫なのかなあ。

「だからほら、そこを図書委員と、図書の先生でチェックするの」
 はい、と、鉛筆を差し出しながら、先輩が笑った。
「君も本、好きでしょう?」
「好きです」
「そこを利用して、しっかり憶えてね。本」
「はい」

 改めて、本を見る。
 
 じゃあ、今日は頑張ってね、と言い置いて、先輩は本を鞄に仕舞うと帰って
いった。
 改めて、本棚を見る。
 わくわくするほどの、本の山。

「いいよ、ここ俺一人で大丈夫だから、少し本見てきて」
「いいんですか?」
「本棚の本を確認するのも、仕事だから」

 ほら今のうちにいってこい、と、手で払う仕草と一緒に。
 先輩は、笑ってそう言った。

          **

「いーしくもっ」
 図書室に向う廊下で、後ろからぽこんと殴られる。
「……先輩、殴るのを挨拶にしないで下さい」
「歩きながら本読んでるからだろ」

 結局、クラスの面子より、図書委員の顔と名前のほうを先に憶えた。
 部活動には入ってないから、余計にそうなったのかもしれない。

「何、借りてんのお前」
「古典SF集ですよ」
「ああ『超人』とか『ドウエル教授の首』とか?」
「……先輩、読んだんですね」
「そりゃまあね」

 どんな高校かと思ってたけれども。
 この図書室と、先輩達だけでも、入学した甲斐がある、と。
 最近思っている。


解説
----
 西生駒高校一年生の、石雲悠也の一人称小説です。
 西生駒(1995)でも、やはり図書委員が活動されてましたが……
 当時以上に、何だか妙な本が増えていそうです。この図書室。

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 てなわけで。
 ではでは。


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