[KATARIBE 28858] [HA06N] 小説『一張羅を着て』

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Date: Wed, 22 Jun 2005 01:29:17 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28858] [HA06N] 小説『一張羅を着て』
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2005年06月22日:01時29分17秒
Sub:[HA06N]小説『一張羅を着て』:
From:久志


 久志です。
 結婚するまでが結婚騒動です、という言葉のもと。
ゆっきーいっちょ決めました。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『一張羅を着て』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ) 
     :葬儀屋さんで霊感のある軟派にーちゃん。 
     :大騒動の果てに元恋人の美絵子を奪還する。
 藤村美絵子(ふじむら・みえこ) 
     :幸久の元カノ。ちょっと気が強いけどいいお姉さん。
     :長らく本音を封じてきたが、晴れて幸久と元の鞘に納まる。

幸久 〜高い敷居
----------------

 騒動あけて、早くも数日。
 あいつの気持ちと俺の気持ちはハッキリしたけれど。

 なによりも、ハッキリさせなきゃいけない相手がいる。

 ひとつ、深呼吸する。
 つまった襟元をすこし整える、ネクタイ歪んでないよなあ、髪も一応ちゃん
としてきたし、挨拶用の手土産も持ったし。
 一応、クロゼットから引っ張り出してきた、去年の冬のボーナスで仕立てた
スーツ……ってやっぱ黒なんだよなあ、仕事の時と見た目が大差ねえ。


 藤村家。
 駅からだとけっこう歩いたところにある、高校大学の頃に何度となく通った
美絵子の実家。ってなあ、敷居が高いんだよな。散々心配かけたしなあ。

 式場から娘さらって逃げた上に、美絵子を下さい、て。
 あの騒動の真っ只中の時は、美絵子のことを心配してた分、俺にまで気がま
わってなかったんだろうけど。
 いや、まあ、うん。親がなんと言おうと、かっさらってでも美絵子のやつを
つかまえるつもりで来たけど。
 正直、あいつんちの親父苦手なんだよなあ……

 もう一度襟元をそろえてから、インターフォンを鳴らす。
 数秒待って、美絵子の母親の声が聞こえる。

『はい、藤村です』
「こんにちは、本宮です」
『ああ、いらっしゃい幸久さん。すぐ開けますから』

 待ち構えてたように、って実際行くって話は通してあったんだけど。

「幸久さん、どうぞ、あがって」

 思っていたよりあっさりと、というか、むしろ歓迎モードと言わんばかりに
奥へと通される。
 変に身構えてた分、微妙に拍子抜けして、美絵子の母親にまねかるまま奥の
居間へと通される。

 広い畳の間、低いテーブルの前で胡坐をかいて、腕組みをしながら待ち構え
てたのは…………美絵子の親父。

「お邪魔します」
「よく来たな」

 鷹揚と頷く姿は妙に迫力があるというか。

「はい、改めてご挨拶にまいりました」
「まあ、座れ」
「はい……」

 って、おい。
 親父さんの背後にさりげなく置いてあるのは、俺の目が曇ってなければ木刀
のようなものに見えるんだが、気のせいじゃ……ねえ、よな。
 対面に正座して、真っ直ぐに目を合わせる。その目はかなり険しい。
 くそ、やっぱりただじゃすまねえか。

「いらっしゃい、ユキ」
「お父さん、これ幸久さんが持ってきてくださったのよ」

 重苦しい沈黙の中、おずおずとお茶と菓子を持ってきた美絵子と美絵子の母
親がそれぞれ俺の隣と父親の脇に座る。

 俺の隣に美絵子。
 じっと俺を睨みつける父親の様子をうかがう母親。

 相手を見据えたまま、ゆっくり両手を畳につく。

「このたびはご心配をおかけしまして申し訳ありませんでした」

 一息で言い切って、頭を深々と下げた。
 ひとつ、ふたつ、みっつ。ゆっくり数を数えながら、相手の反応を待つ。
 怒鳴られるか、殴られるか。どっちにしろ、甘んじて受ける覚悟はしてる。

 って、反応ねえし。

 ゆっくりと顔をあげると、親父さんは微動だにせず俺の顔をじっと睨みつけ
ている。ただ睨みつけているだけで、怒鳴りつけもしないし怒りもしない。
 この展開はちょっと想定外だけど、ここは当初の予定通り、きっちりアレを
言わないと、だよな。

「ご迷惑をおかけしながら、本当に勝手なことですが」
「…………」

 ここは決めろ、俺。
 隣に座った美絵子が、ぎゅっとスーツの裾をつかんだ。

「お嬢さんをください、お願いしますっ」

 言い切るか言い切らないかの一瞬。
 目の前で木刀が空を切った。

「きゃあ!」
「お父さんっ!」

 美絵子と母親の悲鳴が聞こえる。
 そのまま一直線に振り下ろされる。

「んなっ!」

 とっさに顔の前で両腕を交差させ、受け止めようとして……

「……え?」

 交差した腕のすぐ前、木刀がすんでのところで止まっている。

「本宮幸久!」
「はいっ!」
「神でも仏でもなく俺に誓え!」

 隣で美絵子が俺の上着の袖をしっかりつかんでる。

「娘を幸せにすると!」
「は、はいっ!」
「絶対、裏切らないと!」

 その声が一瞬裏返ったように思う。

「誓うか!」
「誓います!」

 止まる空気。

「以上だ!」

 ぐいと袖で顔を拭うと、そのまま振り向きもせず部屋を出て行く。

「お父さんっ!」

 慌てて後を追う母親を尻目に、思わずその場にへたりこんだ。

「ユ、ユキ、大丈夫?」
「……ああ」

 後ろから支えるように美絵子が二の腕をつかむ。

「……びびった」

 深々とため息をつく。
 ていうか、なあ……うん。気持ちはわからんでもねえけど。
 し、心臓に悪い。

「でも、良かった」
「…………ああ」

 とん、と。そのまま背中に美絵子が額を寄せる。

「あのさ」
「ん?」
「……誓ったからさ」
「うん」

 てかこう、なんだかなーもう。

「……愛してるよ」
「……うん」

 あーーーー柄でもねえ。

 でも。
 ああ。
 やっと、カタついた、よな。


時系列と舞台
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 2005年4月2日
解説
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 騒動終わって一息ついて。改めて藤村家に挨拶に行く幸久。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
以上。


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