[KATARIBE 28843] [HA06N] 小説『貫く』

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Date: Sun, 12 Jun 2005 00:46:29 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28843] [HA06N] 小説『貫く』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年06月12日:00時46分29秒
Sub:[HA06N]小説『貫く』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
くぴくぴ呑みつつ、ふと。
……ほんっと、一時間かそこらでの断片です。

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小説『貫く』
===========
  登場人物
  --------
   軽部真帆(かるべ・まほ)
    :自称小市民。理によって立つ。


本文
----

 もしそれが必要が無いなら切り落しなさい。

 だから左の腕を切り落した。

 痛みも無く感覚も無く、ただ腕が落ちる重い音だけが響いた。
 それだけが、奇妙にリアルに。

 ごとん、 と。

        **

 カーテン越しに街灯の光がぼんやりと部屋を照らしている。
 枕元の小さなベタは、タオルの上でぐっすりと眠っている。
 跳ね起きて……そして咄嗟に見たけれども、微塵も動く気配すらなく。

 ……すこし、ほっとした。

 左の腕を、上げる。 
 うん、ちゃんとあるな。

 夢の中で、確かにあたしはそれを夢だと意識していたし、だから斬られた腕
が痛まないことも不思議には思わなかったけど。

 ごとん、と。妙にリアルな音。
 それだけが、怖かった。
 
 青いベタは、やっぱりぼんやりと光りながら眠っている。
 ある意味太平楽に、眠っている。
 
 
 必要としないならば切り落せ。
 必要としないならば……


 一瞬、後ろめたいと思う。
 しかしその次に、後ろめたいと思うほうが間違えていると思う。
 必要と思わないならば、そもそも自分の近くにあるほうが間違えている。
 間違いは、正すべきであろう。


 後ろめたいと思うこと自体が、自分としては間違えているのだ。そもそも後
ろめたいという発想を抱けるほどに人に近づくことを止めようと、あたしは5
年も前に決めていたのではないか。

 六華を受け入れること。
 そこから全て、狂っていった。
 でも、未だにそこに戻して、不都合は無い。

 流石に本が無ければ、あたしも困るだろうけど。
 でも、人は別に必要無い。
 これは、別に自分が孤高を保てるとかそういう優越感に基づくものではない。
寧ろ人との関わりが出来ない(不可能)、と、あの時に悟った結果に依るのだ。


 ありがたかった。それは、素直にそう思う。
 本宮さんのことも。
 そもそも呼び出しかけてくれたゆっきーさんのことも。
 お菓子一袋で、幾らでも愚痴を聞いてくれた相羽さんのことも。
 一緒に話しててとても楽しかった。大いに笑うこともあった。
 ありがたいし、もしも居なくなったら悲しい。それは当たり前のことだ。

 けれども。
 それは置き換えの利くさびしさであり、順応の可能な悲しさである。
 
 自分が斬られるということ、自分が離れてゆくということ。
 それを、何か特別のことと思うこと自体が、思い上がりであり事実に即さな
い論理でしかない。
 そう、夢と同じだ。左腕が無くなるってのはとても怖いことだし、もし本当
にそうなったら、あたしは相当落ち込む。
 けれども、もしも、命と左腕と、どっちが大事ですかといわれたら。

 左腕喪って生き延びることを、あたしは選ぶだろう。


 友人は、左腕のように大事だ。
 ……そういうことなのだと、思う。


 青くほの光るベタを、一度見て。
 もう一度、寝転がって枕の位置を確認する。

 明日は、この子を連れてゆこう。
 そして、赤いベタを……喜ばせよう。

 
 そもそも私は誰も必要としないことを前提に、穢土に生き長らえることを肯
定されたのではなかったろうか。
 で、あるならば。

 薄暗い部屋の中で目を細める。
 まるでそうでもしなければ、正解が判らないほどに、自分が愚かであるかの
ように。


 明日は、この子を返しに行こう。
 できるだけ早く、あるべきところに戻してやろう。

 そして。

 あるべき場所に、あたしもまた、戻る。


 戻ろうと、思う。


時系列
------
2005年5月半ば。『夜半』と時間的には繋がってます。


解説
----
確信というもの。半端では無いもの。
そういう、風景です。
……でも夢の中の音って、どうやって出るんですかね。怖かったですよー。
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てなとこです。
ではでは。



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