[KATARIBE 28829] [HA06N] 小説『結婚騒動 エピローグ〜謝罪行脚』

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Date: Tue, 31 May 2005 00:50:36 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28829] [HA06N] 小説『結婚騒動 エピローグ〜謝罪行脚』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年05月31日:00時50分35秒
Sub:[HA06N]小説『結婚騒動 エピローグ〜謝罪行脚』:
From:久志


 久志です。

 結婚騒動にちょぴっと追加、ある意味後日談です。
秘密のベールに隠されていた(大げさ)本宮家の父の正体が少し明らかに。

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小説『結婚騒動 エピローグ〜謝罪行脚』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ) 
     :葬儀屋さんで霊感のある軟派にーちゃん。 
     :大騒動の果てに元恋人の美絵子を奪還する。
 本宮史久(もとみや・ふみひさ) 
     :吹利県警刑事課巡査。屈強なのほほんおにいさん。昼行灯。
     :なかなかに只者でない。
 その他色々:迷惑かけられたり心配したり暗躍したり。

幸久 〜社長室で
----------------

「本当に申し訳ありません」

 事務所の二階にある社長室。
 がっしりした本棚に囲まれた広い部屋の中、真ん中におかれた広い事務机で
両手を机に置いたまま座っているおやっさんの前で深々と頭を下げた。
 あの騒動から一日。一時間早めに家を出て、常に誰よりも早く出社している
社長に挨拶にきた。
 よく考えても見れば、母さんと旧知であり俺の勤め先の責任者である小池の
おやっさんに話が行くのは、常識的に考えても母さんの天然で人騒がせな性格
から考えても当然のことで。

「ご迷惑と心配をおかけしまして、本当に申し訳ありません」
 黙って聞いていたおやっさんが、ひとつ息をついて小さく笑った。
「そりゃ心配したよ。最初麻須美さんから電話をもらったときは、どうなるこ
とかと思ったからね」
「……申し訳ありません」
 どんな理由があろうと小池のおやっさんには本当に申し訳ない。調査の為に
無理言って仕事休んだ挙句、こないだの逃亡劇で散々おやっさんにも会社の連
中にも心配をかけて……
「個人の事情とは思ったけど、史久くんから色々話を聞かせてもらったよ」
「……はい」
「しかし、どんな事情があろうと、社長という立場からお前を叱らなければな
らないね」
 頭を下げたまま、思わずびくっとする。
「顔をあげなさい」
「……はい」
 温厚なおやっさんがいつになく険しい顔でこっちを見てる。
 思わず両手を握り締めて背筋を伸ばす。
「社会人として、責任ある行動をとってもらいたいものだね、幸久」
「……申し訳ありません」
「お前の処置はそれなりに考えさせてもらう、まずは心配をかけた皆にきちん
と謝罪しなさい。ただし仕事に遅れをださないように、いいね?」
「はい、すみませんでした」
 もう一度深々と頭を下げる、なんかもう本当に申し訳ない。

 顔をあげるとおやっさんと目があった、思わず体が硬くなる。、
 しばらく俺の顔を見ていたおやっさんが、ふっと笑った。
「ああ、それと。私個人の意見で言わせてもらうとね」
「え?」
「よかったな、幸久」
 あう。
「おやっさん……マジ、すいませんでした」
 もっかい深々と頭を下げる、もう、顔があげらんない。
 ああ、もう何回目だよ、これ。


史久 〜県警で
--------------

「本当に申し訳ありませんでした」

 吹利県警刑事課。
 現在課長が研修で不在の為、直属の上司は課長補佐である奈々さんで。
 じっと僕を見つめる奈々さんの目はまっすぐで険しい。
「親族の火急の問題だったとはいえ、職務放棄ととられてもしょうがない行動
をとってしまい、本当に申し訳ありませんでした」
 刑事課デスク、いわゆるデカ部屋で、相羽先輩や同期の石垣さんをはじめと
した刑事課同僚が見ている中、深々と頭を下げた。
 一応、有給を願い出て式場へ向かったわけだけど、ほとんど強引に県警を飛
び出したようなものだし。それに警察官という職業に限らず、社会人として身
勝手な行動は一番恥ずべき行為だ。
「事情はわかりました」
「はい」
「家族を思いやる事は、とても大切なことだということも理解します」
「はい」
「ですが」
 端整な眉がきゅっと寄る。一見すると年より子供っぽく見られてしまう奈々
さんだけど、真剣になったときの顔はとても厳しくて、怖い。
「今回の身勝手な行動を許すわけにはいきません」
「……はい」
「反省文と始末書提出、正式な処分は協議の末決定します。よろしいですね?」
「はい、申し訳ありませんでした」
 もう一度、頭を下げる。

 本当に、もう。
 困ったもんだ……


幸久 〜職場で
--------------

「ユキさぁん、聞きましたよぉ〜」

 にやにやと楽しそうな顔で、話しかけてきやがる。
「んだよ、お前」
「しらばっくれちゃだめですよお。元カノの結婚式にのりこんで花嫁奪って逃
げたって話じゃないですかあ。俺、ユキさんのお兄さんに呼ばれて証言しまし
たよお」
「…………」
 なんか言ってやりたいけど。
 こう、何一つ言い返せない。つうか、ほぼ事実ってのがまた痛い。
「さっすがユキさん!いやあ、うらやましーっす。俺、ユキさんの代わりに存
分に働かさせていただきましたよお」
「……すまん」
「いーえ、どの道サミシイ一人身ですから、バリバリ働けるんですけどねー」
「ホント悪かった……絶対埋め合わせすっから、すまん」
「いやあマジっすかあ、そーいや最近吹利本町に美味いアジア飯の店見つけた
んですよねえ〜」
「わかった!わかった!おごるから!ホント、悪かったって!」
 ああ、ちくしょう。
 思いっきり楽しそうに笑ってやがるしっ。

「おー幸久ぁ、聞いたぞおー」
 と。
「本宮さーん、聞いちゃいましたよー」
 え?
「お、幸久くん。やったなあ」
 って、おい。俺囲まれてる?

 勘弁してくれえっ
「ほら、ユキさん、まだ就業時間開始まで時間ありますから」
 待て、おい。
「さあ、話聞かせてもらおうか、幸久」
「聞きたいですっ、幸久さん」
「楽しみだなあ、幸久くん」
「……あの、待って、待てって」
「いやーユキさん、みんな心配してたんすよー」
 それを言うかよ……
「お話、聞かせてくれますよね、ユキさん?」
「ううう」

 ちきしょおおおお。


史久 〜あの息子にしてこの親
----------------------------

 こってり奈々さんに絞られた後。デスクに座って深々とため息をついた。
「災難だねえ、史よお」
「……楽しそうですね、先輩」
「そら、他人の不幸は蜜の味だよ?」
 喉の奥からくつくつと笑う先輩を横目に、もう一度ため息をつく。
「しかしまあ、あのやんちゃな三男坊が大胆なことやらかすもんだ」
「……ええ、まあ。突っ走るときは大暴走な奴ですし」
 まったく、しょうがない奴だよなあ。

 あのまま会議放り出して県警を飛び出したせいで、提出しそびれてしまった
しまったレポートを書くために、先輩に貸してもらった会議のメモを眺める。
 レポートを書きながら、ふと個人携帯を見ると着信履歴が一件。
「あれ?」
 発信元は……
「すいません、ちょっとだけ席を外します」
「またあ?」
「……すぐ戻りますから」
 そんな楽しそうな目で見ないでくれませんか、先輩。
 まったく、もう。

 県警屋上。軽く見回してあたりに人がいないのを確認してから、携帯の電話
帳から番号を手繰る。
「もしもし」
『史久か』
「父さん、どうしました」
『いや、昨日の件でな』
「……ああ、昨日は本当に心配をおかけしまして」
『なに、構わないさ。このところ下二人をお前に任せきりだったし、たまには
父親らしいことをしてあげないとね』
「すいません、僕の監督不行き届きで」
『いや、私のほうこそ任せきりですまなかった。それより、少し例の彼を調べ
てみたよ』
「え?」
 例の彼、もしや。
「北原一也ですか?」
『ああ、幸久の今後を考えて、余計な気がかりは残したくなくてね』
「はい」
『彼の会社の情報と北原系列の関連会社と、浮気相手の女性の故郷とその周辺
を当たってみた』
「……どうでした?」
 思わず携帯を握る手に力がこもった。
 ああ、さすがだ父さん。
 正直、僕は美絵子ちゃんが戻った時点で北原の追跡を半分あきらめていた。
駆け落ちという行為そのものは、刑法には違反していない。
 これ以上の追跡は、美絵子ちゃん側から告訴されない限りは法的な拘束力は
もたないだろうし、北原さんのご両親に関しても自分らに負い目がある以上、
こちらに捜索を任せるという雰囲気ではなかった。
『彼は二週間前に組合の福岡にある福利厚生施設の利用申し込みをしている。
日付は昨日から明日までの三日間』
「なっ!?」
『ちなみに、福岡は相手の女性の故郷らしいね』
「……なるほど」
『調べてみてちょっと呆気にとられたよ。どうして不審に思わないものかと』
「本当に……」
 ああでも、申し込み手続き自体は別の課なんだろうか。それにしても、よく
もまあぬけぬけと。
『ともかく、こちらから北原家と藤村さんのほうに連絡を取った。そして周辺
の不動産情報を現在あたっている、私の読みだとその近辺でどこか家を借りて
ると見てる。一応場所をつかみ次第、また追って連絡を入れるつもりだ』
「はい」
『彼をどうこうするかは北原だけの問題でなく、藤村さんが決めるべきだしね』
「そうですね……」
 彼の今後と、藤村さんのこれから。
 いくら幸久と美絵子ちゃんが奇麗にまとまろうと。幸久がやらかしたことと、
北原の彼がしでかしたことで損害をこうむったのは僕らだけじゃない。
 何よりも、美絵子ちゃんの親族が許さないだろう。
『一応、手は打っておいたが』
「え?」
『うちの事務所から、その手の話に強い弁護士を戸萌の加津子刀自を介して藤
村さんと北原の両家に紹介しておいた』
「……大叔母さまが仲介に?!」
 というか、法律事務所の所長である父さんが自分の事務所から両家に弁護士
を紹介するのはわかる、でも、なんでそこに本宮本家の大叔母さまが介入して
くるんだろう。
 いや、しかし、それもありかもしれない。
 いくら相手側に多大な非があるとは言え、吹利でもかなりの資産家である北
原へ対する交渉ともなると、やはりそれなりに発言力のある相手が後ろ盾にい
るほうが望ましい。戸萌の大叔母さま程の相手ならばその役は十分過ぎるほど
勤まるだろう。
 法は平等、とはいうけれど。
 そればかりでもないことは、警察官である僕でも知っている。
『それに、北原もこちらには強くでれないはずだよ』
「ええ、ある意味、北原さん方は幸久に助けられたようなものですしね」
 一人息子が結婚式前に他の女と駆け落ちしたなど、北原ほどの名家なら家徳
を地に落とす不名誉だ、藤村さんのご家族にとっても、娘の晴れの日に花婿が
他の女と逃げたなどと相当な屈辱であり、顔に泥を塗られたも同然だろう。
 あのまま幸久が騒動を起こさなければ。花婿は会場へ来ず北原家にとっても
藤村家にとっても、なにより美絵子ちゃんにとって非常に辛いことになってい
たはずだ。
 思わずため息が出る。
 結果だけ考えれば。今回の騒動は幸久が暴走してくれたお陰で双方の体面を
保ったようなものなのだろうか。
『加津子刀自は喜んで仲裁を引き受けたよ、これで北原に貸しができたとね』
「……でしょうね」
 あの権力志向の強い大叔母さまのことだ、北原の弱味を握って貸しを作った
ことに大喜びのことだろう。
 結果として、北原家に貸しを作り、藤村さん宅の体面を繕いつつ、その仲裁
を勤めた戸萌家ひいては本宮本家の威光を高めた、と。
「父さん……策士ですね」
『なに、実際に騒動を治めたのはお前だ』
 騒動を起こしたのも、治めたのも、突き止めたのも、仲裁したのもこちら。
これで北原は本宮本家に対して強く出ることができなくなった、と。
『それ以上に、加津子刀自はお前の有能ぶりに大層お喜びだったそうだぞ』
「え?」
『不肖者の北原の息子とは格が違うと、実に満足げだったよ』
「大叔母さま……」
 なんだかなあ、もう。頭痛がしそうだ。
 気に入ってもらえるのは嬉しいですが、そういう気に入られかたはどうにも。
「いえ、まだ父さんには及びませんよ」
 正直、僕は事態の収束にばかり追われていて、民事のごたごたや本宮本家の
思惑にまで手が回らなかった。しかし、一見、万年新婚夫婦に見せかけて本当
に抜け目無い人だなあ。
 しかし、本来捜査の本職であるはずの僕が全くの民間人である父さんに遅れ
をとるとは……情けない話だ。
 僕も詰めが甘いな、まだまだ父さんにはかなわないということか。


幸久 〜式場で
--------------

 パレス吹利。
 まあ、あのごたごたで一番とばっちりくったのここだろうなあ。
 一応、式場側と列席者側には北原の奴の家の方から賠償として費用やらなに
やらを支払うことになるらしい。まあ実際この騒動の発端は奴が他の女と逃げ
て式をすっぽかしたことから始まってるだけに、あっちの家族も強く言えない
し、美絵子に対する罪滅ぼしの意味合いも多分にあるんだと思う。
 でもまあ、騒動の引き金ひいたのは俺なわけで。
 はあ、気が重い。

「申し訳ありませんでした」
 もう何度目だよ、これ。
「本当にごめんなさい、本宮さん。本当にご迷惑をおかけして」
「すみません、うちの息子が大変失礼を、本当に申し訳ない」
「このたびはお兄様に大変お世話になりまして」
 俺、北原の両親、パレス吹利支配人。
 って、全員謝ってどうする。
 てか北原の両親まで謝罪にきてんのかよ。
 いや、まあ、立場でいえば一番弱いとこだしなあ……

「こちらこそ騒動を起こしてしまって、ご迷惑を……」
 まあええと、こっちの両親もある意味、奴の被害者だよなあ。
「いえ、本宮さんにはお兄さまにもお父さまにも、大叔母さまにまでお世話に
なって……本当にすみません」
「へ?」
 って、おい。史兄はわかるけど、なんで父さんや大叔母さんの名前まで出て
くるんだよ。
 てか、俺が知らない間に裏で糸引いてる連中があちこちにいるのかよ。
 どうなってんだ、一体。


幸久 〜家族に
--------------

「……ええと、迷惑かけて本当にすいません」

 今日、何度目かの平謝り。
 実家の居間。一家全員揃うってのは、かなり久しぶりかもしれない。
 でも、集まる理由が、なあ……

 居間のソファの真中に父さん、右隣に母さん、俺の両脇に史兄と和久が座っ
ている。向かいに座った俺を見る父さんの目は、これでもかとばかりに厳しい。
 父さんと史兄という本宮本家最強ともうたわれる二大巨頭を前にして、ひた
すら頭を下げて謝るしかなかった。
「父さん、すいません……」
「ああ」
「母さん、心配かけてごめん」
「幸ちゃん、心配したのよ!」
「史兄、和久……すまん」
「まあ、美絵子ちゃんに免じて許すよ」
「ええと、うん。俺はいいよ」
 深々と頭を下げたまま、顔があげられない。
「幸久」
 父さんの低い声が、やけに大きく響く。
「お前がああいう行動をとったのは、美絵子さんの為に良かれと思ってやった
ことだと、父さんは理解するよ」
「はい」
「でも、それがどれだけ回りに迷惑と心配をかけたかは、理解しているな?」
「はい……」
「迷惑をかけた相手にきちんと謝罪して、責任を果たしなさい。わかるな」
「はい」
「ならば、よろしい」
「……ごめんなさい」
 はあ。
 もう、本当、情けない。

「でも、良かったわ」
「へ?」
「美絵子ちゃんが娘になるなら母さん嬉しいわ」
「はあ?」
 って、待ってくれ。話飛びすぎだろ、おい!
 いや、その、確かに……プロポーズ……した、けど。
 あの場で大勢の前でああ言ったけど、ええと、その、心の準備が……
「おお、そうだな。史久、お前先越されるぞ?」
「いやあ、幸久が先とは思いませんでしたねえ、父さん」
「ええと、うん。あの藤村さんなら、しっかり幸兄の手綱とってくれそうだし、
安心だよね」
「って、おいおい、待て、ちょっと待て!」
 って、待ってくれっての!気がはええよ!
 勘弁してくれっ!

時系列と舞台
------------
 2005年3月27日
解説
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 結婚騒動収束後。ひたすら謝罪に奔走する幸久。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
以上 

 やっぱり父も只者じゃないらしいです。




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