[KATARIBE 28823] [HA06N] 小説『結婚騒動 七章〜ここで言わすか』

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Date: Sun, 29 May 2005 01:23:07 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28823] [HA06N] 小説『結婚騒動 七章〜ここで言わすか』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年05月29日:01時23分07秒
Sub:[HA06N]小説『結婚騒動 七章〜ここで言わすか』:
From:久志


 久志です。
三月末の結婚騒動、やっとこ終わりそうです。

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小説『結婚騒動 七章〜ここで言わすか』
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登場キャラクター 
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 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ) 
     :葬儀屋さんで霊感のある軟派にーちゃん。 
     :今更自分の気持ちに気づいた鈍い奴。
 藤村美絵子(ふじむら・みえこ) 
     :幸久の元カノ。ちょっと気が強いけどいいお姉さん。 
     :微かに心を残しつつも、今日は結婚式当日。
 本宮史久(もとみや・ふみひさ) 
     :吹利県警刑事課巡査。屈強なのほほんおにいさん。昼行灯。 
 その他大勢の人達

史久 〜すべては手の上
----------------------

 あの発表の後。
 当然ながら激昂する美絵子ちゃんのお父さんをなんとかなだめつつ、涙なが
らに訴える美絵子ちゃんのお母さんと不安にうろたえる妹さんを元気付けつつ、
声を荒げる他の藤村さん方親族に頭を下げつつ、涙ながらに何度も謝罪を繰り
返して悲嘆にくれる北原さん方親族を慰めつつ、北原さんの会社の人達からの
質問攻めをなんとかこなしつつ、混乱する両人の友人方に落ち着くように呼び
かけて、と。もう目が回りそうなほどの対応に追われていた。

 対応の疲れもピークに差し掛かった頃、胸ポケットに入れた携帯が鳴った。
「はい、本宮です」
『あの、すみません先ほどご連絡をいただいた海岸管理局の吉沢です』
 きた。
「ええ、はい。わざわざご連絡いただいてすみません」
 あらかじめ、幸久が行きそうな複数箇所に不審車両と不審者を見かけたら連
絡をするよう要請をしておいて正解だった。
『はい、該当するシルバーのカリブと海岸付近で男女二人連れ……女性の方は
ドレス姿で……という話を海岸掃除に出ていた者から聞いて、ご連絡しようと
思いまして』
「はい、すみません、ご協力本当にありがとうございます。細かいお話をお聞
かせ願えますか?」
 どうやら僕の感は当たっていたようだね。

 しかし、まあ。
 ホント世話の焼ける……


幸久 〜留守録山ほど
--------------------

 これからどうするよ、俺ら。
 抱きしめた美絵子の頭を撫でながら、考える。

 さんざん引っ掻き回しといてなんだけど、やっぱり逃げ回ってないできちん
とけじめつけないとな。美絵子の親父にどつかれようと、相手の家ににらまれ
ようと、もう手放す気は毛頭ねえし。
 と、腕の中で小さなくしゃみが聞こえた。
 そういえば、日もだいぶ陰ってきて風も冷たくなってきた。

「だいじょぶか?」
「……うん」
「車戻るか。冷えてきたし」
「うん」

 立ち上がって服のあちこちについた砂を払うと、よろよろと砂に足を取られ
ながら歩く美絵子を支えながら車に戻る。

 そういや、会場どうなってるかな。いや、混乱してるのは予想できるけど。
 後部座席に放り投げたままの携帯を拾い上げて見る。なんつうか、当然なが
らすさまじい数の着信履歴が残ってるよな。留守録数もえらい数になってるし。

『もしもし史久です。式場の混乱はこっちで何とかするから、伝言を聞いたら
すぐに僕に連絡して』
『もしもし幸ちゃん、お母さんよ!幸ちゃんはやまっちゃだめ!生きていれば
いいことがあるのよ!』
『和久です。ええと、母さんから連絡あったけど何があったの?なんかすごく
大変なことになってるみたいだけど』
『幸久か、父さんだ。みんな心配している、連絡をいれなさい』
『もしもし史久です。事情はわかったからとにかく連絡をいれて』
『小池です。幸久、細かい事情は詳しくは知らないが、すぐに史久さんに連絡
を入れなさい、みんな心配しているぞ』
『ユキさん、駆け落ちってまじっすか?会社のみんな心配してますよ?!』
『史久です、こっち状況把握したから連絡して』
『幸久くん、仲本です。こっちの状況は落ち着いてきてるみたい、連絡して』
『史久です、とにかく連絡しなさい』
『もしもしユキ、こちら芽衣。こっち落ち着きそうだから連絡いれろよ』
『史久です…………怒らないから連絡をしなさい』

 うわあ、凄まじいことに……おまけに約一名とんでもなく勘違いしてるし。
 いや、それ以上になにより史兄がヤバイ。

 でも、えーと、連絡しないともっとヤバイ。
 ああもう、ちきしょう、どうしよう。

「もしもし、史兄……」
 史兄、怒ってる、よな。
『幸久、やっとつながったねえ』
「あの、ええと」
『とりあえずこっち事情全部わかって落ち着いたから、早く帰ってきなさい』
「え?」
『北原さん宅から新郎の手紙見つけてね、お前の集めた証拠も借りて裏もとっ
たよ。それより美絵子ちゃんの様子はどう?』
「……ああ、落ち着いてるよ」
『あんまり海風にあたってると風邪ひくからね』
 へ?
「なっなんでそれを!」
『お前、僕の職業言ってみなさいよ』
 現職刑事です、はい。俺が馬鹿でした。やっぱ本職は違うよな……
『ともかく美絵子ちゃんにかわって、親御さんが卒倒寸前だから』
「……わかった」
 美絵子に携帯を渡して、あれこれ話してるのを横目で見ながらため息をつく。
 なんだかなあ、計画なしの行き当たりばったりの逃避行だったけど、史兄に
はすっかり読まれてんのな。
 話を終えて、そのまま携帯を返してもらう。
『ああ幸久、最後に』
「ん?」
『お前ちゃんと美絵子ちゃんにプロポーズした?』
「なっ」
 って、いきなり何言ってんだよ!おい!
「史兄、ちょっ、まっ!」
『じゃ、またね』
 電話が切れた。
「…………ちきしょう」
 なんつうか、こう。一から十までお見通しかよ。


史久 〜株価変動
----------------

 携帯を切って、ひとつ、息をつく。
 美絵子ちゃんと話せたおかげで親御さんも少しは落ち着いたらしい。
 僕が話した感じでも、受け答えもはっきりしてたし大丈夫そうだ。

「今しがた、弟から連絡がありました。とりあえず美絵子さんは現在落ち着か
れてるみたいです。弟もついていますし、もうすぐ戻るそうです。皆さん待ち
ましょう」
 北原一也の方はいまだ見つかっていないものの、最も心配されていた美絵子
ちゃんの無事が確認されたということで、会場に安堵の混じった空気が広がる。

「よかった、美絵子……無事で」
 美絵子ちゃんのお母さん涙ぐんでますね、当然か。
「幸久くんを信じよう、彼は見所のある男だ」
 美絵子ちゃんのお父さん、幸久のことどうしようもない泥棒男呼ばわりして
ませんでしたか? まあ、うん、どうしようもないのは事実だ。

 しかしまあ。
 幸久、お前の株価もあがったりさがったりで大変だよ。


幸久 〜何回言えばいいんだよ
----------------------------

 あれから。
 海岸から出て、吹利に戻る車の中で。

「ね、ユキ」
「ん?」

 もう数えるのも億劫なほど繰り返された会話。

「あれ、言って」
「…………」

 またかよ、と思わず言いそうになるのをぐっとこらえる。
 まあ、ええと、約束したしなあ。
 いや、いいんだよ、いいんだけどさ。

「……愛してるよ」
「ふふ」

 てかさあ、おい。
 こういう台詞って、あんまし言ってるとなんか薄っぺらくならねえか?
 つーか、俺ちゃんと真面目に言ってるのにお前笑うなよ、くそっ。

「……なんだよ」
「別に」

 いちいち人の顔見て笑うなっつの、このやろう。
 でも。
 助手席で、さもおかしそうに笑ってる美絵子は……こう、俺が言うのもなん
だけど、幸せそうで。やっぱ、よかったんだよな、うん。
 今度、桜木や六華と軽部にきちんと礼言わないと、なあ。

 と、留守録に山ほど入っていたメッセージが脳裏によぎる。
 ああ、史兄に謝らないと……それに父さんに母さん、小池のおやっさんにも、
って、後輩の笹本がこの騒動知ってるってことは、会社にもろバレかよ。
 うああ、気が重い。
 明日っからどんな顔で会社行きゃいいんだよ……

「ユキ?」
「……ん?」
「どしたの?」
「……いや」

 つか、人の噂も七十五日って言うだろうがよ。今更気にすんな、俺。

「……いや、なんつか、さ。お前の代わりいねーし」
「え?」
「……なんでもねえよ」
「ふぅん」
 って、笑うなっつの。

「ね、ユキ」
「……なんだよ」

 おい。

「あれ、言って」

 何回言えばいいんだよ……

「…………愛してるよ」

 ああ、くそっ。


幸久 〜ここで言わすか
----------------------

 舞い戻って、パレス吹利。

 車から降りて入り口を見ると、ガラスの向こうのロビーには美絵子の親族や
ら列席者やらが固唾をのんで俺らを待っている。
 つーか、ものすごくバツが悪いよなあ。いや、腹くくるしかないんだけど。
 四方八方から視線が集中する中、美絵子の手をひいて両親の前まで行くと、
二人揃って両親に深く頭を下げた。

「ご心配をおかけして申し訳ありません」
「お父さん、お母さん、里絵子……心配かけてごめんね」

 一瞬おいて、涙顔の母親と妹が美絵子を抱きしめた。

「美絵子!」
「お姉ちゃん、よかった!」

 美絵子が戻ってやっと緊張が解けたのか、あちこちで安堵の声が聞こえる。
 まあ、当然ながら北原の奴の親族と思しき一団は暗い表情のままだけど。

「お父さんも、ごめんなさい」
「美絵子……すまない、相手を見る目がなかった父さんを許してくれ」

 とりあえず俺のことは置いておいて、なのか。
 一発ニ発ぶん殴られるくらいは覚悟してたんだけど、ちょっと拍子抜けだ。
思わずホッとしてると、背後から穏やかな声が聞こえる。

「ようやっと帰ってきたね、幸久」
「うっ」

 背筋がぞっとする。
 ぎぎぎ、と、振り向いた先。腕組みをして一見穏やかな笑顔を浮かべた……

「ふ、史兄……」
「おかえり、幸久」
「ご、ごめんなさいっ」

 もう反射的に頭を思いっきり下げてた。

「まったく、お前は……」
「……ごめんなさい」
「人騒がせだよ、幸兄」
「……和久も……すまん」

 ああ、もう顔あげらんない。
 てか、あの留守録メッセージ聞いただけでも、どんだけこっちが大変だった
かってのがわかった。
 と、俯いた俺の耳元でこそっと史兄が耳打ちした

「よくやった幸久」
「なっ」

 何言ってんだよっ。

「まあ、今回は美絵子ちゃんに免じて許すよ」
「…………はい」

 くそお。
 何も返す言葉ねえ。


 と、後ろから服の袖をひっぱられた。

「ユキ」
「美絵子……」

 ふと振り向いた先には美絵子の両親と妹がこっち見てるし。

「あの……このたびは、本当に……すみませんでした」
「幸久くん……」
「……あの」

 うわあ、バツ悪い。
 いや、まあ、元はといえば北原の野郎が一番悪いんだけど。
 ええと、ことの発端は俺なんだし。てか、美絵子に俺のとここいとか言った
以上何が何でも言い含めないと。
 思わずしどろもどろになってると、くいくいとまた美絵子が袖を引っ張る。

「なんだよ、美絵子」
「……ねえ、ユキ」

 おい。
 ちょっと待て。

 お前その目はなんだよ。
 てか、おい、マジかよ。言えってか。

「約束、したよね?」
「うっ……」

 したよ約束、したけど。けどなあ、ちょっと待てよ、おい。
 てかこら、おい待てよ。
 このお前の両親親族友人ご一同の前で言えっつうか、おい。高校大学時代の
知り合い連中ばかりか、史兄に和久までいるじゃねえかよっ!
 アレを、ここで言えと?

『約束だよね』

 あー言わなくてもわかる、目が言ってる。
 くそ、もう腹くくるしかない。


 ひとつ、息をすう。

「……愛してるよ、美絵子」

「って、わけです」

 時間が止まったように。
 ざわついていたロビーが一瞬静寂する。


「き、きさま娘をーーーー!!」
「お父さん待ってやめて落ち着いてっ!」
「お姉ちゃん、え、うそ、ホントなの?!」
「きゃー幸久君だいたーーーんっ!」
「まあ、幸久!あらあらどうしましょうっ!」
「って、おいおいお前らどうなってんの!?」

 耳が割れそうなほどに響く、歓声に怒号に悲鳴。
 一変した会場の中、おもわず目の前がくらりとする。

 俺、もう埋まりたい。
 マジ勘弁してくれ……


時系列と舞台
------------
 2005年3月26日
解説
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 結婚式当日。美絵子と幸久、紆余曲折の末やっとこ素直になりました。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
以上 



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