[KATARIBE 28818] [KMN] 小説『境界線上にて』

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Date: Fri, 27 May 2005 23:17:50 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28818] [KMN] 小説『境界線上にて』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年05月27日:23時17分50秒
Sub:[KMN]小説『境界線上にて』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
影歩む街、おやみとめやみの、登場話、一応一つの塊です。
(ここら辺が一気に降ってきやがったのだっ(汗))
というわけで、ちとばかり、きゃらしーとが遅れた理由が……まあここらにあったり。

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小説『境界線上にて』
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 一日の長さが、本当にあっというまになって。
 ぼんやりと陽射しの下であたりを眺めているだけで一日が過ぎるようになっ
て。
 そしてふと気がつくと、おやみが肩を叩く時刻になってる。
 さあ戻ろうね。
 その言葉は、三年前から変わらない。

 ジャングルジムをするすると降りて。
 乾いた地面をくるくると身体をのたくらせて進んで。
 めやみのときに開けておいた硝子戸から、おやみはするすると部屋に入る。
入ったところでやはりめやみの用意していた、濡れタオルで身体を拭いて。
 全ての手順は、すっかりもう慣れたものであるらしい。

 長い身体をのたくらせて、おやみは座布団の上で円を描く。
 晴れた日の、夕刻。
 乾いたような色だねえ、と、おやみはしみじみとした声で言う。

        ***

 神社の裏の家では、御神体のお使いとして、代々大きな蛇を飼っている。
 代々飼い続けるのは、やっぱり代々どこか陰気に見える女の人である。

 それがあたしの聞いた噂であり、実際おやみとめやみが流している噂である。
それで事足りるのだろうか、この状態がばれはしないか、と、こちらは他人事
ながら、不安になったりするのだけれども。
「そうだね、ほんとうにごくたまに、人払いの呪いの効かない連中は居るし、
その場合は多少困るがね」
 ちろちろと紅い舌を出してこちらを見ながら、おやみは笑う。
「でもこちらは別に悪いことを何一つしていない。私も人に迷惑をかけるわけ
じゃないし、めやみも別に悪いことはしていない。結局別に目をつけられるこ
とはないね」
 そういうものかな、と、思ってみて。
 確かにそういうものかもしれない、と、思い直す。
 沢山の凶悪犯罪ですら、起こっている最中は『まさか』の一言で片付けられ
るのだ。ましてや犯罪者ですらないおやみとめやみを、誰がそんなに注目する
ものか。
「今まで長くこの地で過ごしてきたが、とりあえず問題は無かったよ」

 そんなものだろうか、と、思い。
 そんなものかもしれない、と、改めて。

「長くここに居るとね」
 ちろちろと、細い舌を出し入れしながらおやみは静かに言う。
「確かに幾人かには、私の正体を見破られるものだよ」
 但しね、と、やはり細く笑いながら。
「それが大概、私と同じ妖怪であるか、あんたのような境界線上の住人だった
りする」
 傷ついたままの尾の先で、すい、とおやみはこちらを示す。
 あたしはふと言葉に詰まる。
「だから結局……困ることがないのだよ」

 返答に困ったまま、あたしはおやみの前の平たい皿を見やる。
 めやみが用意したペットボトルの蓋を、おやみは器用に口で開ける。ペット
ボトルに巻きついて持ち上げて、とくとくと水を皿に注いで。

「今の世の中は奇妙なものだよ」
 ちろちろ、と、水を啜りながら。
「結構、私達の仲間は存在しているらしいが、けれどもこの世の中に私達の存
在は決して認められるものではない。だから私達はこうやって隠れるけれども、
同時に隠れてしまえば私達の正体は公にはされない。認められない」

 確かにそれはそうかもしれない。

「以前は……それでも私達の居場所は確かにあったのだけれどもね」
 静かに。とても静かに。
 おやみの言葉が、夕暮れの中に響く。
「私達の場所は、ここには、無い」
 否定する言葉もなく、あたしは俯いた。
「あんたのような境界線上の住人にとっても、ね」
「…………そうですね」


 あたしには人払いの呪いは効かない。
 あたしにはおやみのほうがめやみよりも近しいものと思われる。
 あたしは三年間、ここに居る。

 三年前と、何も変わらぬまま。


「……まだ、思い出せないのだね」
 ゆっくりと闇に沈む部屋の中で、おやみの声だけは変わらず静かに染み透る。
「思い出せないです」
 あたしの声は……本当にここに在るのだろうか。
「おまえさんは、まだ怪ではない」
 おやみの声は、けれども決して厳しいものではなく。
「だから……思い出せば」

 思い出せば。

「……ここで安住されると、私達も何となく困るんだがね」
「そう、でしょうか」


 三年前。
 目の前のジャングルジムと、それに絡まるおやみ。
 そこからあたしの記憶は始まっている。

「成仏するにしろ、祟るにしろ、ここに残る理由が判らないままでは怪にすら
なれないだろう?」
「そんなものでしょうか」
「そんなものだよ」

 ちろり、と、金の目が動いて。

「おやみもめやみも、生半可でこの姿になったわけではないからね」


 三年前。
 その良く見える目で、おやみはあたしを見て取った。
 それまであたしは、自分が何者であるか……否、自分が『何者かで有り得る
ことも可能である』ことをすら忘れていた。

 幽霊、と。
 多分、呼ぶのが正しいのだと思う。


 おやみが家に戻る手伝いを、あたしはすることが出来ない。
 めやみの酒の、酌さえも、あたしは手伝うことが出来ない。
 おやみが水を飲もうにも、その瓶を支えることすらあたしには出来ない。

「いつか怪になれるものでしょうか」
「……はて」

 おやみはすらりと目を逸らして、硝子戸の向こうを見る。
 多分……めやみならばもっと厳しい言葉で、もっと的確に答えるだろう。

 わからない、と。


 おやみの真似をして、硝子戸の外を見る。
 どこかセピアの色合いに、風景が染まってゆく様を。


 夜と昼との、境界線上の其の風景を。



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とゆーわけで。
はい、書き手さんは誰だろうってのも含めないとなあ(えぐ)

ではでは。


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