[KATARIBE 28813] [KMN] 小説『雨の夜』

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Date: Thu, 26 May 2005 22:30:40 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28813] [KMN] 小説『雨の夜』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年05月26日:22時30分39秒
Sub:[KMN]小説『雨の夜』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
影歩む街の話です。
おやみとめやみ、今回はめやみの話。
キャラシート、もちっとだけ待ってください。

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小説『雨の夜』
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 さふさふと雨が降る。
 軒のトタンにばたばたと、雨の粒が当たる。
 薄暗い部屋の中、めやみは湯飲みを取り出す。
 灯一つ点さない中で、やはりめやみは目に包帯を巻きつけている。

 雨が好きだと、めやみは言う。
 特に夜の雨が好きなのだと言う。
 さふさふと風に乗って吹き付ける雨の音が、とても好きなのだと言う。

 
 お前など嫌いだと、めやみはよく言った。
「酒を呑むわけでもない。そこで座ってるだけの奴を、どうしてあたしが歓迎
するもんかね、莫迦らしい」
 妖怪の彼女は、滅多にものを食べない。唯一手を出すのが酒。動物蛋白はお
やみがとっている、わざわざこちらがとる必要もない、と、めやみは素っ気無
く言ったものである。

 さふさふと、雨が降る。

 包帯で目を覆っていても、めやみの顔はきれいだと思う。どこかしら研いだ
ばかりの懐剣を思わせる鋭い線で構成された顔。
 夜になるとおやみはめやみに場所を変わるという。
 こんな雨の日ならことさらそうだという。

「何を莫迦みたいにこちらをみてるんだね」
 ぼうっとしていたら、不意にそんな声が飛んだ。
 包帯の向こうから、めやみがあたしを睨んでいた。


 めやみ。
 目病み。目闇。
 つまりは千里眼。


 流石にめやみも、そのことをあたしがおやみに確認したことを怒らなかった。
「そら、目がついてたらそれくらいはわかるわね」
 包帯でぐるぐる巻きの目。けれどもめやみは昼間でも薄暗い部屋の中で、何
の不自由もなく動き廻るのだから。
「見えすぎるの、この目は」

 人のこころも見えるのか、と、一度尋ねた。
 お前は莫迦か、と、返ってきた。
 ……それ以上、どうも突っ込みようが無いまま、今に至っている。


 さふさふと、雨が降る。
 一升瓶を片手で持ち上げると、めやみは栓を口で引っこ抜き、やはり片手で
湯飲みに酒を注いだ。
 どこで教わったろうと思うくらい、その仕草は伝法なもので。

 住む場所があり、食事も必要無い(酒は必要だけど)。服や化粧に気を使う
でもない。おやみは肉を好んで食べるが、それも時には野良犬や野良猫で賄っ
ているようである(こちらを慮ってか、おやみはそうとははっきり言わなかっ
たけど)。よって結局、この妖怪はあまり金を必要としない、らしい。
「妖怪が左団扇で過ごすほうがおかしいやね」
 湯飲みをあおりながら、めやみはそう言う。


 実際あたしも、同じ人間であるというのに、めやみよりもおやみのほうに親
しみがある。めやみの前だと、ついつい正座して背筋を伸ばしたくなるのだが、
おやみの前だと、あの胴体を枕にして昼寝でもしたくなるのだ。
「それは当たり前というものだよ」
 そしてまた、めやみをそれを当然のように見なしているようだった。何か構
えるわけでもなく、ただ淡々とめやみはそう言った。
「あたしは人間がとても嫌いなのだからね」

         ***

 どうして人間が嫌いなのか、と、尋ねたことがある。やはりこんな、さふさ
ふと闇の中に雨の降り注ぐ夜だったと思う。
「そりゃあ昔、鬼っ子扱いされて村八分にされて、人身御供代わりにおやみに
突き出されりゃあ、人も嫌いになろうものさ」
 かなり古い家の一部屋の片面は、神社側を向いて一面硝子戸になっている。
そこから夜を見やりつつ、めやみはやはり手酌で酒をあおっていた記憶がある。
「おやみってのもね、あれだけでかい蛇だろう。すっかり怪と化していて、つ
いでに千里の闇を見通す目を持っていたものだよ」
 呑んでも呑んでも、めやみの顔は白いままである。包帯を巻いた目を硝子戸
のほうに向けたまま、彼女は言葉を綴った。
「べそをかきながらそこに行ったらね、おやみが言ったものだよ。お前の持つ
その刀で私を切って、殺したことにしよう。そしてそのまま私を連れて村へ戻
るがいい」

 そしてそこで。

「村を滅ぼしてしまおう、とね」

 語尾に重なるように、がらがらと虚空を引き裂く音が響く。
 思わず身を縮めたあたしとは裏腹に、やあ雷だ見事だ、と、めやみは立ち上
がって硝子戸を引き開けた。
 ざふ、と、雨が部屋の中に吹き込んだ。

「確かこんな雨の降る夜だったねえ」


 雨と一緒に。
 殺ぎ落としたような顔立ちの少女と、怪と化すほど年経た蛇と。
 彼らが一つの村を。

「……って、おやみは言うだろうけどね」
「へ?」
「まあ、適当に聞き流しておきな。あれも嘘が上手いから」
「……へ?」
 余程間の抜けた声だったのだろうか。めやみは呆れ果てた、といわんばかり
にこちらに顔を向けた。目を覆ったその顔に可能な限り、『あんた莫迦か』と
いう表情を浮かべて。
「……この御時世、よくまああんたみたいなのがいたもんだね」

 そういわれても……と、こちらも困ったものだけど。

「めやみはおやみ、おやみはめやみ」
 湯飲みを二本の指で支えながら、めやみはふんと鼻で笑う。
「何がほんとうかなんて、当の昔に忘れたよ」

 ぱりぱり、と、空を裂く音。そして半身を容赦無く照らす光。
 その中でめやみは、窓からの雨を浴びながら笑っていた。

「そうだろ?」

 その瞬間の、どこか壮絶な。
 彼女の、頬のあたりの笑み。

         ***

「いまいち景気の悪い雨だねえ」
 縁の少し欠けた湯飲みを口元に持ってきながら、めやみは少々不機嫌にそう
言う。片膝を立てて座る姿が、どこか伝法でもあり、どこか艶やかでもある。
「稲光がないから?」
「そうなるね。あれが無いと景気がつかない」
「……そんなもんですか」
「当たり前だろう?」
 板敷きの部屋……フローリングなんて格好の良いものじゃない……には、座
布団が二枚あるきりである。そのうちの一枚に座って、めやみはただただ、湯
飲みを傾ける。

「刺さるほどに降ればいいんだよ、雨なんか」

 微かに酔いの廻った声で、めやみはそう呟く。
 つられて、あたしも、窓の向こうの雨を見る。

 夜の闇を貫いて、ただただ降り続く雨を。
 めやみと一緒に、ここで見ている。


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 IRCの感想、有難うございます。
 てなもんでてなもんで。
 ……また酒飲みですええ(滅)

 ではでは。


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