[KATARIBE 28812] [HA06N] 小説『余計な勘ぐり』

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Date: Thu, 26 May 2005 00:34:49 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28812] [HA06N] 小説『余計な勘ぐり』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年05月26日:00時34分49秒
Sub:[HA06N] 小説『余計な勘ぐり』:
From:久志


 久志です。
こう、時間軸が前後してますけど、一応お話流します。
先輩が過労で倒れた時の豆柴君と真帆さんのお話。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『余計な勘ぐり』
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登場キャラクター 
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 本宮和久(もとみや・かずひさ)
     :吹利県警生活安全課巡査。生真面目な豆柴くん。
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。おネエちゃんマスター。 
 軽部真帆(かるべ・まほ)
     :自称小市民代表。毒舌家で多少の異能あり。

重い一言
--------

『一の犯罪が、十の被害となり、百の模倣犯を生み、千の更なる被害へ繋がる』

 ずしりと重い一言だった。

『たとえねえ、加害者にどれほどの同情すべき事情があろうと、すべての根本
である一の犯罪を、俺らが許すわけにはいかないんだよ』

 とん、と相羽さんの指先が胸を軽く叩く。

『お前さんのね、真っ直ぐで正直で真っ当な所はすごく美点だと俺は思ってる』
『はい』
『だが、逆に怖いとも思うね』
『え?』
『美点ゆえに……さあ、その真っ直ぐなとこにつけこまれてホシを逃がしたり、
お前さんの命を縮めやしないかと、さ』
『……そんな』
『まあ、老婆心だよ』
『はい……気をつけます』
『豆柴さあ』
『はい』
『俺らはね護民官だよ』
『え?』
『民を護る武官だ』
『……護民官』
『公僕の護民官である俺らはさ、市民に対して常に公平に応じなきゃいけない、
そらわかるね?』
『……はい』
『それだけは、忘れちゃいけないよ』
『はい』


お見舞いで
----------

 相羽さんが倒れたのは、四月も終わりに近いころだった。
 丁度、刑事課で追っていた事件がひと段落ついて、という頃合だったらしい。
昼とも夜ともなく駆けずり回って、証拠をあつめて、物証を追って、犯人を追
い詰めて。
 でも、そんな忙しい中でも、自分ら新任達へのちょっとした助言や考え方の
指導も怠らなくて。

「相羽さんて、いざ事件を追ってるときって、本当いつ寝てるかわからないん
です……」
「…………」
 様子見で病院へ立ち寄った帰り、ばったり軽部さんに会った。
 史兄の友人であり、幸兄とも知り合いで、迷惑宴会隊長の幸兄に呼び出され
た呑み会や史兄に連れられた呑みの席で何度か一緒に会ったことがある。
 相羽さんとはかなり親しい間柄らしいけれど、どういう間柄かまでは自分に
はちょっと図りかねる。せっかくだからちょっと一息ということで、近場の喫
茶店でお茶を飲みながら少し話をした。
「いつだったか、俺とのお散歩……いえ、パトロールのときに薬物不法所持者
をつかめたんですけど、俺が調書とかまとめてて半分寝そうになったりしてて
も、相羽さんはまったく平然とその裏のルートまで全部洗い出してて」
 何度目かのお散歩の時に捕まえた薬物不法所持者。あの捕り物は今思い出し
ても胸がドキドキする。捕まえてから、あれこれつっかえつつ送検手続きを進
めながら、疲れと眠気で机に何度か激突しかけた気がする。
 結局、調書まとめてすぐに仮眠室で倒れこむように寝ていたけれど。
「相羽さんは……いつ、寝てたんだろう、って」
「…………」
「本当に、仕事に真剣なんだな、って」
「……そうだね」
 何か考えているのか、ちょっぴり軽部さんがうつむいた。
 その姿が相羽さんを思ってのことなのかなと、思うと。こう、余計な勘ぐり
が出てくる。知り合った頃、史兄にそれとなく問いただしてみたことがあった
けれど、いつもの穏やかな笑顔で微妙にはぐらかされてしまった。

「でもっ、俺のせいかもしれないんですっ」
「え?」
「いえ、こう、忙しいのに、俺らの教育の為に先輩がわざわざ時間をつぶして」
「いや、それはあの人の趣味」
 きっぱり断言されるし。
「でも、俺の為なんかにあの人の貴重な時間を……」
 言い終わらないうちに軽部さんのげんこつが頭に飛んできた。いや、軽く
だったけど。
「言い方が卑屈」
 すぱん、と。真っ二つにするような一言。
「そういうの、相羽さんに聞かれたら怒られるよ」
 ぴしゃりと、まるで相羽さんの代理のように。
「……すいません」
「それに体調なんて自分のことなんだから、本人がちゃんとわかるべきだし」
「そう、ですけど」
「……和久さんのせいじゃないよ」
 でも、そういう軽部さんも辛そうに見えるのは、自分の気のせいだけじゃな
いと思う。
「……はい」
「百歩譲って、もし貴君のせいだとしても」
「……」
「君には、やること、あるでしょ?」
「……はい」
「頑張って」
 ふと、相羽さんの言葉がよぎった。
「……護民官」
「え?」
「相羽さんが言ってました」
「民を護る武官、て」
「…………」
「軽部さん、すいませんでした」
 それだけは、忘れちゃいけない、と。
「俺も、がんばります」
 小さく敬礼して、席を立った。
「……謝ることは、ないですよ」
「はい」
 笑っているけど、その笑顔はどこか微妙な影が見えて。
「……頑張ってね」
「はいっ」
 頭を下げて、料金を置いて店を後にする。

 話している間、軽部さんは笑っていたけれど。その笑顔はどこかで辛さを隠
しているようにも見えて。やっぱり、相羽さんが倒れたことに自分以上に心を
痛めているんじゃないかな、と思う。余計な勘ぐりなんだろうけど。
 わざわざ口にするつもりもないけれど。でも、ちょっぴり気になる。


時系列と舞台
------------
 2005年4月最終週のはじめくらい。 
解説
----
 過労で倒れた相羽、心配する豆柴と真帆さんがばったり出会って。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
以上。

 勘ぐってはいるけど、口にしない。
 どっかの地雷踏みとは大違いですね。




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