[KATARIBE 28811] [KMN] 小説『ひなたぼっこ』

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Date: Thu, 26 May 2005 00:21:40 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28811] [KMN] 小説『ひなたぼっこ』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年05月26日:00時21分40秒
Sub:[KMN]小説『ひなたぼっこ』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
きゃらしーと書く前に話を書く外道です。
……でも降ってくるんだもの。空から傍若無人に。

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小説『ひなたぼっこ』
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 午前中の陽射しはとても高い。
 公園のほそっこい木は、さやさやと揺れる。
 微風。
 おやみは気持ち良さそうに目を瞑る。


 こうやって神社の裏手の公園でひなたぼっこをするのが、おやみはとても好
きだという。
 実はきっちり人払いの呪いをかけているので、あまり人は来ない筈なんだが
ねえ、と、やっぱり笑いながらおやみは言う。

「蛇って、ひなたぼっこって好きだっけ?」
「さあ、他の皆がどうかは知らないが、私は好きだねえ」
 きんいろの目を細めて、やっぱりおやみは気持ち良さそうに言う。
「今の季節は良いよ。暑過ぎず、けれども陽射しは豊かだ」
 豊か、かあ。
「緑が見事だしね」
「……それはそう」

 鮮やかで明るい、広葉樹の緑と。
 どっしりと重い、針葉樹の緑と。
 その両極端の間を埋めるように、様々な色調の緑が散らばる季節。

「おやみはでも、ここから外には出られないでしょう?」
「危ないねえ、動物業者にとっ捕まるよ」
 呼ばれるのは警察かもしれない……とは思ったけど。
「でも、そしたら緑が見事って?」
「……ああ」

 ふ、と、言葉が途切れて。
 そして。

「いや神社の裏手の森だけでも、見事じゃないかね」
 三年の付き合いだから見抜けるうろたえ方もあるんだな、と、それには妙に
納得した。
 ……それにだ。
「おやみはでも、めやみの見たものは見たことになるんでしょ?」
「……微妙だがね」

 本当に厳密に。
 おやみとめやみは、一つの身体を使う。
 だから、例えば蛇の姿をとっているおやみが頭の中のめやみと会話するなん
てことは無いんだそうである。逆もまた同じく。
 だけどお互いのやったこと、感じたことはきっちり記憶として残る。それに
対して『どうしてそんなことしたんだ莫迦ー』ということもある。
 そしてまたそれも記憶に残る。

「だからおやみは、めやみの見た山を見てるんだよね?」
「そうだねえ」
「んじゃ、何でそんなにあわあわするの?」
「…………」

 きろーんと、おやみの目が光る。

「いろいろね、黙っていたいことはあるもんなのだよ」
「……ふうん」
「問い詰めないのが優しさ」
「問い詰めるのは?」
「根性悪」

 めやみの半分に言われたくないなあって言うと、あれと一緒にするもんじゃ
ないよ、と、本当に真顔で怒られた。

 包帯で目をぐるぐる巻きにしためやみは、それでも普通に目が見えるという。
 真っ黒なサングラスは、目の部分にかなり補強がされていて、普通の人には
殆ど目隠しと変わらない。
 それでも見えるんだね、何で、と、めやみに尋ねると、そりゃあ妖怪だから、
と、当然のように返ってきた。
 
      ***

 一度、尋ねたことがある。おやみとめやみ。元々一つであったもが二つに分
かれたのか、それとも二つであったものが何かのせいで一つにくっついたのか。
「そうだねえ、その昔にね」
 その時もやっぱり、おやみはひなたぼっこをしていたと思う。
「ある村に居た蛇が年を経て怪となり、人を喰らうようになったのだね」
 とんとんと。巧まずしてその言葉は優しげなリズムを伴い。
「村人は相談し、村の鬼っ子を呼び出して刀を渡して言い含めた。お前はこの
刀であの蛇を切るのだ。お前ならば出来よう、と」
 鬼っ子と呼ばれていたのは、彼女が予知の目を持っていたからなのだそうで
ある。未来を言い当てられた人々は彼女を恐れ、鬼、と呼び習わしていたのだ
そうだけど。
「だが無論、彼女は村人の言葉を素直に聞きはしなかった。もし上手くいかな
くても、自分が行けば蛇に食われる村人は一人減る。要するに体の良い生贄じゃ
ないかとね。だから蛇に遭った鬼っ子は、蛇に全てを告げたのだよ」
 日の光はやはり豊かで、周りの緑に少しだけ染まっていて。
 過去のその時点では陰惨でしかない事件もまた、日の光の中で古ぼけて安全
な話となって。
「そして最後に鬼っ子は言った。この刀でお前を傷つける。しかしお前を殺す
ことはしない。そのまま村につれて帰って皆を呼び出し、油断させて」

 そして。

「村人を皆殺しにしようとね」

 あたしはおやみを見る。
 おやみはちろりと長い舌を出す。

「……まあその報いが、こうなったわけだがね」

 ちろちろと。
 紅い舌が。
 報いとその過去とを鋭く縫い合わせるように…………


 と。
 くく、と、笑いながらおやみは目を細めた。
「……と、めやみは言うだろうがね、信用しちゃいけないよ」
「へ?」
「事実は相当違うからね」
「…………へ?」

 きろきろと、きんいろの目がまたたいて。

「嘘と本当を、もう少し見分けられるようになっても良いと思うのだよ?」
「……はあ」
「まあ一度、めやみに尋ねてご覧。おもしろいと思うよ」

 やはり目を細めて、おやみはそう言った。

       ***

「ああ、そういえばそんなことも言ったねえ」
「言いましたよね」

 おやみは細く長く身体を伸ばす。
 ジャングルジムに絡まった体が、あちこち伸びたり縮んだりする。

「おやみはめやみ、めやみはおやみ。どうしてこうなったかなぞ、私達ですら
憶えているものかね」
「そんなものですか?」
「そんなものだよ……違うかね?」

 きろり、と、目を向けられて、あたしは口ごもる。
 そうだろ、と、やはりおやみは目を細める。

 公園の頼りなげに細い木は、やはりさやさやと柔らかく揺れている。
 微風。
 おやみは心地よさそうに、目を閉じる。

 さやさやと音。
 微風。
 
 緑に染まる世界の中で、一緒にひなたぼっこをしている。
 そんな、或る日。


**************************************:
てなもんで。
ではまた。



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