[KATARIBE 28809] [KMN] 小説『おやみとめやみ』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Wed, 25 May 2005 23:18:43 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28809] [KMN] 小説『おやみとめやみ』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200505251418.XAA14505@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 28809

Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28800/28809.html

2005年05月25日:23時18分42秒
Sub:[KMN]小説『おやみとめやみ』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
何か懐かしい世界ですけど、歩いてたら空から名前が降ってきやがりまして、
ついでに話の断片まで降って来やがりまして。
ちょっと世界をお借りします。
まだ、キャラシートがでけてへんのですが。

*****************************************
小説『おやみとめやみ』
=====================

 おやみはあたしを好きだといった。
 めやみはあたしが嫌いだといった。

 おやみは遊びにおいでといった。
 めやみはここには来るなといった。

 おやみは尾っぽを大きく裂かれた、大蛇の姿で現れる。
 めやみは目を包帯で巻いた、女性の姿で現れる。
 
 でもどちらも、必ず言う。
 どちらも合わせて、一つなのだ、と。

     ***

 神社の裏手には何となく草臥れたような公園がある。
 さびの効いた(というか錆びまくってて元の色がよくわからない)ジャング
ルジムと、座り板の部分が真っ黒になったブランコ。そして砂場。
 おやみを見たのは、妙に天気の良い日。
 ジャングルジムに長いマフラーのようにくねくねと引っかかっているのを、
遠目に見たのが最初である。

「はて面妖な。人払いはかけておいた筈なんだが」
 硝子玉のような目をこちらに向けて、そう言ったのが第一声。
 蛇の目というと、ぎらぎらとして、そのくせ無表情……みたいな形容をされ
ることが多いように思う。そういう意味ではおやみの目は、ひどく『人間的』
であった。
「で、そこの子。怖いかね不気味かね?」
 尋ねられて……困った。怖くもなければ不気味でもないと、こちらの目には
映ったから。
 後から考えても不思議な話である。マフラーほどに太い蛇。どれだけ大人し
いと言われたって怖いに決まっているではないか。
 結局……その目の為に、怖く感じなかったのかもしれない、と、今になって
思う。
「それならあたしが最初に出ておいたほうが良かったのだね」
 そう言うと、めやみはふう、と、一つ息を吐いて言った。
「そうすりゃああんたはそのまま逃げ帰ったろうにね」
 ……それはそうかもしれない。

 寂れた神社の裏手に、おやみとめやみは棲みついているそうである。
 正確に言うと、神社の裏手の、やっぱり相当古い家に、めやみが住んでいる
のだそうである(というかおやみも当然住んでいるのだろうけど)。
「おやみが棲んでいるのは、神社」
 一度、めやみがそう言ったことがある。
「あたしはその世話をしてることになってる」
 包帯をぐるぐるに巻いた姿は、実はあたし専用らしい。普通はどうするのと
尋ねると、こうするんだよ、と、めやみはポケットからサングラスを取り出し
てかけた。花粉症対策に使う、あちこちきっちりと覆い尽くす形のそれをめや
みがかけると、何となくSFに出てくる悪役の女性みたいに見えた。
 ああそれはぴったりの形容だ、と、おやみは笑う。

 お仕事をするのは、めやみのほう。確かにおやみは仕事なんか出来ない。
「いやいやこれで、それなりに仕事をしているのだよ」
 と、おやみは言う。その仕事については、なかなか教えてくれなかったけど。
「それなりにね、稼いでいるのだよ、めやみと一緒にね」
 そして仕事の無い、天気の良い午後なんかに、ああやっておやみはひなたぼっ
こをするそうである。
「天気の良い日は大好きだよ」
 金色の目を細めて、おやみは言う。
「めやみとは違う。あれは雨の夜が大好きだ。だから喧嘩にならない。ありが
たいことだ」
 どこか、皮肉げに。
 


 おやみはめやみ。
 めやみはおやみ。

 そう知ったのは、出会ってから少しした後である。

     ***

 人蛇、なんだそうである。
 それも人間嫌いの女性の意識と、人間好きのオスの大蛇の意識とが宿ってい
るのだそうである。
 つまりは妖怪の二重人格者。それも意識が変わるごとに姿を変じることが可
能なものだから、容赦無く二重人格化は進む。そのくせ妖力で二人に分かれる
ことは不可能なんだそうである。
 それって相当、分裂しないですかと尋ねると、両方ともが、するに決まって
いるだろう、と答える。そして判で押したように、二人とも溜息をついて付け
加えるのである。
 妖怪で居るのも、楽なもんじゃあないのだよ、と。
 無論あたしは、妖怪になったことは無い。
 故に、そこら辺はあたしの答えられるところではない。

 
 おやみとめやみ。
 めやみとおやみ。

 出会ったのは、三年前。
 未だにおやみの傷は癒えることが無い。
 未だにめやみの目は、見えることが無い。
 
 おやみはあたしのことが気に入っているという。
 めやみはあたしのことを気に食わないという。

 おやみは天気の良い日のひなたぼっこが好きだという。
 めやみは雨の日の夜、暗い道を歩くのが好きだという。

 
 おやみとめやみ。
 めやみとおやみ。
 人蛇の二重人格者。

 友人、と言っては文句が出るかもしれないけれども、それなりの馴染みだと
思う。

 ……まあ多分、それなりに。

***************************************

では。


 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28800/28809.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage