[KATARIBE 28807] [CHN] 小説:『題名未定、その二』

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Date: Wed, 25 May 2005 17:31:58 +0900
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Subject: [KATARIBE 28807] [CHN] 小説:『題名未定、その二』
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 ぱらでぃんです。


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小説:『題名未定、その二』
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 暗転。
 突然の出来事に目が慣れたころ、教育用ライブラリから取り込んだと思しき
ホロを白黒加工したものが展開され、これまた同じものから引用したらしい生
存者数、死者数、被害額などが表示される。
「これだけ、ですか」
「ああ」
 呆れた顔をして擬験の制御機と直結していたケーブルを首筋から抜いた少女
を見もせず、無精髭の男はやつれた顔に自信をみなぎらせて頷く。
 そんな男を上目遣いで見上げながら、少女は言葉を選んで続ける。
「普通この手の作品だと最後に見せ場があるじゃないですか」
「時間も予算も無い。お前さんのとこから借りた金でもあれが限界だ」
「だからってこの終わり方、観た人怒りますよ」
「いいんだよ。下手に安っぽい絵を入れるよりは潔い」
「はあ」
 男は発言をするたびに自らを鼓舞するように、声を大きくしていく。
「だいたいな、星呑み関係は誰も彼も大作路線で記録映画風に作った奴はいな
いんだよ。俺はそこに」
「売れないからですよ」
「そうかな」
「そうですよ」
 話の腰を折られたせいで勢いを挫かれたのか、スプリングの飛び出たソファ
に身を沈めた男は長いため息を吐く。
「そうか」
「何度も言っていますが、この作品で債務を完済できない場合は返済プランの
適用対象となりますので」
 平均的に好ましい容姿で造られた少女型エージェントは無慈悲に告げて、ひ
びの入った合成テクタイト製テーブルの上に数種類の返済プランを記した冊子
を投げ出す。
「小惑星からの稀少鉱物採掘、未開惑星での遺伝子採取、既知領域外への探査
員など、債務返済後の人生設計もフォローしたプランを多数取り揃えています」
「それは危険な仕事ばかりじゃないのか」
「拘束期間によって各種用意されてます。ヤナカ様の能力と債務ではこのあた
りが妥当かと」
 少女が開いたページには、宇宙捕鯨艇乗組員と見栄えのする自体で見出しが
あり、月々の収支予想表や経験者からの声が載っている。
「憧れたことはあるがなあ」
「これで行きますか」
「まだこいつが売れないと決まったわけじゃないぜ」
 ヤナカは制御機を叩いて擬験プログラムの存在を示すが、少女は無表情に立
ち上がる。
「では、それによる収入が確定したらお伺いします」
「楽しみにしててくれよ」
「荷物の整理、早めにお願いしますね」
 軽く毒づくと少女は安フラットの扉を開け、薄暗い通路から外へと出る。
 薄汚れたビルの谷間、切り取られた空の向こうを宇宙船が滑っていた。

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