[KATARIBE 28805] [HA06N] 小説『霧雨の風景 〜刑事編』

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Date: Wed, 25 May 2005 01:07:50 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28805] [HA06N] 小説『霧雨の風景 〜刑事編』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年05月25日:01時07分50秒
Sub:[HA06N] 小説『霧雨の風景 〜刑事編』:
From:久志


 久志@書けない病です。

 というわけで、もう書いたはしから流そうぜ状態。
小説『霧雨の風景』の刑事側でのお話です。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『霧雨の風景 〜刑事編』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮史久(もとみや・ふみひさ) 
     :吹利県警刑事課巡査。屈強なのほほんおにいさん。昼行灯。 
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。おネエちゃんマスター。 
 軽部真帆(かるべ・まほ) 
     :自称小市民代表。毒舌家で多少の異能あり。 

史久 〜噂のあの人
------------------

 この所、休憩時間のたびに僕の周囲に人だかりが出来る。

「本宮さん、あの相羽さんのお相手のことなんですけど」
「やっぱり恋人さんなんですか?」
「しかし、あの相羽に……」
「こないだ取調室で女の人叫んでましたよね」
「ああ、この男の屑!でしょ、いつものことだけど新任さん達ビックリしてま
したよねえ」
「でも、ホントのとこどうなんですか?」

 冷徹で、ひたむきで、真剣で。ただひたすらに仕事に徹する人。
 でもそのやり方に多分に問題があって。

 おネエちゃん情報。
 ありていに言えば、追っている事件や組織に関わっている女性を手練手管で
手懐けて重要情報や捜査の糸口を得る、相羽先輩の常套手段である。やり口は
ともかくその情報の正確さと有用さは誰も文句のつけようもない。それ以外の
刑事としての能力でも抜きん出ているわけなのだが、やはり相羽先輩といえば
おネエちゃん情報というイメージが県警内でも深く浸透している。
 でも実際、先輩がもたらした情報による一斉摘発で将来起こりえた犯罪がど
れだけ回避できたか、解決困難に陥っていた事件を解決できたか。

 人は先輩を非情だと言うだろう。
 それは先輩も否定しないし、僕も否定できない。
 悪辣なこともわかっている、非情なこともわかっている。
 それでも、あの人はどす黒い所へ堂々と踏み込んで行く。
 躊躇も、ためらいもなく。

 そんな時に一報が来た。


史久 〜第一報
--------------

 傷害事件発生。
 一報を受けて、静かだった課の雰囲気が急に慌しくなる。

「通り魔か、怨恨かは現在不明です。被害者の名前は」

 同僚の報告の言葉に、僕は立ち尽くしたまま一瞬言葉を失った。
 隣の席で報告書相手に試行錯誤していた先輩がかすかに眉を上げる。

 被害者、軽部真帆。

 脳裏に浮かぶ姿。
 同姓同名の他人か、もしくは……彼女か。

 思考が巡る。
 本来公平であらねばならない立場にいながら、どうか別人で会って欲しいと
心のどこかで望んでいる自分がいる。
 まさか……彼女が?

 吹利市内の通りにて何者かに刺され助けを求めているところを発見、病院へ
と搬送された。
「容態は?目撃情報あがってる?」
 不気味なほど静かで落ち着き払った、先輩の声。
「はい、刺さったとこが運が良いのか動脈を避けているようですし、命に別状
はないそうです。犯人の方ですが実際の目撃情報ではありませんが、同時刻に
現場付近から駆け足で走っている若い女性の姿が数名に目撃されています」

 犯人は若い女性。
 現場は、先輩の家からすぐ目と鼻の先。
 刺されたのは……真帆さん。

 一見かみ合わないまばらな情報。
 でも、それぞれのつながる線の先にいるのは……

「そう、わかった」

 相羽先輩。
 同僚の報告に、表情一つ変えず淡々と情報を確認している。

「……詳しい目撃情報集まり次第、犯人にめどつける」
「はい、とりあえず被害者は警察病院で治療を受けています」

 恐らく、先輩も気づいている。

「わかった、目覚まして聴取できそうだったら連絡してくれる?」
「わかりました」

 通り魔事件。
 真帆さんが、刺された原因。
 被疑者は若い女性。

 それは……

 思わず噛み締めた歯が鈍い音を立てる。

「史さん……どうしたんですか?」

 同僚の動揺したような声も気にならないほどに。
 ただ、目の前の人を睨みつけていた。

 先輩。
 どうして、もっと。

 先輩。
 どうして、もっと彼女に気をつかってあげられなかったんですか?
 どうして、そういう迷惑をかけてしまうかもしれないってことにもっと早く
気づかないんですか?

 先輩。
 あなたって人は。
 それでも、それでも顔色ひとつ表情ひとつ変えませんか。

 そうやっていつも自分を閉じ込めて、見ない振りをして、傷ばかり増やして。

 先輩。
 真帆さんが刺されたのは、あなたのせいですよ。


相羽 〜滑落
------------

 さらさらと、降り積もってくる何か。
 言葉とか感情とか、色々。

 さみしいとか、悲しいとか、痛いとか、辛いとか、恋しいとか。
 好意とか、執着とか、善意とか、憎しみとか、悪意とか。

 自分に向けられた色々な感情。
 さらさらと雪みたいに俺自身に降り注いでくるとする。
 けど、そういう降り注いでくる感情ってさあ、見た目は軽く見えて、実はず
しりと重いんだよね。

 自分に向けて降り積もってくる、何か。
 さらさらと、降り注いでくる感情。

 そいつらが俺自身に届く前に、するりと滑り落ちる。
 降り積もらせず、降り積もりもせず。

 するりと、滑り落ちる。
 俺はずっとそうしてる。

 今までもこれからもずっと。


相羽 〜思い当たる節
--------------------

 被害者は……

 ああ。
 なるほど、ね。

 そだねえ、思い当たる節かあ。ありすぎて大変だよ、実際。
 けどまあ、なんとなく俺の勘で数人に絞れてきてる。も少し情報集まったら
直々にお伺いにでも行きますかね。

 しっかし史よお、えらいおっかない顔で睨むもんだね、お前。久しぶりに見
るよ、その怖いツラ。うちの課の連中どころか、県警内のあちこちの連中がび
びりまくってたなあ、いや見ものだったよ。

 それほど、お前が俺に怒ってるってことなんだろうね。
 まあ、怒るだろうね、お前なら。

 けど、俺だってお前が怒る理由はちゃんと理解してるよ。
 理解はしている、けどね。

 小さく頭を振って、目を閉じる。
 わかってる。

 あいつが刺されたのは……俺のせいだね。
 わかっている、けど。

 何かが微かに軋むような感覚。
 それでも。

 するりと、滑り落ちる。
 俺自身に届く前に。

時系列と舞台
------------
 2005年5月の、第一週。
解説
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 小説『霧雨の風景』の史久、相羽サイドでのお話。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
以上



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