[KATARIBE 28793] 小説:『惺』

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Date: Sun, 22 May 2005 21:59:55 +0900
From: Paladin <paladin@asuka.net>
Subject: [KATARIBE 28793] 小説:『惺』
To: kataribe-ml@trpg.net
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 ぱらでぃんです。

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小説:『惺』
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 議場中央の投影型球モニタに懸案の星系が極小時間中継で映される。
 ゼータ・レティキュリ。
 眉間に皺を刻んで瞑目した女性が顔の前で手を組んだまま思考トリガで浮遊
ポッドの圧搾空気を噴射させると、その後をもう一基が追走する。
「リンジ軍団長」
「アディク博士。いや失礼、先ほどずっと黙り通しでしたもので」
 博士が持つトリエステ放浪民の裔であるしるし、葉緑体で染められた肌が感
情を読み取り辛くさせているのか、老いた軍団長は赤銅色の禿頭を掻く。
「スタートリガーに携わっておられた博士だ。さぞや辛い」
「発言する必要がありませんでした。元老院の決定以上の良案がありません。
軍団長も解るでしょう。あれをどうにかするには」
 緑の瞳がかつて惑星軌道だったところに横たわるそれをとらえる。
「星系軍団の総攻撃も歯牙にかけず、精神波も無効。民間各社の協力も仰いで
いるようですがね」
「桁が違うか」
 帝国標準時での一日前、そこには惑星があった。
 今、そこには巨鯨が横たわるのみ。
「軍団長の気持ちはお察しします。確かあの星系の」
「ああ。最近は帰ることも少なかったが」
 老軍人が息を一つ吐き、目を伏せる。
「故郷、か。消える時に最も懐かしむことになるとは皮肉ですな」
 スタートリガーの最活性による新星化が実行されれば、あの怪物はもちろん
星系内の惑星もただではすまない。
 何事か通信を受け取った博士が口を開く。
「知性体の避難が開始されました。現地種生命体の遺伝子保存も遺伝子銀行各
社に照会済みで問題無いようです」
「始まるか」
 かりそめの天球に状況を示す文字列が追加表示された。

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