[KATARIBE 28785] [HA06N] 小説『 The World is beutiful 』

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Date: Thu, 19 May 2005 01:51:50 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28785] [HA06N] 小説『 The World is beutiful 』
To: kataribe-ml@trpg.net
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
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2005年05月19日:01時51分50秒
Sub:[HA06N]小説『The World is beutiful』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
どーんと重い、現時点の話はちょと横においといて。
以前の、日常風景として。

http://kataribe.com/IRC/kataribe/2005/05/20050506.html#210000
から作ってます。
*************************************
小説『The World is beutiful』
============================
 登場人物
 --------
    軽部真帆(かるべ・まほ)
     :自称小市民。多少異能有り。毒舌家。
    相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。豆柴君を可愛がってる。

本文
----

 例えばおネエちゃんのお店に引っ張り込まれて、さんざ遊ばれて。
 でもその後で、『大丈夫かしらあの子、変なのに引っかかっちゃ駄目よ』と、
そのおネエちゃん達から心配されたり。

 振込み詐欺防止のために老人保養所で説明会をすると、そこのお年寄り達か
ら手紙が届くらしい。あの若いお兄ちゃん元気か、詐欺とかに引っかかっとら
んか、大丈夫か、と。


 何だかんだ言ってみても。
 それってやっぱり、一つの才だと思うのだ。

       **

 後輩連中の顔と名前、妙に細かい情報の数々。
 そういうのを相羽さんという人は、きっちり抑えているらしい。

「……そやって若い衆をたぶらかすわけだ」
「失礼だねえ、教育っていってくんない?」
「だって、人心掌握術の第一歩じゃないか、それ」

 名前知ってて、特徴知ってて。
 多分『お前さんこれ得意でしょ』くらいのこた憶えてるんだろうなと。
 ……そらー尊敬すべき(って言っちゃって良いかどうかは別として)先輩に
そうやって記憶されてるのだもの。
 後輩はたぶらかされますな。

「いずれ捜査員として動く連中じゃん、きっちり名前と顔と特徴掌握してたほ
うが使いやすいでしょ?」

 色鮮やかな果物の載ったケーキを箱から選びながら、相羽さんは言う。
 
「それはそーですがね」
「無駄は省きたいからさあ……って、これ、酒入り?」
「あ、それあたし用。食べないで下さいよ?」

 家から持って来た紅茶を入れて、カップを渡す。
 ついでにケーキ用のフォークを手渡して。
 しかし相変わらずこの家には、小さいフォークが一つしかないな。

「しかし、ケーキに入ってるくらいでも酔いますか?」
「酔うというか……眠るね。ぱたーっと」

 まあ……ワインゼリー食べて踊りだした奴も居るしね。

「けど、特徴掌握って言うけど、その途中で、きっちりたぶらかしてない?」
「まあ、多少の個人的趣向もなくはない」

 そーらみろ。

「可愛いもんだよ、豆柴くん含め」
「……あんまり悪い道に染めないように」
「いやあ、この職業悪いお誘い多いからさあ、耐性つける程度にね」

 ……絶対本宮さん、頭痛起こしてると思う。

「まあ……多少悪所でも、相羽さんが一緒なら困らないだろうけどさ」
「まあ、ヤクザの三下程度なら俺の顔みたら逃げるし」
「ああ、ヤク避け相羽か」

 ヤクザも避けて通る相羽さん。略してヤク避け相羽。
 ……って、何で片帆がそんなあだ名を知ってたんだろうな。

「何気にこわもて多いよ、うちの県警」
「…………こわもて、ねえ」
「史の奴だって、虫も殺さぬ顔してるけど」

 さく、と、フォークを突き刺して。

「……怖いよ、」
「……わかるような気も……」

 穏やかな人だから。余計に怒ると怖いんだろうな。

「にっこり笑ってヤクザ追っ払えるから、あいつ」
「…………ありそげ」
「奴が本気で怒ったら…………俺でも無理だよ」
「…………なるほど」

 それは確かに、相当に怖い。


「まあ、豆柴くんも奴みたいになりたいらしいけどねえ」
「………………まあ、望みは高いに越したことは無いね」

 無理だろうねってのが、暗黙の諒解になってるあたり……彼には申し訳無い
んだけど。

「豆柴くんは豆柴くんなりの良さはあると思うんだけどね」
「うん」
「ああいう、まっすぐで素な所は、俺らにゃまねできんし」
「……確かに」
「俺なんかねじまがっちゃってっからさあ」
「だから余計に豆柴君が可愛いんでしょーが」

 真っ直ぐで、正直で、真っ当で。
 何でもまともに顔に出てて。
 本宮さんとはまた違う……けれども多分、とても人に好かれるだろうと、予
測の出来る性格と行動。
 そりゃあ、可愛いだろうな……と、思っていたら。

「いやもう、可愛くてさ」

 …………あのねそこで、にやにや笑いながら言わないでくれませんかね。

「ちゃんと呼んだらしっぽふってこっちくるしね」
「だーからっ」

 てーか、豆柴って呼ばれて、返事するからあかんのだよ!
 くつくつ笑いながら相羽さんはケーキを食べている。

「あ、相羽さん、そのケーキ適当に食べたいの食べて下さいね」
「いいの?」
「その為に小さいの買ってきたんで」
「そう」

 って……ほんっとに嬉しそうにケーキ選んでるし。
 何だかなあ。この人、おネエちゃんに囲まれてる時より、もしかして嬉しそ
うな顔してないか?
 捻じ曲がってて悪辣で、しかもそれを堂々と自認してて。
 ついでにヤク避けって異名の人が、なあ……

「あんたは?」
「ああ、適当に頂きますから」

 とりあえず紅茶を入れなおしながら。
 ふと。
 
 ……ふと、本宮兄弟と一緒に呑んだ時のことを思い出す。
 はきはきとした声。とても……真っ直ぐな。
 そして……

「……ただ、確かに、豆柴君見てると……」
「しっぽ振ってそうでしょ?」

 …………ぐ。
 思わず不意打ち。ついでにそれが否定できないと来た。
 相羽さんがくつくつ笑い出す。

「あ…………いや、そーじゃなくて!」
 そういうことを言いたいのではないのだ。

「あの人を見てますとね」
「うん」
「世界はもしかしたら真っ直ぐで、悪い奴はちゃんと罰を受けて、良い人は幸
せになるところじゃないかなって」

 カップに伸ばした手を、ふと止めて。
 相羽さんが静かにこちらを見る。
「……そういうふうに、見えたりする」


 数日前に、読んだ話を思い出す。
 関東大震災の時に起こった奇跡。
 災害に乗じて、刑務所から多くの受刑者が逃げ出し、それきり身を隠した例
も多いという。しかしある一つの刑務所からは、一人の脱走者も居なかったと
いう。
 当時の所長は、有馬四郎助。ヤソ典獄と言われた彼は受刑者を本当に慈しみ、
結果『これだけ世話になった有馬の顔を潰すわけにはいかない』と、受刑者達
が一人たりとも逃げなかったのだ、と。

 無論、そんなことは滅多に起こらない。起こらないようなことが起こったか
らこそ、当時ですらこの話は『奇跡』とまで言われているのだから。
 でも……それでも。
 彼を見ていると、それでも。

 そんな奇跡が起こるくらいには、世界は真っ直ぐなような気がするのだ。


「なるほど」
 カップを手に、相羽さんが呟いた。
「……俺が正義を説くよりも、豆柴くんが一言正義だといったほうが……説得
力は、あるね」
 それは、そうだろうけど。
 でもそれ以前に。

「相羽さんは、正義を説かないでしょ、そもそも」
「ひどいねえ。俺、正義を愛する警察官だよ?」
「説く前に行動、じゃないか」
「……まあね」

 なんつかこう。
 正義のために手段を選ばない警察官、ではあるよなと。

「……ま、適材適所ですな。見てて」
「まーね」

 相羽さんみたいな警察官が居て。
 本宮さんみたいな警察官が居て。
 豆柴……もとい、和久君みたいな警察官が居て。

 そしてあたしはこれ幸いと、この世界で生きているわけだ。
 たまにこうやってケーキを選んで。
 こうやって、ご飯を作って食べて。

「有難いことです」
「ん?」
「いや、小市民としては、ね」
「……なるほど、ね」

 皿の上のケーキを、何となく相羽さんは眺めている。
 空になったカップを、あたしはやはり何となく眺めている。
 
 それを容認する、この世界。

 ……多分とても綺麗な……

 …………この世界。


時系列
------
 2005年4月半ば。

解説
----
 相羽さんとこでご飯を作った後の、風景です。
 多分5月の事件まで、こういう風景がよくあったんでしょう。

*****************************************
 ちなみに有馬四郎助の話は本当。己の友人のお祖父さんという方は、
この方に感動して刑務官になったといいます。
 ……いやつまり、その友人から聞いた話が元なんですが(苦笑)
 豆柴君見てて、ふと。

 ではでは。




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