[KATARIBE 28759] [HA06N] 小説『間奏曲』

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Date: Sat, 14 May 2005 19:01:44 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28759] [HA06N] 小説『間奏曲』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年05月14日:19時01分44秒
Sub:[HA06N]小説『間奏曲』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
古本市の、前振り的にちょっとだけ。

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小説『間奏曲』
=============
 登場人物
 --------
  軽部真帆(かるべ・まほ)
   :自称小市民。多少の異能有り。
  軽部片帆(かるべ・かたほ)
   :毒舌大学生。論理的にして結構駄々っ子。それなりにシスコン。

本文
----

 週末、古本市だよ、と、電話口で片帆が言った。


「え、何、まじかっ」
『……あ、やっぱ知らなかったな』
 知らないとも。GWは病院の中で消費したし。
『今週末の土日。場所は吹利駅東の駅前ビル。姉さんどうせ行きたいでしょ?』
「うん行きたい」
『あたしも行くから、どっかで会ったらお昼おごってね』
「はいはい」
 
 一緒に行こうとは、言わない。
 ってことは片帆の奴、何か狙ってる本があるってことだな。
 それも多分、あたしと共通してそうな本。

『そいえばねーさん、簪いる?』
「は……ってあんたまた買ったの?」
『面白いのがあったんで、手を出してしまった。古本市で会えたら渡すよ』
「あんたねー」

 本人、面倒だからって髪の毛を肩までしか伸ばしてないくせに、何故か簪だ
の櫛だのを買いたがる。無論六華の為の櫛みたいな高価なものではなく、そこ
らの骨董市みたいなとこで気に入ったものを買うらしいんだけど。
 
「そゆの好きなら、髪の毛伸ばせばいいのに」
『姉さんくらい無いと、使えないでしょこれ』
「そこまで伸ばさないでも使えるけど?」
『でも、あたしは要らないの』

 無論学生だから、そんな大したものは買えない、とはいう。例えば櫛ならば
歯が折れている為に細工の割に値段が安いものなんかを見つけては買ってくる。
『小さいものなのに、本当に丁寧に作ってあるじゃない。それも確かに黒地に
映えるような色調とかで』
 だから、最近のものは片帆は買わない。古道具の、それも時折壊れそうなの
を『細工が気に入ったから』と買ってくる。壊れそうだから使うのが怖い、と
いうと、いいよ、どんどん壊して、と返って来た。

「……いや、ありがたく頂きますけどね。どんなの?」
『何かね、笄のでけそこない。でも残ってる端は珊瑚で花の細工になってる。
棒の部分は木で出来てるし、結構強いし』
「なるほろ」
 花の細工が気に入ったなこれは。

 たかが髪の毛。それを飾るのに本当に細かい細工を繰り返し、細かい所まで
手を入れている。
 それがとても好きなのだと、片帆は言う。
 月の意匠。鳥の意匠。時には鉄製で護身用を兼ねた簪なんてものまであるら
しい(無論そういうのは値段からして手がでないらしいけど)。
『何か高価な宝石だの何だのじゃなくてさ、螺鈿たって貝だし。珊瑚ったって
そんなむやみに大きなの使ってないし』
 それはそうだ。
『特に昔、誰かが使ってたのって好きなんだ。その人が細工を気に入って、本
当に自分を飾る為に買ってるわけじゃない?それも毎日使うものとしてさ』
 それも理解する。
『んで、姉さんに渡すとさ、付けたらどう見えるかすぐわかるじゃない?』
 ……そこらが片帆の感覚の、よく判らない所なんだけど。
『だから、買うの好きなの』

 まあ確かに、もし江戸の時代に生まれていれば、片帆だったらこういう細か
い作業を行う職人目指したかもしれない、とは思う。そしてあくまでコレクショ
ンとして、こういうのが欲しいのかなとも思ったりする。
 
 ……でも。
 経験からして、片帆が気が付いてるかどうかはまた別として。
 こういうのを買いたがる時って……片帆が不機嫌な時なんだよな。

「……片帆?」
『何』

 不機嫌の理由は、判っている。
 そして多分、今の状態を説明すれば、片帆は多分もっと不機嫌になる。
 大体矛盾してるのだ。どれだけあたしの友人が気に食わない、失礼だって、
拗ねまくっていようとも、その連中があたしから離れてゆくと、今度はがあが
あ文句言うのが片帆なんだから。
 論理的な駄々っ子、と、言ったのは弟だっけか。
 その論理を論破できないのはお兄ちゃん、と、一撃で倒したのも……片帆な
んだけど。
 ほんっと……毒舌だけは一人前なんだから。

「……いや、教えてくれて、ありがと」
『いーえ。どうせ知らないと思ったからさ』

 じゃね、と、電話が切れる。
 受話器を、そっと元に戻す。


 ほんとうに。
 あと、どれだけの時間があるだろうと思う。
 何だかんだと言いつつ、片帆が望み、満足する……その最後までに。

「……なんだかな」

 魚の餌やりは、これでもう4日続いている。
 何時まで続ければいいか、判ったら連絡くれ、とは書き残したんだけど、ま
だそれらしい連絡は来ない。この場合相羽さん、ずっと家に戻ってない可能性
もあるしな。

 …………ああ、ほんとに。

(どうせならば一撃で片をつけられたほうが楽ではないかとは思うのだ)
(いつもいつも、電話が鳴るのに怯えるよりは)


 てーか。
 どうしてだろうなあ。
 どうしてあたしは……こうもきっちりと予測するのだろう。
 予測してどうして疑わないのだろう。

 
 必ず、斬られるのだ、と。



 溜息を一つついて。
 病室で寝ていた分の遅れを取り戻すべく、ソフトを立ち上げて。

 
 あたしはまた、そんな風に『いつも』に戻ってゆく。


時系列
------
 2005年5月、GWの次の週

解説
----
 古本市の前振り、と申しますか。
 相変わらずの真帆と片帆の、電話越しの会話です。
***********************************************

多分、天沢退二郎の本だと、姉妹とりっこになりますので。
その関係でしょう(苦笑)

ではでは。




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