[KATARIBE 28748] [HA06N] 小説『霧雨の風景』其の五

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Date: Mon, 9 May 2005 23:41:00 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28748] [HA06N] 小説『霧雨の風景』其の五
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年05月09日:23時40分59秒
Sub:[HA06N]小説『霧雨の風景』其の五:
From:いー・あーる


ども、いー・あーる@へれ です。
自分の力量を考えず、突っ走っておる奴です。
…………(うわーん)<自業自得とはこう言う状態を言います。
とりあえず、続きです。

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M-12
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 本が、紙袋から一冊ずつ取り出されて、枕元に積み上がる。
 そして、読み終わった本が、やっぱり枕元から紙袋へと収まる。

「……あの、さ」
「何?」
「相羽さん、仕事は?」

 いや、本持ってきて下さるのは、ほんとに有難いのだ。現時点殆ど動けない
ことを思うと、拝みたいくらいに有難い。
 ……でもねえ。
 朝方、仕事前とかゆーてひょこっと来て『ああやっぱり読むの速いね』と本
確認して、多分昼休みくらいの時間に別の本持ってきてくれたついでに日本の
ハードSFの話を暫くしてって(ヒノシオコンビの話、他に復刊してくれない
かなとか)、んで夜にひょこっと来て、ああ読んでるねで帰って。
 そんで今朝本を持ってくるてああた。
 ちょっと前に過労で倒れた人が、一体何をやっているのだ。

「忙しくない?」
「一息ついたしね」
「……また、倒れられたら困るんですけど」
「学習したよ、そこらへんは」
「…………でも、本宮さんも、忙しいって言ってましたけど」
 実績が実績だけに、どうも心配になるんだが。
「平気だよ」
 ……なんか今、片帆が『ねーさんの平気はあてにならないっ』と怒る気分が
とても判った気がする。

 本を入れた袋に視線を落としたまま、ふと、相羽さんが笑った。

「……迷惑、かけたからさあ」
 あいた。
「かけてないよ」
「一応、気にしてんだよ」
 積み上げた本を取り上げて、読むでも無くただぱらぱらとめくる。
「冷血じゃあ、ないからさ」
「……いや、冷血とかじゃなくて」

 つーか……いかん。そこがまだ解決済んでなかったか。

「あのね」
 手にとっていた本を置いて、相羽さんがこちらを見る。手招きすると存外素
直に近づいてきた。
「気にするなって言わなかったっけかあたし?」
 手首のあたり、上着の端を捕まえる。
 何だか妙に……相羽さんと視線が合わない。
「言ったよ」
「じゃあ」
「それで即座に、気にしなくなるとおもう?」

 ……それはそうだけどさ。

「でも!それで過労でまた倒れられたらこっちが辛い」
「倒れない程度にくらいには、考えてるよ」
 
 そう言われると……困るけど。

「それでも、さ……気にしないで欲しいよ」
 と、いうか。
 そもそもだ。
「相羽さんのせいじゃ……無いもの」

 言った途端。
 相羽さんがこちらを見た。

 怒っているわけでもなく、睨んでいるわけでもなく、ただ無表情のまま。
 こちらを、見ている。
 
 …………気圧される。
 
「……だって相羽さんのせいじゃないだろう!」
 思わず、大きな声になる。
 相羽さんはわずかに目を細めた。
「相羽さんが、あの女性に『刺して』って頼んだか?」
 詭弁かとも、思うけど。
 でも責任って……そこまでいけばあるだろうけど。
「どうよ」

 見据える。
 無表情のまま、相羽さんは口を開いた。

「……あの子、泣いてたからさ」

 え?

「……俺が来るってわかってて」
 片帆の言葉を思い出す。
 予測は、していたけれども。
「顔あわせるなり俺の胸にすがりついて、泣いたから」
 そういう相手だったんだろうな、とは思ってたけど。
「……やっぱり、俺のせいでしょ」

 それで……こういう表情、なのか。

「…………違う」
 自分でも……多分、相羽さんの立場になったら、自分のせいにする。
 けれども。
「もし、そういう理由が正当化されるなら、あたしは相羽さんが利用したおネ
エちゃん全員にずたぼろに斬られてる筈だ」
「…………」
「そも、その人に斬られる理由は、あたしにない。もしあると言うなら、それ
は勘違いでしかない」
「斬られるのは、俺のはずだった」
 莫迦言っちゃいけない。
「……彼女、名前で確認してたよ?」
 っていうか。
「そもそも、あたしと相羽さんを間違えるか普通?」
「……いや」
 流石に……幾らなんでもそれは無かろう。
 相羽さんも俯いたまま、苦笑した。

「……だから」
 正直なところ、彼女がどう考えて何が気に食わなくてあたしを刺そうとした
のか、正直わからない。どうして、と尋ねてはみたいけれども。
「彼女の理由は、あたしはわからない。でも、彼女には、理由がある」
 結局その理由を作るのは、彼女自身。
 彼女はその理由に納得し、あたしを刺そうとした。

「それは……相羽さんのせいじゃない」

 そこに責任は生じない。

 視線の先で、相羽さんは一つ溜息をついた。

「……そう」
「だから、気にするなったって、気にするだろうって判ってるけど、言う」
 でないとこの人は、本当に気にするから。
 気にして……自分をすり減らすから。
「気にするな」
 
 上着の袖を、握る。
 
「……返事は?」

 暫く沈黙してから、相羽さんは、肩をすくめて笑った。
「……わかった」
「諒解」
 袖から、手を離す。
 それなら……いいや。

「……ほんと、無理しないで下さいね」
「大丈夫だよ」

 ……信用でけへんなあ。
 こちらもご飯作れないし、どうせまたコンビニ弁当くらいしか食べられない
んだろうし。

「やっぱり相羽さん奥さん居たほうが良いよ」
「奥さんになる人可哀想でしょ」
 あっさりと返事がくる。
「……てか本宮さんは結婚したし、あたしはご飯作れないし、こういうときに
心配だよね」
 友人では出来ることに限りがあるから。
 相羽さんは、苦笑した。
「……たぶん、俺が無理」
「うーん……」
 無理って言われると……それはそれで困る。
 気持ちはわかる。
 ふ、と、息を吐いて……ふと。

「……あ」
「何」
「ってことは……刺した人、見つかったんだ?」
「……見つけたよ」
 それは。
「……会ってみたい」
 そういうの無理かな。
「絶対あたし、誤解されてるから」
「……面会は、一応できるよ」
「じゃ、会いたい」

 どこをどう取ったって、彼女誤解してるものな。
 どんな結果になろうと……それは、嫌なんだ。

「……掛け合ってみるよ」

 必要か必要でないかはわからない。
 でも……やっぱり。

「お願いします」


0-7
---

 考えても考えても、判らないことはあるものだけれど。
 判ってしまうこともまた……少し怖い。


 名前は、『上嶋千夏』。
「ちなつさん?」
「そう」

 
 彼女があたしを刺したことについては今のところどうこうは言わない。どう
いう理由か知らないが、排除すべき相手として彼女はあたしを見ていたんだろ
うし……ええ、『相羽さんのご飯あたしが作りたかったのに、あんた要らん手
出ししてっ』と言われれば……それは確かに成程なとは思うけど(なら先に言
え、なんぼでも代わるぞ、とも同時に思うんだが)。そこらは彼女に聞かない
と判らない代わりに、聞けば多分ある程度まで判る気は、する(誤解があるこ
とまで全て含めて)。


 ただ。

『顔あわせるなり俺の胸にすがりついて、泣いたから』

 その、心理が……怖いと思う。

 事実とは大いに違うぞこの野郎ってのを横に置いて、千夏さんの考えを辿っ
てみる。自分の好きな男のところに毎度ご飯作りに行く女が居たとして、それ
が癪に障る、腹が立つ、これはまあ『そういうこともあるだろうな』とは思う。
 で、腹が立つから排除する。刺す。うん、これもまあわかる。
 ただ。

 相羽さんの職業を判っていたかどうかは知らない。まだ正体をばらしていな
かったのかもしれない。でもそれでも、相羽さんがよくやった、と、褒めに来
たのでないことくらいは、わかっていた筈だろう。

 でも、すがりついて、泣く。

 許して下さい……と?
 あたしはこれだけ貴方を愛しているのです、その証拠なのです。
 これだけの恐ろしい罪を、貴方の為に行ったのです。

 だから……
 …………と?

 
 嫌だ、と思う。その甘えも、その勝手さも。
 多分以前ならば、一言で斬り捨てていた。そう思う。


 ただ。
 ふと。

 その甘えに見覚えがあるような気がする。
 その故に、斬り捨てられない……ような。

 
 そのことが、何より怖い。


 そんなことをうろうろ考えながら……うつらうつらと眠ったようである。


        **
 
 夢を見た。
 夢というより……以前のことを、夢の中で思い出していたのだけど。
 
 どういうわけか、片帆は相羽さんと反りが合わない。それはもうとことん合
わない。というか一方的に片帆が嫌っている、わけなんだけど。
 まあ、無理もないんじゃない、と、相羽さんが一歩半先で笑う。
 相変わらずこの人は、足が早い。

「そんだけ、心配してんじゃないの?」
「……だけど、行き過ぎ。どう考えても」
「実際、心配な姉だしさあ」
「……いや、心配て」
 そこまで心配されるかなあ、と、思ったのが顔に出たのだろう。
「絶対心配かけてないっていえる?」
「片帆があたしの流儀をわかってればね」
「わかってないから心配なんでしょ」

 わからせてないし、わからせる努力も足りてない。
 その、言外の意味を含んで。
 相当きつい言葉の筈が、すらりと耳に届く。

「……筋が通らない死は、あたしはごめんだし」
 そんなものは、昔から……片帆も知っていた筈なのに。
「…………あの子は、もう、泣かせない」


 うろうろと。
 夢の中で……そう答えながら、考えている。
 どうしてこんなことを思い出しているのだろう、と。


「筋が通ってなかろうと通ってようと」
 不意に、足を止めて。
「……あんたに死なれたくないんでしょ、あのこはさ」
 振り返ってそう言う。
「…………今は、死なないよ」
 だからそう答えた。
「死ぬ理由が、無いから」
 ふうん、と、呟いて相羽さんは苦笑する。
「三月に」
「…………ああ」
「……理由があったから、死のうとした?」
「…………どうだろう、ね」
「それがわからないんじゃ、いつまでたったって心配でしょ、あのこには」

 そして、ふと、思う。
 ああ……そうか、と。
 
「…………けりをつけたほうがいい?」
 そう、あの時言ったのだった。
「死ねば……忘れられる、からね」
「忘れてもらえる、かね?」
「忘れるものだよ」

 そのように。
 傲慢にも。

「……片帆は……それなりに、幸福だから」

 貴方に迷惑をかけたくないのです。
 だから私は消えましょう。

「忘れられる、ものだと思う」

 だから私は私を殺しましょう。
 それだけ私は貴方が大事なのです。

「……そう、思う?」
「うん」

 ふと、だぶる。

 貴方の為に私を殺すほど、貴方は大切なのです。
 (貴方の為に彼女を殺すほど、貴方を愛しているのです)

 その論理の、あまりの似かより方。
 その……唾棄するほどの、甘えと身勝手さ。

「……そう」

 振り向いた顔に、幾人もの顔が重なる。
 その全てが……断罪する。

 甘えと、身勝手さとを。

        **

 がく、と足を滑らせて起きた。
 起きて……暫くは動けなかった。

 消灯時刻を過ぎた病室は、窓からの淡い光のせいで、それでも真っ暗闇では
無かった。
 そのことが、有難く。

 そしてまた。


「……どうしよう、ね」
 
 甘えと言われても、今更如何ともし難く。
 でも妹との絆は、切るにも切れないもので。

 ……でも。

 ………………でも?


 それ以上考えたくなくて、布団を頭から被った。
 酒が無くてよかったと思う。あれば本当に……忘れるまで呑んでいたろう。

 考えるな。
 酒を呑まない代わりに……今は、考えるな。

 
 長く……そんなふうに呟いていた記憶がある。


********************************************

 てなもんで。
 さてここを、どう真帆は自分で論理付けて回避するか。

 ……てなとこでええ(まだ考えてないとか言うなよ己)
 ではでは。


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