[KATARIBE 28739] [HA06N] 小説『ボストンバッグの中の腕』その一

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Date: Sat, 7 May 2005 16:19:20 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28739] [HA06N] 小説『ボストンバッグの中の腕』その一
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年05月07日:16時19分19秒
Sub:[HA06N]小説『ボストンバッグの中の腕』その一:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
この前チャットで出てきた話を、文章化してみました。
参考ログは、
http://kataribe.com/IRC/HA06/2005/05/20050503.html#230000
から翌日にかけて。
まだ途中ですが、一応ここまで流してみます。
 
特に導入部等、書き足し部分など多いです。
チェックお願いします>皆々様

************************************
小説『ボストンバックの中の腕』
=============================
登場人物
--------
   軽部真帆(かるべ・まほ)
    :自称一般小市民。幽霊を実体化する異能の持ち主。
   忌野朱理(いみの・あかり)
    :焔憑きの青年。大柄で無口。幽霊を見ることも触れることも可能。
   相羽尚吾(あいば・しょうご)
    :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。おネエちゃんマスター。
   山野未絵(やまの・みえ)
    :幽霊。真帆によって実体化される。


本文
----

 何のついでにそういう話になったんだか、今でも思い出せないけど、ただ
後から考えれば、えらい良いタイミングだったとは思う。



「じゃ、例えば幽霊が、私は殺されました、とか直訴したらどうする?」
「まず遺体が見つからないことにはね」
「…………」
 いや、幽霊なんですけど。てことは死んでるんだと思うんですけど。
「それと証拠だな。あとできるだけ状況のこと説明してもらう」
 確かに、それは正しい手段だし、正しい方法だと思うけど。
 ……と、もそもそ考えていたら、相羽さんは苦笑した。
「基本的にね、警察はオカルトを認めちゃいけないから」
「……それは、そうかもね」
 それは、尤もなのだけど。


 六華と香夜の一件で……そして幸久氏の協力ではっきりしたことなのだけど。
 どうやらあたしの周囲で、幽霊は実体化するらしい。それも自動的に。

「全っ然、気が付いてないだろ」
「……すいません」

 幸久氏に言わせると、そういう幽霊に気が付くという感覚については、あた
しは人一倍鈍いらしい。そして肝心の幽霊に近づくと相手は実体化(それも生
前、ごく普通だった姿をとって)する。つまり一時的に彼等は幽霊ではなくな
り、正に普通の五感で捉えられる存在になってしまう。
 つまりがとこ、あたしは所謂霊能力なんてもんには全然縁が無い。
 ……のに、幽霊に自動的に関与する。

 流石に気が引けて、そんな妙な能力があることは相羽さんにも本宮さんにも
言ってはいない。ただ、幸久氏経由で本宮さんにその話が流れている可能性は
無いとは言えないし……あったって別に構わない。少なくともお兄さんには多
少なりとその手の話に免疫がある、と、期待するだけのことである。

 ただ、思うのである。
「けどさあ、葬儀やってても喪主の後ろで恨みがましそうににらんでる奴とか
見るとさあ……どーにかならんもんかなとは思うけどさ」
 幸久氏のその言葉に……やっぱ、同意してしまう面もある、わけで。


「じゃ、幽霊が自分の遺体を見つけて、誰かに伝えて、これこれこういう状況
で死にました、まで判ったら?」
「全面的に利用はできない。けど、ちゃんと遺体見つけるか、事件の疑いをも
つ証拠を見つけることができれば俺らも動ける」
「遺体、かあ」
「死体の部分でもみつかったら動けるから……それか、事件の可能性があると
いう確かな情報、ね」

 まあ、一番なのは、そういうのに関わらないことだけどね、と、相羽さんは
言い……それには賛成だったんだけど。


 けど。

            **

「えっと、腕はあそこに。首はあっちのほうにあります……あと、足と胴体は
ずっと北の方にあるのだけはわかるんですけど」

 時折妹に、莫迦、と評価される。時折それに頷いてしまう自分がとても哀し
いのだけど。
 今回、やっぱりこれは……莫迦かもしれない。

「あそこって……ええと?」
「あそこにボストンバックが埋まってて、その中に手が入ってるんです」

 見かけ20歳前後、ロングヘアに眼鏡のちょっとお嬢様風の女の子。振込み
の用事を思い出して慌てて銀行に行った帰り、ちょっと足を伸ばして川原に行っ
てみたのが……まずかったか。
 平日の午後3時頃。
 川原には殆ど人が居ない。ここから見えるのは少し離れた所でバイクを動か
している男性だけである。
 何かバイクが小さく見えるのは……多分あの人かなり大きいんだな。

 ……って、逃避してる場合じゃない。

「ボストンバックって、埋まってるって……掘り出せる?」
「えっと……多分」

 本を読みながら歩いてて、ふっと目を上げたら彼女と目が合ったのだ。
 合った瞬間じーーーっと見られて。え、何か変かなと思うくらい一心に見つ
められて、思わず立ち止まったのが運の尽きで。

『私のこと見えますか?』

 いや多分、貴方のこと今、誰もが見えるんですよと言う前に。

『助けてください!』

 …………女の子にそう言われちゃ……仕方ないんですよね。

         **

「……これ?」

 彼女の言うとおり、ボストンバックはそんなにきっちりと埋められていたわ
けでは無かった。というか本当に最近埋められたらしく、土の掘り返した後が
(均されてはいたものの)それなりに残っていたし、運良く近くに細長い板切
れがあったんで、作業は余程はかどってくれて。
 持ち手が見え、直に本体が出てくるまでに、大した時間はかからなかった。

 ただ。
 出てくるのは、いいけどさ。

「このバッグの中にあたしの腕がある筈なんですけど……」
 さら、と、長い髪を揺らして彼女がこちらを見る。眼鏡越しの目は何時の間
にか半泣きの状態になっている。

「……見ないとダメですか?」
「いや、てか、見ないと……貴方の腕だって確認できるの貴方だけだし」
 そら、あたしが見て、彼女の今の腕と比べればそれで良いんだろうけど。
 あたしだってそんなんやだ。
「ってか、元々貴方、幽霊でしょ?」
「はい」
「……あたしが離れちゃえば、自然に見えるけどね、その中」

 ぽくぽく土を掘り返しながら、彼女に話した。あたしを中心に、半径5m。
その中では幽霊は自動的に実体化する。故に貴方も今は幽霊ではなく、人間に
見える、と。
 ……だから手伝えってのが、まあ主体だったんですがね。
 だけど、そう考えると、彼女からあたしが5m離れれば、途端に彼女は幽霊
に戻る。幽霊になった彼女になら、バッグの中はあっさりと見えるだろう。

 と、思ったんだけど。

「いやぁぁっ! 自分の腕なんて見たくありませんっ」
 って貴方、あたしにしがみつかないで下さいな。
「でも、確認しないといかんでしょ?」
「そ、そですけどっ」
「……そしたら、今開けて見たほうが楽かもよ」
 ぢとーと恨めしげに彼女が見上げてくる。
「ほら、今は、貴方も自分の腕があるように思えるでしょ。だからこれが他人
の、自分にそっくりの腕だと思えば思える」
 うむ詭弁だ。
「…………えーーっと……」
 それでも基本的に人が良いのか何なのか、彼女は暫く考え込んだが、じきに
ふにゃっと半泣きになった。
「……他人の腕でも見たくないですよぉ」
 ご尤も。
「ま、でもほら、ね」
 頭を撫でる。作業の間、日に晒されていたせいか、彼女の頭はふわりと汗ば
むように暖かくなっている。
「犯人逮捕のために、警察に頑張って貰うための第一歩だと思って」
 河原にて、泥だらけのボストンバッグの前で女二人並んでて、それも片方が
片方にしがみついて、片方が頭を撫でている図。
 ……なんつか……あまりに普通なようで。
 あまりに……妙だ。

「あたし、警察の人知ってるし。これがほんとに貴方の手だったら連絡して話
しますから」
 ね、と、宥めると彼女は顔を思いっきり顰めた。
「うぅ…………」
 顔を思いっきりそらしたままではあったけれども、彼女はバッグのチャック
を開ける。ぎぎ、と、チャックが泥を噛むような嫌な音。
「頑張れっ」
 そして…………

 血の臭い?

 思わずバッグのほうを見た。彼女のほうはバッグを見ないようにして、もぞ
もぞと中に手を突っ込んでいる。細い腕の周りにチャックがまとわりついて、
中はあまり見えない(というかあたしも見たくないというか)。

「え」
 と、彼女の手が動きをとめた。

「これ…………」

 そして、何かを持ち上げる。
 チャックの口から、まず彼女の手首が見える。そして細い指が……二組。
 二組?

「あぅ…………」

 細い指。片方は真っ白で、確かに多少泥で汚れているけどそれだけで。
 けれどももう片方の手は…………赤黒い、汚れが。
 ……つまりこれ、彼女、自分の腕と握手してる?

「あ、あのー」
 一瞬逃げかけて、踏みとどまる。
 鞄の中の手は確かに血にまみれてるけれども、まだ……何ていうか、綺麗で、
皮膚の色が多少変わっているくらいで。
 よく出来た、SFXのようですらあって。

「……じ、自分の腕っぽい?」
 返事が、無い。
「え、ちょっとちょっとちょっとっ!」
 慌てて彼女の肩をゆすぶる。
 と、くてーーと細い身体が倒れる。はずみで血まみれの腕が、バッグから半
分ほどはみ出した。

「ありゃ」

 無理も無い、とはいえ……貴方に倒れられるとあたしが困るんですがっ。
 でもこうなったらまず警察に電話。これは不思議じゃない。あ、でも公衆電
話までちょっとある。その間彼女をここに置いといたらまずい。そらあたしが
離れたら彼女は幽霊に戻るだけだけど……だけど自分の腕の近くに、寝かしと
くわけにもいかないし。
 握っている手を、離させる。手首を持って数度振って、絡まった指をはがし
て。
 ぽとん、と、手が落ちる。
 その指のあたりに、何か一瞬きらっと光ったのを、半ば無意識に確認。
 そして慌てて彼女の手を見る。
 同じ、指輪。

 ってことは、やっぱり彼女の腕、で。
 早く知らせなきゃ。

 ええ、ええと。
 あ。

「ちょ、ちょっとちょっとそこなおにーさんっ!」
 気が付いたら先程までバイクを近くで押していたお兄さんは、背中を向けて
離れようとしている。思わず声をかけるとびくっとして振り向いた。
 きょろきょろと、周りを見回している。
「君だ、君!」
 そう言うと、ようやく視線がこちらに固定されて。
「ねえ、携帯かなんか持ってる?」
 声をかけると、相手は一度息を吐いた。バイクのスタンドを起こして手を離
し、こちらに近寄ってくる。
 相当、背が高いな。

「……どうしました?」
「ちょっとね、事件。つか面倒なものが見つかったの」
 ウェーブの掛かった長い髪ごしに、相手はこちらを見る。
「警察呼んで欲しいんだけど」
 ……ええとね、そこで沈黙されてもなんだけど。
「携帯無い?ある?どっちっ?!」
「無い」
「……じゃ、ここで待ってて!」
「……うむ」

 咄嗟に。
 後で考えると……あたしが離れると彼女は幽霊化するし、つまりそれは彼女
が消えるってことだし、もしかしたらそれでこの人逃げてもおかしくなかった
よな……ということなんだけど。
 でも流石に……こちらも頭に血が上ってたんだと思う。陽光が妙に黄色を帯
びて、現実味を消し去るようにも見えて。

 こと、と、落ちた腕。
 はずみで大きく開いたバッグの口。
 中に見える、もう一本の、白い、もの。
 血臭。

 後から考えると、それでも何とかなったのが凄いけど。


 公衆電話に辿り付いて、硝子の扉を開けて。
 無意識のうちに、電話番号を押す。
 押してから気が付く。これ、相羽さんの……仕事じゃない電話用の番号だ。
 まずかったかな、と思う前に。

『はい、相羽です』
「……あ、あの、腕、見つけた」
『は?』
 莫迦かあたしはっ。
 思わず空いている手で頭を殴る。名乗ってない、場所も言ってない、何がど
うかも言ってない。
 落ち着かないと。何焦ってんだ。
「ええと……」
 額を抑えた途端、自分の手が視野に入る。

 血まみれの手。
 多分二本。
 
『どしたん、ゆっくりでいいから、わかってること説明して』
 聞きなれた声。
 一度、深呼吸して。
「ボストンバッグの中に」
 血まみれで細い腕で指輪がはまってて多分二本で長くて彼女の手に細い指が
「腕が、入ってて」
 必死で、連想を止める。
「川原で、見つけた」
 声が、裏返る。
「……てか、自分の腕を、幽霊が見つけて倒れてて」
『…………わかった』 
 ぺらぺら喋りかけたのを、相羽さんの声が止めた。
 真っ白になりかけた視界に、ざっと色が戻る。

『現場どこ?遺体は動かさないでね』
「川原の……公衆電話から、電話してるけど、そこから大通りのほうに1分く
らい戻ったとこ」
 必死で目印を思い出して伝える。ああそこね、と、電話の向こうで声。
『鑑識と近場の警官むかわせて現場保存するから』
「うん」
『そこ、動かないで』
「はい」

 受話器を置いて、しかし最後の『はい』だけは従えないなと判断。
つか、戻らないと。
 大慌てで現場へ戻る。
 見えたのは、ウェーブのかかった長髪のいかついお兄さんと、その傍にある
腕とバッグ。
 見えないけれども、何かを抱えているように腕が曲がっていて。

 ……この人、幽霊が見えるのか。
 
 そう、認識した途端、『運がいいっ』と思ってしまった自分は……
 ……相手には、申し訳なかったかもしれないが。

「そこのお兄さん、その幽霊さんちょっと現場から離してっ」
 言いながら、あたし自身は少し彼から離れる。彼が何やら小脇に抱えている
格好で、バッグから数歩分離れたところに移動したところで、サイレンの音が
聞こえてきた。

          **


 これは後で聞いたことだけれども。
 お兄さん……忌野さんというのは、幽霊が見えて触れる人であったらしい。
 で、あたしが電話している間に……彼女の面倒を看ててくれたそうだけど。

 幽霊だけど……一応、と、気道確保して、楽な姿勢にして頭を揺らさないよ
うにして。

「……あたし離れたら、彼女幽霊に戻らなかった?」
「幽霊でも、触れるから」
「いや、それにしても……」

 その上、脈を(というより脈が無いことを)確認、瞳孔を確認。

「……瞳孔って、開いてなかった?」
「開いていた」
「…………で?」
「正常だな、と」


 …………えーと。
 世界はとても広いな、と、思った自分の反応は、別に変ではなかったと思い
たい。
 切実に。

*****************************************

と、ゆーわけで。
いや、忌野さんと真帆が離れてたときの風景をどう書こうかと思って、
上のように処理してしまいました。
もっとこうやったら、ってのがありましたらよろしくです。

続きは……出来るだけ頑張ります(汗)
ではでは。


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