[KATARIBE 28727] [HA06N] 小説『躑躅刻』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Thu, 5 May 2005 17:27:02 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28727] [HA06N] 小説『躑躅刻』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200505050827.RAA02554@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 28727

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28700/28727.html

2005年05月05日:17時27分02秒
Sub:[HA06N]小説『躑躅刻』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
IRCのHA06チャンネルで話してたことから、ふと浮かんだネタで。
幸久さんお借りしてます。口調等、お願いします>ひさしゃん

*************************************
小説『躑躅刻』
=============
登場人物
--------
  軽部真帆(かるべ・まほ)
   :自称小市民。多少の異能有り


本文
----

「おばちゃん、おばちゃんなー?」
「はい?」

 一日部屋に篭って仕事。夕刻に買い物にゆく。
 その途中の児童公園には、あまり子供が居ない。
 代わりに、でもないけれども、桜とつつじ、そして折々の花を咲かせる木々
が妙に豊かで、案外通るのは楽しみなのだが。

 通りかかって、丁度咲いている白いつつじを見ていると、不意に後ろから声
がかかった。

「おばちゃん、ぼくなあ、ポケモンの人形落してん」

 丁度、甥っ子と同じくらいの年だろうか。口調がまた大阪弁で、甥っ子のそ
れに良く似てる。少しきつめの癖っ毛が、悪戯っ子っぽい顔を縁取っていた。

「へえ?」
「んでなあ、それこっちのほうにあんねん」
 ぐいぐい、と、手にとっついて引っ張る。いやそこまでしなくてもついてゆ
くし。
「って、どこに?」
「あんな、この中やねん」
 ……って、溝の中かね。
 ええとつまり、それをおばちゃんに取れとのことかね?

「ええっとちょい待ってよ」
 溝の上に被さっているコンクリートの蓋を持ち上げて外す。近くにあった折
れた枝で水の中をかき回す。
 ……そんなに深くは無いのか。
「何てポケモン?」
「レックウザー」
「おや」
 それはこの前甥っ子がうわごとのように唱えていた名前だ。
「どんな人形?」
「あんなー、長くってなー、緑でなー、とかげやねん」
「……ああドラゴンね」
 うーん、そんなんあるかなあ……ってか、この溝の中だから、水と一緒に流
れたりしないのかな。

 ……ん?
「あ」

 一瞬。ちょっと妙に引っかかる手ごたえと、緑色が見える。
「それやそれっ」
 耳元で大喜びの声。こうなっちゃ仕方が無い。
 濁った水の中に指を入れて、掴む。かなり汚れてはいるものの、それらしい
緑色のドラゴンの小さな人形が顔を出す。

「あったよー、ほら」

 言って、人形をつまんで顔をあげて。

「……え?」

 誰も、居ない。


             **

 仕事が終わって5分でいい、ちょっと来てくれと電話した。
 ぶつぶつ言いながらも、専門家は約束の時間通りにやってきた。

「何だよ一体」
「うん、これ」
「……ポケモンの人形だろ?」
「うん、だからね」

 公園には、もうだれも居ない。

「これ、誰に渡せばいいのか、教えて欲しくって」

 専門家、こと幸久氏、ことゆっきーさん(六華曰く)は、少し顔をしかめた。

「そういう、もん?」
「そういうもんだと思う」

 ふうん、と、溜息のように呟くと、幸久氏は人形を受け取り、しばらく見て。
 そして、頷いた。

「判った。渡しといてやるから」
「あ、わかった?」
「うん」

 近くの水道で洗った人形を、幸久氏は握りなおして。

「……うちのお客だ」

 あ。

「……そう、なんだ」
「明日が葬儀」
「…………お願いします」

 と、幸久氏がこちらを見る。
 多少、言いづらそうに。

「伝言。おばちゃんありがとなー、だってさ」
「あは」

 ゆっきーさん、貴君の発音じゃ、まだ大阪弁には足りないわ。
 ちっさい癖に、強烈な…………

「かまへんかまへん、って言っといて」

 くりくりの腕白坊主。
 甥っ子と同い年くらいの。

 そのことが、とても。


 ふと、視線を逸らせた先に、夕闇にほの白く。
 つつじの花が咲き誇っていた。

時系列
------
 2005年4月下旬

解説
----
 半径5mの中の、幽霊を実体化してしまう真帆の異能話です。
 心残りが無くなれば、幽霊でもなくなるため、『実体化』の能力は作用しな
くなり……そして消えてゆきます。
***************************
 
ええ、れっくーざぁとは何やねんと、まじに考えましたよ己(苦笑)
ではでは。


 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28700/28727.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage