[KATARIBE 28722] [HA06N] 小説『猟犬徘徊』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Wed, 4 May 2005 23:22:46 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28722] [HA06N] 小説『猟犬徘徊』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200505041422.XAA66561@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 28722

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28700/28722.html

2005年05月04日:23時22分45秒
Sub:[HA06N]小説『猟犬徘徊』:
From:久志


 久志です。
ようやっと神がちょっとだけ足を下ろしたぽいです。
相羽先輩と豆柴もとみーのちょっとしたお話。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『猟犬徘徊』
================

登場キャラクター 
---------------- 
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。おネエちゃんマスター。
     :犬にたとえるとドーベルマン。というか、ぶっちゃけ狼。
 本宮和久(もとみや・かずひさ)
     :吹利県警生活安全課巡査。生真面目さん。史久の末弟。
     :犬にたとえると豆柴。

和久 〜いつものお散歩
----------------------

 相羽さんと並んで通りを歩く。
 ひらりと、桜の花びらが通りに散っていくのがよぎる。

 最初に相羽さんに連れ出されてからすぐ、また相羽さんの『お散歩』に付き
合うことになった。聞くところによると、他の新任さん達も等しく連れまわし
の洗礼を受けているらしい。
 確かに、相羽さんの仕事にたいする姿勢と考えはすごく尊敬できるし、実際
すごく有能な人だってことはわかる。
 でも、いや、こう、えーーーと。
 あの『お散歩』の後で連れて行かれたとこが、その……
 うわあ、思い出したくない。

 いや、その、情報収集が大切だっていうのはわかる、わかるけど。
 でも……ああ、もう。思い出すだに恥ずかしい。


『え、でも、その、こういうお店って』
『あれ、怖い?』
『いえ、だって、その、職務中でっ』
『だから、ちゃんと着替えてきたんじゃん。情報収集の一環だよ?』
『……でも、その、俺、あの……』
『なんだ、怖気づいたの?』
『いえっ、そうじゃなくてっ』
『史の奴なんかさあ、美人のおネエちゃん一ダースに囲まれても眉ひとつ動か
さなかったよ?』
『え……さすが……史兄は違う……』
『そんだけ肝が据わってるってことだろうね』
『…………』
『お前さん、奴みたいになりたいんでしょ?』
『……はい』
『怖い?』
『……いきます』

 行かなきゃよかった。

『あら、可愛い。相羽さんどうしたのこの子?』
『この子……って』
『ああ、こんどの新任。うちの可愛い豆柴くん、よろしくしてあげて』
『うふふ、こういうお店初めて?』
『あ、え、あの、はい……』

 眉ひとつ動かさないどころか、ほとんど顔があげられなかった。
 というか、可愛い豆柴くん……って。

『ほら、豆柴さあ。うつむいてたら情報集めにならないよ? ちゃんとお話し
なきゃさ』
『……は、はい……』
『そうそう、いいこと教えるよ。おネエちゃんとかさ、人は化粧とか変装とか
で見分けがつかなくなるときあるでしょ?』
『え?……は、はい』
『そゆ時ね、耳をみて人を見分けるんだよ』
『耳?』
『耳の形ってのは化粧でも整形でもそうそうかわらないからね』
『……はい』

 ああ、俺が莫迦だった。

『いやん、豆柴くん。なあに?』
『あ、いえ、その違います、すいませんっ。ちょ、ちょっと耳を拝見しようと
しただけで』
『あら、耳好きなの? 豆柴くんはどうかなあ?』
『うわ、わ、わ、わ、や、やめてくださいっ、すいませんっ、ごめんなさいっ、
ひぃっ、や、やめて〜〜!ごめんなさいっ』

 つくづく、ヒドイ目にあった。
 おまけにお店から帰った後、香水の匂いでローザにばれて、あれからしばら
く口を聞いてもらえなかったし。

 いや、こう、俺が未熟なのがいけないんだけど……

「よお、どしたん豆柴くん?」
「え、あ、いえ、すいません」

 ああ、今はパトロール中だ、しゃんとしないと。
 あの忙しい相羽さんが、わざわざ時間をつぶして俺ら新任の為にこうして気
を配ってくれているのに、ぼんやりしてたら申し訳ない。

「豆柴さあ」
「え、あ、はい」

 でも、どうして俺、豆柴って呼ばれてるんだろう……

「この通りで盗み入るとしたら、どの家にする?」
「え?」

 その口ぶりは軽い感じに聞こえるけど、俺の顔を見る相羽さんの目は真剣だ。

 ゆっくりと通りを眺める。少し大通りから離れた住宅街。道は広いものの、
人通りは少ない。一軒一軒、見回しながら。家の構え、周囲の様子をゆっくり
と観察する。

「俺なら……」

 通りは広い、けど。
 でも、一旦裏に回ると人通りの少なそうな細い道で、隣が薄暗いコイン駐車
場で、そだなあベランダ伝いで入っても人目につきそうにない、少し通りから
死角に位置した……

「あの家、かな」
「ほう」

 指差した先、淡いクリーム色の二階建ての建物。

「なるほどね」
「……はい」
「じゃ、近づいてみ」
「え?」
「お前が侵入しやすそうな所、移動してみ」
「え?……ええと、はい」

 ええと、俺は泥棒じゃないですけど、失礼します。
 ゆっくりと脇の道から道路に向いたベランダのほうへゆっくりと近づく。

 と。
 急に明るい光が頭上から照らし出した。

「ひっ」

 思わず息が止まる。

「びびった?」
「あ、いま、ライト?」
「そこ、近づくとライトつくんだよ」

 妙に楽しそうに笑ってるんですけど、相羽さん。

「この家ね、以前何度か泥棒に入られててさあ。そんときの対応策でこれつけ
たんだよ」
「知ってたんですか?」
「犯人パクったの俺だし」

 あの、知っててけしかけたんですか……相羽さん。

「これ、効果テキメンらしいよ。」

 確かに。
 胸に手を当てるとまだドキドキしてる。

「これもさ、普通に道を通った時に明かりがつく分には平気だよ。まあ、やま
しいこと考えてる時に急に近づいて明かりついたら、よっぽど心臓に毛が生え
たやつでもない限りそらビビるね」
「……思い知りました」

 て、相羽さん。どうしてそこで笑うんですか。


相羽 〜舌なめずり
------------------

 いやあもう、可愛いもんだねえ、豆柴くんさあ。
 笑っちゃいけないとは思ってるんだけどさあ、抑えようと思ってても喉の奥
から笑いがこみ上げてくるんだよねえ。

 そらあもう、あの史のお父さんや県警おネエちゃんズが豆柴くんを心配して
可愛がるわけだよねえ。ああ、他にもオジサンオバサン連中にも人気だったね、
そういえば。そゆとこやっぱり兄弟似てるね、まあ質は違うけどさ。
 そいえばこないだ連れてったお店のおネエちゃん達にも大ウケだったね。
 逆に『あの子大丈夫なの?』なんて心配されてたよ、ホント。

 ま、豆柴くんのいいとこはいいとこで残しつつ、警察官として悪人をしっか
り狩れる立派な猟犬に育ってもらわないといけないんだけどね。
 素質としてはまあ悪くない。あとはじっくり、色々身につけてもらおうか。

 すっかり夜の闇に落ちた道。
 少し大通りから少し外れた、でも全くの無人の道ではない、ちょっと後ろ暗
い連中らが通る、いわゆる裏の道。

 乾いた上唇をちょろっと舐める。
 視線の先には、俯きがちに歩く男。生暖かくなってきたはずの春の夜の中、
長袖のパーカーの襟元を片手でしっかり寄せて、音もなく歩いている。
 人ってさ、正直だよね。背中にさあ書いてあるよ。
 俺は怪しいです、って、ね?

「豆柴」
「はい」

 気づいてるみたいだね。まあ、及第点。

「あの男止めるよ、無線いつでも使えるように、ね?」
「わかりました」


和久 〜息を潜めて
------------------

 グレーのパーカーに少し破けたジーンズ。俯きがちの顔はのっぺりした爬虫
類を彷彿する雰囲気で、一重で目の下にははっきりとクマが浮かんでいるのが
街灯に照らされただけの夜目でさえわかる。

「申し訳ありません、少々お時間よろしいですか?」

 どこからこんな声が?と聞きたくなるくらい丁寧な優しい口調で相羽さんが
口を開く。

「急いでる」
「お時間は取らせません、警察の者ですが、ご協力お願いできませんかね?」
「……急いでるんだ」
「ほんの数分お時間でいいんです。所持品を見せていただけませんか?」
「……そんな権利はないだろう」

 相羽さんが問いただしている間、じっと男を観察して様子を探る。
 必要あらばすぐさま無線で応援を呼べるよう、近場の交番を頭の中で手繰る、
あとこの時間帯の自動車警邏隊の確認と、男が不審な動きをしないかどうかを
見張らないと。

「お仕事は何をしていますかね?」
「……アルバイトだ」
「夜勤ですかね?」
「……そうだ」

 手先と視線。
 パーカーの襟元をつかんで離さない手、かすかに震えているようにも見える。
もう片方は、しきりに右の太もものあたりを掻く仕草を繰り返している。
 視線は問いただしてる相羽さんを見ようともせず、しきりに胸元の手と背後
をいったりきたりしている。
 パーカーの中、胸ポケット。ジーンズの右のポケットになにかある?
 そして、前を見ようとせず背後を気にしているということは、逃亡の機会を
うかがっているということか。

「もういいだろう、急いでいるんだ」
「では、ちょっとだけでいいので所持品を確認させてください」
「断ると言ってる」

 質問を続けながら、ひらり、と。相羽さんの手が動いた。
 『応援を呼べ』の合図。

 緊張でかすかに震える手で無線をつかむ。小声で応援要請をする中、男の様
子がだんだん焦りを帯びてきた。額に汗がにじんでいるのが傍目からわかる。

「ではその前に所持品を確認させていただけませんかね。なに、ちょっと見せ
ていただければすぐに終わることですから。ご協力お願いします」
「……だから、急いでいるんだっ」
「ならば、なおさらですよ。後ろ暗いことがなければ、今すぐ所持品を見せて
終わることじゃありませんか。どうして、見せていただけませんか?」
「…………」

 じわじわと、高まっていく緊張。
 ちらちらと動く視線。

「息苦しそうですね、具合でも悪いんですか?……それとも」

 そこで、不意に言葉を切る。
 何のことはないはずの沈黙が、圧し掛かるように重い。
 額を伝う汗が、はっきりと目に見える。

「うああっ」

 男が動いた。
 目の前の相羽さんを突き飛ばす勢いで押して、そのまま後方へと走り出した。
 同時に、はじかれるように後を追っていた。

「追え豆柴!」
「はいっ!」

 相羽さんの言葉を背後に聞きながら、逃げる男を全力で追いかける。男が走
りながら胸元から何かをつかんで投げ捨てるのが見えた。
 どうする?
 いや、まずは身柄だ。

 グレーのパーカーが走る勢いで激しく揺れている。

 あと少し。
 あと五十センチ。

 もうちょっと。
 両手を伸ばして、男の両肩をつかんでそのまま地面に引きずり倒した。

「よくやった、豆柴くん」
「相羽さん!」

 顔をあげると、さっき男が投げ捨てたと思われる紙袋を片手に、相羽さんが
にやりと笑っていた。そのまま紙袋をひっくり返して中から転がり出てきたの
は、ビニールに入った……白い粉。

「これ、なんでしょね?」

 つかんだ肩から力がぬけていくのを感じた。


相羽 〜夜空を見上げて
----------------------

 手の中のビニール袋、中の白い粉を小さく揺らす。
 さて、予想通りだね。まあ、とりあえず応援到着し次第、仮鑑定して現行犯
逮捕といきますかね
 それにしても豆柴くん。交番時代でそれなりに経験はあるとはいえ、思った
よりいい動きをしてくれたもんだ、よしよし。

「豆柴くん、お疲れさん」
「あ、はい」
「よくやったね、お手柄だよ」
「え、そんな、相羽さんの功績じゃないですか」
「控えめだねえ。まあ、直に応援くるから少し気ぃ休めておいてね。こっから
休む間ないよ?」
「はい」

 視界をよぎる、ちかちか瞬く赤い光。
 おや、もう来たね。早いもんだ。

「来たね」
「はい……」
「さて、復習しよう。この場合お前さんがやんなきゃいけないことって何?」

 男の両肩をつかんだまま、一瞬豆柴くんが考え込む。

「えと、仮判定で薬物陽性反応が出次第、現行犯逮捕。それから、四十八時間
以内に立件して検事に送致する……です」
「よし、上出来。んじゃそのように行動しようね」
「はいっ」

 応援のパトカーからわらわらと制服さんが降りてくる。わたわたと応対する
豆柴くんを横目に見ながら、一本、煙草に火をつける。
 ゆっくりと吸い込んで、止める。
 細く吐き出した煙が、夜の空に消えていく。

「……いい夜、だねえ」

 さて、一息ついたら俺もお手伝いしましょかね。


時系列 
------ 
 2005年4月初め。
解説 
---- 
 相羽先輩、豆柴くんをお供に狩りのお時間です。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。



 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/28700/28722.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage