[KATARIBE 28719] [HA06N] 小説『霧雨の風景』其の二

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Date: Wed, 4 May 2005 15:06:16 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28719] [HA06N] 小説『霧雨の風景』其の二
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年05月04日:15時06分16秒
Sub:[HA06N]小説『霧雨の風景』其の二:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
先程の続き行きます。
登場人物ちょっと省略ってことで。
あと、解説もちょっと省略ってことで。
(だってほら、まだ終わってないし、ええ)

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本文
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M_3
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 薬とヤクザと。
 叩き潰して、また次が出る。
 そういういたちごっこが続いているらしい。

「…………ったくなあ」
 回復して退院して、そして現場に直行で戻る莫迦が約一名。
 本宮さんも忙しいらしく、その知らせは豆柴君……もとい、和久君から来た。
『兄から言い付かりました』
「あ……ありがとうございます」
 十分ほどの電話の間に、しみじみと確信。
 豆柴君、相羽さんを相当尊敬しているらしい、のと。
 相羽さんがぶっ倒れたのは自分のせいかもとか思い出してるらしい、のと。
 ……本宮さん苦労だ。多分二重の意味で。

 …………時々思うんだが、あの莫迦は、他人が自分をどの程度思っているの
かとかそういうことを考えたことがあるんだろうか。
 ふと、そう思って。
 即、思い返す。

 無い。
 もしくは考えても考えたことになってない。
 
 ……経験則、とか片帆には言われそうな気がしたけど。


 それでも倒れてる間に多少なりと状況が動いていたらしく、何とか手が空い
たとかで。
 四月の最後の日に電話が掛かってきた。

『魚、元気?』
「家に戻って見てやれば?」
『戻る暇、無くってさあ』
「…………莫迦?」

 今更ながら、本宮さんは偉い。よくもこれだけの無茶な人間を友人兼先輩と
仰いで、ついでに生存可能な状態に保って、ここまで来ているものだ。

「てか、ケリつきそうなんでしょ?」
『そうなるね』
「こっちに声かけるくらいなら、家帰って魚確認してから寝たら?」
『…………』
 不満そうに黙るから、何かと思ったら。
『お菓子』

 …………おい。

「わかった。適当に買って見繕ってくから!」
 まあ、疲労にお菓子って効くだろうし。
「明日……でいいんだよね」
『頼むわ』

 電話を切って、溜息をつく。
 ……時々思うけど。
 あたしも相当えらいかもしれない。


M-4
---

「つまり責任を取ってお嫁に行きます、と?」
 いつものにこにこ笑いと一緒に、桜木さんがとんでも無いことを言う。
「……家政婦で充分でしょ」
「わははは。とりつくしまもありませんねぇ」

 何の話が転げ転げてそうなったのか憶えてない。ただ確か数日前に六華と酒
を買いに行った先で会って……何か話して、こらーと怒られた、その話が原因
だったっけ。
 ええと……ああ、片帆の勤務時間を調べてもらったことだっけか。
『真帆サンの莫迦ーっ』
 ……なんか最近、あたしもしょっちゅうそう怒られてるな。
『あのねー、そんなことでご飯無期限で作る約束することないですっ』
 だって、そんなのはたいした手間じゃないし。
『そんなことだったら、あたしがやってあげたのにっ』
 …………あんたはあたしに桜木家のご飯を作らせる気ですかっての。

「とりつくも何も……それだけのことだもの」
「いやいや。そこは、一回のってみせて、そんなわけあるかい、と」
 全体にこの人は、仮定に過ぎない男女関係に非常にマメである。自分のこと
もそうだったけど、よく考えたら口実にとは言え、ゆっきーと美絵子さんのこ
とに、きっちり最後まで付き合った人でもある。
 まあ、だからからかうのはこの人の本能くらいに思えば、大して苛つくわけ
でもない……と思うことにしてる。
「終わりの基本芸の一つですよ?」
「乗って見せた途端、誤解を山ほど撒き散らしそうな人が何言ってますか」
 ただだからといって、この人のからかいや冗談を下手に見逃すと後が厄介で
ある。誤解やら何やら、きっちり転がして増やしまくる。
 ……何が面白いのか知れないけど。
「──なるほど。それじゃ、うかつには乗れませんね」
「ええ、だから乗りません」

 きっぱり言って、冷酒のグラスを傾ける。
 少し、甘いなこの酒。

「しかし遅いですねぇ、相羽さん──なにか事件かな」
「……毎度事件でしょうけど」
 というか今日の場合は、恐らく報告書だろうな。奈々さんあたりが駄目出し
してたりすると笑えるけど。
 なんて、思ってたら。

「悪いね、遅れた」
「わ」
「──お」
 
 ……心臓に悪いから、音も無く近づかないように。

「噂をすれば影、ってのは本当ですねぇ」
 桜木さんが感心したように言う。
「……足音立てずに来ますかね、普通」
「職業病だね」
「………さいで」
 呑み屋で職業病を出されちゃ敵わん。

「で、その職業病が出るような……お仕事状況ですか」
 鞄の中からお菓子の包みを引っ張り出しながら、顔を見る。
 とりあえず顔色は、普通に戻っている。

「やっとこ報告その他終わったトコ」
「それはそれは」
「それはお疲れ様でした。じゃぁ、連休はゆっくり羽を?」
「そうも行かないけどね」
 だろうね、多分次の仕事があるんだろう……とか思ってたら。
「可愛い豆柴くんを可愛がってあげないと」
 ……それかいな。

「回復したと思ったらそれですか」
「仕事は待ってくれないんだよね」
 いや、それはそうだろうけど。
「それに豆柴くんを鍛えることは、結果俺らも楽になることだしね」
「…………大義名分」
「ちゃんと真面目に教育してるよ?」
 うん、真面目ではあると、あたしも思うけどさ。
「真面目とまともとは違うし、真面目と常識とも違いますんで」
 本宮さんが泣くぞーほんとに。

「まぁ、下の人間を見繕って育てるのは、会社組織では当然のことですし」
 相変わらずにこにこと、桜木さんが割って入る。
「そのあたりは、相羽さんのところでも一緒なんでしょう──教育方針の是非
は別として」
 まあ、それはそうだろうけど。
 見繕う動機が、多少……つか、多々不純に見えるんですけど。
「仕事に対する姿勢に関しては、真剣に教えてるつもりだよ」
 それはある程度信用するけど……とか思ってると。
「まあ、多少の個人的楽しみもなくはないけど、ねえ」
 ……舌の根が乾かないうちにこれだから。
 桜木さんが笑い出す。
「いやあ、だって可愛くてねえ」
 笑いながら言うなってのっ。
「いて」
「歪みまくった愛情表現してんじゃないっ」
 本宮さんの代わり、とか思うけど。でもあの人殴らないだろうからなあ。
「ちゃんとわきまえてるって、どこまで遊んでいいかはさあ」
「そこは、信用してますけどね」
 だがしかし、だ。
「どこあたりまで踏み越えようかなーとか言いながら、本宮さんいじめてませ
ん?」
「だってアキレス腱だしさ」
 ……このやろう。
「殴ろうかな……本宮さんの分くらい」
「豆柴くん絡むと、とたんにお父さんになるからねえ」
 だーからっ。
「そやってると、いつかは自分に返りますよ?」
「わきまえてるって、そこらへん」
 くっくっと、笑う。
 ……ほんと知らないぞ。そういうのって必ず自分に戻るんだから。
「………御身大切に」
「ま、程ほどにね」
 気がついたら桜木さんは笑いながら見てるし。
 ……何だかなあ。

 と。

 ふと、相羽さんが顔をあげた。
 いぶかしげに。

「……何?」
「誰か見てたよ」
「へ?」
 誰だろう。
「男、女?」
「わからんけど」
 
 少しだけ思い出す。片帆の言葉。
 そして……すぐ思い返す。多分偶然。

「ま、いーや」
 その一言で放り出す。その程度の。


0-3
---
 
 迷う夢を良く見る。
 道が判らなくなり、半分泣きながら歩いている。
 途中でバスを見つけて、行き先を聞く。帽子を深く被った運転手の顔はわか
らず、行き先も幾ら尋ねても理解が出来ないまま。
 何時の間にかそのバスにゆられて、降りる時には金が無くて。

 じゃあ、腕一本。
 そうやって、腕を取られるのを、あたしは見ている。

 腕一本無くせば、あたしはまたこのバスから自由になる。
 バスから降りれば、また迷うだけなのに。

 降りたところに、さらさらと。
 霧のような、雨が。



M-5
---

 浜の真砂は尽くるとも世に盗人の種は尽きまじ……というのは、現在でもあ
る意味正しいのだろうけど。
 それにしても。
 豆柴君引っ張って鍛えてくるから、ちょっと魚に餌やっといて、と。
 言う莫迦も莫迦だが、うんと言う自分も相当莫迦かもしれない。


 てーか、無理はするなとかこの前倒れたばっかだろうとか、そういう常識的
意見が通じるほどまともな人間じゃあるまいし。
 
 それに、多分。
 大きな山の後には……何だか色々積っていそうな気がするから。


 以前、聞いたことがある。
 おネエちゃん情報網。
 本当に必要となると、次から次へと、相羽さんはおネエちゃんを乗り換える
らしく、ある意味死屍累々である、らしいと。

 そういうのがどの程度辛いのか、あたしにはわからない。
 そりゃ辛いよ。
 そんな風に軽く言われた言葉の、その裏をどれだけ考えても、それは考えた
だけのことで。

 ただ、沢山のおネエちゃん達の恨みやら何やらが、多分一件片付く度に降り
積もっているのだと思うと。
 豆柴君を引っ張って遊びに行くっての……何となく、判る気はする。

 彼はまだ、その心底が綺麗だから。
 
 まあ、そんなことあたしが気がついていたって、向こうはそんなもん聞きた
くも無いだろうし。
 気がつかれたいのか、気がつくなというとこなのか、どっちでもいいのか。

 本当に。
 一人で居ると、余計なことまで考える。
 (だから料理してるほうがあたしには楽なんだ)
 (少なくとも不必要な選択を行っているわけではないから)


 さらさらと。
 さらさらと。

 連休の間の窓のような平日に、仕事先に行って多少の打ち合わせ。
「あ、僕、来週居ないから」
「はい……一応こっち来ますけど、いいですか?」
「うん、それはいいよ。で、次は?」
「……大物ダウンロード行きます」
「……90mメッシュ?」
「が、がんばりますっ」

 NASAのサイトからどんどこ流して、組み立てて。
 ……力技だから、まあ、丁度いいかな、と。

「じゃ、そっちのほう、よろしくね」
「はい」

 どーして地球は丸いのさ、とか。
 スラブ民族ってのはどうしてこうばかばかしくでかい土地を欲しが
るかねとか。
 お陰で対象地が莫迦広いじゃないかとか。
 そもそもタイガってどんな木が生えてるんだよ、とか。

 莫迦な話をして、家に戻る。
 あ、その前に、用事済ませないと。


 逢魔ヶ刻。
 ざわざわと人の通る道を、一本折れて。
 すう、と、喧騒がほどけるように消えてゆく。


「……すみません」
「はい?」

 薄暗い路地に、他に人影は無い。

「なんでしょう?」

 振り返った先に居たのは、すらりとした女性だった。
 長い髪は少し茶色っぽい。それが綺麗に波打って背中に流れていて。
 傘は、さしていない。

「あの……軽部さんですか?」
「はい?……ええ、はい……」

 白い顔は綺麗に化粧をほどこされている。多分それを落としたって相当美人
だと思うけど。
 スタイル良し。顔良し。
 これだけ美人だったら、一度会えばそれなり憶えている、と、思うんだけど。
 彼女が数歩、こちらに近づく。

「……あの、どちらさまでしょうか?」
「相羽さんのお友達の」
「……はい……?」

 と。
 後ろに回していた右手を、彼女が前に出す。妙に鈍い色合いのその正体に、
どうして一瞬で気がついたものか。
 
「……え」

 咄嗟にカバンを持ち直して、防ぐ。有難いことにカバンの中には本が入って
おり、結構しっかりとした盾になる。
「なっ……」
「このっ!」

 がむしゃらな動き。
 振り上げたナイフが、眼鏡を掠める。
 
「ちょっと危ないっ」
「……このっ!!」

 一瞬、ためらう。彼女の手を捕まえたって、この間合いだと刺される。何よ
り目を刺されるのが怖い。
 (本が読めなくなる)
 彼女が振りかぶって。
 反射的に、こちらもカバンを振り上げて。

「……あんたなんかっ」

 どん、と、刃物が振り下ろされる。受けたところで足元がすべる。あ、まず
い、と、思った時に。

 火が。


 一瞬彼女は動かなかった。
 茶色っぽい髪に、細かい水滴がまぶされるように見えて。
 そのまま彼女は、柄を離し。
 身を、翻して。


 どうしよう、と思った。
 抜いちゃいけないんだっけこういう場合、だけどどうすれば。
 身体の左半分は痛みで叫んでいて、でも後の半分で必死に。

 連絡を。誰かにしてもらわないと。

 携帯ないし。

 厭だ、こんなもの抜き取りたい。てゆか動いていいのかあたし。
 血管の位置とかわからない。ああまた莫迦なことを考えてる。
 

 だれか。


 がらがら、と、路地のどこかで扉の開く音。
 すみませんたすけて

「どうしたのあなた……ちょっと!」

 ああ、通じた。


 …………そこで記憶が終わっている。


  ****************

てなわけで。
約定は果たしたぞ(わははは(乾笑)
てなわけで、さて撤退だ撤退だー

…………あ、続きできるだけ急ぎますので、ええ。
ではでは。



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