[KATARIBE 28701] [HA06N] 小説『馬耳東風』

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Date: Fri, 29 Apr 2005 21:33:27 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28701] [HA06N] 小説『馬耳東風』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年04月29日:21時33分27秒
Sub:[HA06N]小説『馬耳東風』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
最近連続で、片帆のシスコン話書いてます。
……つか、多分こいつ自分がシスコンとは思ってないぞ……(汗)
とりあえずとりあえず。

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小説『馬耳東風』
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登場人物
--------
   軽部片帆(かるべ・かたほ)
     :毒舌大学生。真帆の妹。姉のことになると冷静さが吹っ飛ぶ。
   橋本朱敏(はしもと・あけとし)
     :ジャニスガレージにてバイト中の大学生。妙に地雷を踏みまくる。
   相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。ジャニスガレージの常連。

本文
----

 電話で……喧嘩した、ってのは多分こちらの主観。
 姉は、喧嘩とも思ってないかもしれない。
 ……そらこちらは若輩者で、喧嘩にすら値しないのかもしれないけどさ。

        **

 ジャニスガレージは夜の8時45分。
 段々お客さんが帰り始めるのと同時に、勤め帰りの人達が駆け込みで入って
くる時間。決して人数は多くないけれどもスーツやら背広やらの人が、ごく数
人やってくる。
 そして……運悪くというか、気に食わない一名が目の前に居たりする。
 てゆか、地下一階に、現在お客は彼独りである。

 相羽さん、と言うらしい。
 常連らしい。
 一応なんつか、刑事であるらしく、店長さんは『警察官立ち寄りの店だよ』
と笑ったりもするけれど。
 ……相当気に食わない。
 姉の友人とか言うけど、絶対また碌でもないことになる。
 妹の偏見と言わば言え。

「これね」
「あ、はい」
 なんて思ってると、相手は2枚のCDを橋本さんに渡す。
 橋本さんがレジに入力、その後受け取って、万引き防止のタグを外して袋に
入れる。
 そこら辺はもう慣れた。
「どうぞ」
 幾ら気に食わなくてもお客はお客である。袋を差し出すと、相手はどうも、
と、呟いて受け取って。
 そのまま出て行くかと思ったら、レジから数歩のところでふと何かに思い当
たったらしく、ポケットを探った。
 携帯が出てくる。

「……もしもし」
 まあ、刑事さんらしいし、仕事なんか大変なのかなあ……と、ぼんやり考え
てたところ。
「ああ、今ジャニスガレージ、これから帰るわ」
 え?と、橋本さんが素っ頓狂な声をあげる。
 何がそこまで不思議なんだか……と思ったけど。
「相羽さん、誰ですか?」
 ……とにかく不思議だってことは声と表情からよく判った。
「ああ、夕飯つくってもらってるから」
 …………え?
「あ、彼女さん?」
「いや、知り合い」
 
 ひどく、嫌な予感がした。
 
 もし、彼女だっていうなら、そんな予感はしない。これでも姉のことは判っ
ている。
 だけど、知り合いって。
 (姉は料理作るの趣味だし)
 (それを人に食べさせるのも趣味だって言うし)

「んじゃね」
「まいどー」

 黙って目を閉じておこうかと思った。
 でも……多分黙って見ないことにしたら、こちらが今晩眠れなくなる。
 えい畜生っ。

「……失礼ですが、お客様」
「ん?」
 息を、一度吐いて吸って。
「その、知り合いって……軽部とか申しますか?」
「ああ、そうだけど」

 軽部、という姓は、それなりに珍しい。
 そうそう何処にでもいる名前ではない。
 ……だけど。

「……軽部、真帆?」
 聞きたくない。でも確認してしまう。
 なのに返事は、歯噛みするほどにあっけなく。
「ああ、そう」
 そこまで言って、相手は初めてこちらを真っ直ぐに見た。
「……あれ、親戚?」

 …………畜生っ!!
 悔しい。悔しい。悔しい。
 思わずレジの台を握り拳で叩く。
 手が裂けてしまえば、この悔しさは少しはまぎれるだろうか。
 橋本さんが横で何か呟いている。そのことだけはかろうじてわかる。
 けどこちら、それどころじゃない。
「人の姉に飯作らせてんのかっ?!」
 貴様このやろう、というのをかろうじて我慢。一応それでもこの人は客だ。
 何なんだ、とでも言いたげな……でもやっぱり呑気な顔で、相手はこちらを
見ている。
「時間あるときとか作ってもらってるけど」
 
 姉さんは人が良くて。
 利用されてても利用されてるって思わないひとで。
 お料理とかほんと気軽にして、食べてもらったら嬉しいじゃないかって。

 ……ああもう、姉なんて莫迦だっ!

「姉を利用するのも、大概にしていただきましょうかっ!!」
 必死で堪えたけれども、最後は怒鳴り声になってるのを自覚。
 相手は肩をすくめた。
「利用してるかねえ、まあ好意に甘えてるってのはあるけど」
「……甘えてって…………!」

 目の前が白くなる。
 拳を握り締める。唇を噛み締める。
 痛みがぎりぎりのところで、ここが店だと思い出させてくれる。

「……あ、あ、あの、軽部……さん」
 そして、橋本さんの声。
 ここは……ジャニスガレージ。
 怒鳴るのも殴るのも……やっちゃいけない。絶対にいけない。
 掌に、爪を立てる。その痛みで何とか自分に言い聞かせてから。
 口を、開く。

「…………あんたもか」
 真帆姉の友人達。決して悪人ではない、けれども真帆姉を利用する人達。
「あんたも真帆を利用するのかっ」
 吐き捨てたい……そんな記憶ごと。
「利用、て」
 相手の表情は変わらない。妙に軽薄そうな、でも腹の中に色々溜め込んでそ
うな。
 その腹の中が、判らない。
 そのわからないまま、相手はやはり肩をすくめる。
「利用してるつもりないけどね」
「とどのつまり、やってることが同じなら、何の変わりがあるっ」

 と。
 相手は少し足を踏みかえた。
 表情はそのまま、けれども真正面からこちらを見る格好で。

「利用されてるって姉さんいったん?」

 言葉に、詰まった。

『利用なんてされてないよ』
『でも、友人だから』

 ……ほんとにほんとに、真帆姉なんて莫迦だっ!

「……あ、姉は人が良いからっ!」
 それは譲れない。確かに姉は利用されてるって言わないけど。
 でも。
「それにつけこまれるの、私は不愉快です!」
「別につけこんでないよ」

 それでも相手の返事は、淡々としていて。
 どれだけ怒っていても……多分馬耳東風。

 そのことが。

「無理強いしてるわけでもないしね」
「…………それでもっ!」
「悪いけど、そろそろ帰るから」
「…………」

 口惜しい。
 でもこの人は、今はお客だ。
 …………畜生っ……!

「……姉に、宜しくお伝えください」
「ん、ああ」

 ああそんなことくらい、みたいに軽く、それだけ言って、出て行く。

 どれだけこちらが口惜しくても、確かに真帆姉はこの人の友人やってて。
 その事実だけ、あたしは負けている。

 口惜しい、口惜しい、口惜しい、口惜しい…………っ!


「あの……えーと、軽部さん……」 
 と、声。
 振り向いたら橋本さんが、何か妙に怯えた顔で、ティッシュペーパー持って
立ってる。
「……何か」
「……あの、口から、血が」
「…………あ」
 言われて初めて気がついた。金錆びた味が舌に響く。
 唇を噛み切ってたらしい。
「……すいません」
 手の甲でこすろうとすると、橋本さんが、ティッシュを差し出した。
「……いや、はい」
「あ、すみません」

 抑えると、ぱっと赤に染まって。
 口惜しさが、そのまま色になったように。

 ……と。

「飯かあ」 
 妙に呑気な声。
「やっぱつきあってんのか」

 …………貴様ぁっ!!

 足が痙攣したように動く。だん、と、レジ台を蹴飛ばして。
 振り返ると橋本さんは目を見開いてこちらを見ている。

「いちいち腹の立つこと仰るじゃないですかっ!!」
「え、いえ、あの、ご飯つくってってこう、親密なのかと……」

 …………のやろっ!

 全身の力を込めて、橋本さんの目を睨み据える。
 橋本さんは動かなくなった。

「……宜しいですか、橋本さん」
「……へ、あ、は、はい」
「次に、同じことを仰るようでしたら」

 手を、レジの台にぶつける。
 レジ台がどん、と、鳴る。

「それ相応の処置をとらせて頂きますが宜しいか」
「あ、う、ええと、はい、いいません」

 頭のどこかで、それでも呟いている。これは流石に八つ当たりだ。
 姉が莫迦なのも、あんな野郎のとこでご飯作ってんのも、確かにこの人のせ
いじゃ無い。

 ……でも。

「……………宜しい」

 どうしてそう思うのか、わからない。
 どうしてこれだけ、不安になるのか判らない。

 でも、どこかで確信する。
 あの人は……姉の為に絶対にならない。

 …………どうしてっ……!!

 一度目を閉じて、開いて。
 時計を、見る。
 ジャニスガレージは夜の8時58分。


時系列
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 2005年4月、そろそろ中旬。
 『たんぽぽの酒』の後です。

解説
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 http://kataribe.com/IRC/HA06/2005/04/20050425.html#220000
のログから出てきた話です。
 ……朱敏君、『そこに地雷があるからだ』な勢いで地雷踏んでますな(汗)
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連休中に、書きたい場面があるので。そこに行き着きたいなあと切実に。
てなとこで、ではでは。


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