[KATARIBE 28700] [HA06N] 小説『たんぽぽの酒』

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Date: Thu, 28 Apr 2005 22:50:45 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28700] [HA06N] 小説『たんぽぽの酒』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年04月28日:22時50分45秒
Sub:[HA06N]小説『たんぽぽの酒』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
あちこちに散らばった話を少しずつまとめるべく。

とりあえず、片帆の話です。
************************************:
小説『たんぽぽの酒』
===================
 登場人物
 --------
   軽部真帆(かるべ・まほ)
     :自称小市民の多少異能持ち。多少性格に難あり
   軽部片帆(かるべ・かたほ)
     :真帆の妹。相当冷静冷徹な性格の割に、姉に関しては頭に血が上る。


本文
----

 年がこれだけ離れていると、姉や兄からの影響というのは、非常に大きい。
色々な嗜好、色々な知識。そういうのの根幹が、どうしたってあの人達のそれ
に近くなる。読んだことのある本の大半が姉から薦められていたものだったり、
聴いたCDの大半は姉兄から教わっていたり。結局趣味の殆どが、この二人に
大きく由来しているわけなのだけど。

 しかし電話の第一声が、こうくるとは思ってなかった。

「……なに、片帆、たんぽぽ摘み?」

 そう言われれば……そんな話をしたんだっけか。

        **

 たんぽぽのお酒というのも、姉から聞いた。
 レイ・ブラッドベリの『たんぽぽのお酒』。その本を読んで以来、作り方を
知らないまま何度か作ろうとした、と、姉は言っていた。
『ホワイトリカーに漬けたんだけど、青臭いばっかでねー』
 本来、たんぽぽのお酒ってのは、たんぽぽを漬け込んだ汁に砂糖を入れて、
酵母菌で発酵させて作るものらしい、と、実は調べたのは私なんだけど。
 でも、その為にはタンポポが3.6L要る。そんな大量のタンポポはそう手に
入らない。一度二人で摘みにいこう、と、約束したのが去年の秋。
 そして先週の土曜日にでも、と姉を誘ったけれども、用事があるから、と、
断わられて。
 そして。

「……それは、先週のこと」
『うん、そうだけど』
「真帆姉さん。用事があるって言ってたよね?」
『……うん』
 姉の声が、どこか不思議そうに聞こえる。それがどうしたの、とでも言うよ
うに。
 一度、息を吐いて。もう一度吸って。

「それって相羽さんて人のせい?」


              ** 

 友人だよ、と、姉は言った。

「……知ってるよ。矢木さんも友人で弟分だったよね」
『つか、今も弟分だよ』
「日野さんも友人で弟分」
『それが何か問題?』
「……碌でもない連中ばっかじゃないかっ!」
『片帆!』

 無礼とか言わないで欲しい。電話聴いてると、ほんとうにそうなんだから。
 丁度姉のところに泊まりに行った時に、彼女を振っただの相手が自殺未遂起
こしただのと連絡してきたのは、確か矢木さん。その後さんざ愚痴を言った挙
句、最後の最後にほざいた言葉が忘れられない。
『……これが真帆ならなあ』
 ばーか言ってんじゃないよ、ちゃんと彼女とけりをつけなよ、下手に泣かす
と張り倒すよ、と最後まで笑って言った姉は、受話器を置いた途端真青になっ
てしゃがみ込んだ。
 結局胃の中が空になるまで嘔吐した後、あの人は一度口をゆすいで……そし
て笑って言ったものである。
「ねー片帆、呑も」
 それでも姉は、頑として言い張る。彼等は弟分だと。彼等は友人なんだと。
だから今でも連中から電話はかかってきているらしい。

「そういうレベルの、友人なんだ?」
『……そういうってあんたねえ……』
「何かあると、姉さんを利用する人ってこと?」
『……だから利用ってね、片帆……』
「何やってんだか得体が知れなかったり」
『あ、いやそれはない』
 妙に確信ありげに、姉が言う。
「……何でよ」
『だって相羽さん、刑事だもの』

 ・・・・・・。

「うっそ!?」
『……何それ』
「だって相当やくざっぽかったもんっ!」
『…………あんたね』
「だってねえ、女の子にえらい手馴れてて、機嫌取るの上手そうで、いけすか
ない人だったよ!」
『……うーん……』

 電話口から、何とも困ったような声が聞こえる

「……そうじゃないの?」
『いや、そういうことはあるんじゃないかなと』
「他人事みたいに言うね」
『いやだって他人事だもん』
「なんでよ!」
『そりゃ、女扱いされたこと一度もないからね』

 ・・・・・・。

「……無礼者っ!!」

 矛盾してるって言われてもいい。でも腹が立つ!

『あんたそれ凄く矛盾してるってわかってる?』
「矛盾してても無礼者は無礼者でしょ?!」
『……つーか何でまた無礼者よ』
「結局利用されてるじゃない、姉さん!」
『されてないよ』
「嘘ばっかり!」

 姉は良く言う。
 騙されたと判らないうちは、騙されていない。
 利用されたと思わないうちは利用されてない。
 ゴミ箱みたいに、人の愚痴聴ける奴になれたらいいよね。

 ……だけど嫌なんだ。誰かが姉を利用するだけ利用して、後ろで舌出して笑っ
ているのって。
 公共の場所にあるゴミ箱に、家から持って来たゴミをどっさり入れる奴だっ
て、昨今多いじゃないか。そんな風に自分で片付けるべきものを、姉に押し付
けて自分は知らん顔でいるかもしれない。
 そんなの考えるだけで嫌なんだ。

「姉さんいつもそうじゃないか」
『……そうかな』
「そうだよ、そりゃ皆利用するよ」
『利用は、されてないよ』
「そう思わないと友人が居なくなるからっ?!」

 思わずそう言い返して。
 そして……後悔する。

 後悔する。その後の沈黙に。

『でもさ、片帆』
 耳元の、静かな声。

『でも、友人だから』
 微塵も揺るがない…………

          **

 二週間に一度の土曜日に、ジャニスガレージでアルバイトに入る。
 だから、いつもいつも土曜日が空いてるわけじゃない。
 今週は駄目だから、先週にって声かけたんだ。

『……ごめんね、片帆』
 やっぱりその声は、昔から変わりが無く。
『次の土曜日に、また声かけてよ』
 とてもとても明るい声で。

 
 だんでらいおんわいん。
 だんでらいおんわいん。
 以前教わった言葉を、何度も頭の中で繰り返す。
 呪文のような、それらの言葉を。

 
 二度と、あんな思いはしたくない。
 二度と、あんなことはしたくない。
 二度と………


 ……どれだけ卑劣であっても、あたしは真帆姉に生きていて欲しい。
 どれほど宙ぶらりんであっても、あの人に生き延びて欲しい。
 どれほど適当であっても、どれほど情けない姿であっても。

 その為に、あの人は役に立たない。否絶対に逆に作用する。

 だから……嫌だ。

 どれほど自分勝手であっても、あの人に生きていて欲しい。
 たとえ留まる風になったとしても。

 
 たんぽぽの酒。
 タンポポのエキスを、全て封じて、瓶に入れて。
 
 …………そうしてでも、生きていて欲しいと思うのだ。


時系列
------
2005年4月初旬。最初の土曜日が過ぎた頃。
『ZIGZAG』の直後です。

解説
----
自分が思う以上に、真っ直ぐにシスコン路線を走ってる片帆です(汗)
様々に、色々な状態を含みつつ。
********************************:

って……まあ、色々と、問題のある姉妹だこと(汗)>軽部の二人
ではでは。


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