[KATARIBE 28692] [HA06N] 小説『 ZIGZAG 』

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Date: Sun, 24 Apr 2005 01:26:18 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28692] [HA06N] 小説『 ZIGZAG 』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年04月24日:01時26分17秒
Sub:[HA06N]小説『ZIGZAG』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
ごそごそ書いてます。
ジャニスガレージの場所をお借りして、片帆と相羽先輩の初顔あわせです。

空帆ちゃんと朱敏さん、相羽さんお借りしました。
なぎさめさん、ひさしゃん、チェックとかお願いします(汗)

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小説『ZIGZAG』
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登場人物
--------
     軽部片帆(かるべ・かたほ)
       :目立たないけど毒舌大学生。ジャニスガレージでバイト中。
        この話の語り手
     橋本朱敏(はしもと・あけとし)
       :呑気なワーウルフの大学生。ジャニスガレージの先輩。
        地雷を踏みまくるのが得意らしい。
     相羽尚吾(あいば・しょうご)
       :おネエちゃんマスターな刑事。ジャニスガレージの常連
     由良木空帆(ゆらき・あきほ)
       :ほわほわーとした高校生。ジャニスガレージの新人バイト。


本文
----

   天安門からベルリンの壁までの500マイル。

   ……たしかそんな追加の歌詞。

      ***

 名札に『新人』の文字をつけてもらって。
 とりあえずは慣れることだ、と、店長と橋本さんが言う。

 CDの整理と、在庫確認。中古CDには、かなり面白いのが含まれてる。姉
や兄が見たら喜びそうなものも多い。
「軽部さん、古い曲知ってますね」
 時々店長から言われる。そらまあ姉が一番知ってるのが80年代の音楽だ。彼
女がちょっと古い音楽に手を出すと、既にそれが70年代。バグルスの『ラジオ
スターの悲劇』なんて、こちらが生まれる前の曲だもの。反応するのは変わっ
ているかもしれない。


「CD変えていいですか?」
「いいよ」
 お客さん達は棚のところでCDを選んでいる。
 地下一階のレジの前には、人が居ない。
 夜、8時。

「今度は何?」
「これ、いいでしょうか」

 中古CDのところを整理していて気がついた、姉のところにあるCD。
 HootersのZIGZAG。
『この曲、好きなんだよね』
 その一言で、一体どれだけの音楽を姉から教えてもらったろうか。

 このCDには、歌詞カードが無い。
 その代わりに一曲あたり、数行ずつの詩のような文章がついている。それも
含めて姉が教えてくれたのは、まだこちらも中学になるかならないか、じゃな
かったか。

 3曲目を選んで、ボタンを押す。
 かすれたような男声と、手風琴のような少し泥臭いメロディ。
 天安門からベルリンまで。
 壁の崩壊の前も、天安門の事件の時も。
 あの人は、見ている人だったから。

 Load。
 主よ、と呼びながら、その曲は不思議に孤独なのだ、と。
 そんなことを言いながら、姉は一度夜、車に乗せてくれたことがある。
 このアルバムをかけながら。
 どこへ行くでもなく、あの人はずっと高速を飛ばした。

 どんな話をあのときしたんだっけか。


 最近でも、あの人も付き合いが悪い。この前の土曜日も声をかけたんだけど、
しっかり振られてしまったものだ。
 夜には居ないし。
 何やってんだろうなあほんと。


 ……と。

「む〜」
 頭上から、唐突に。
 いや、頭上じゃないな、一階から降りてくる階段のほうだ。
「ほら、拗ねないで、ね?」
 そしてどこか笑いを含んだ声。
「むむ〜」
 むーむー言ってるのは、あれは由良木さんだ。まだ高校生の、背のすらりと
高い女の子。
 長い髪と、身長の割に(というと変だけど)ぽわぽわーとした印象の。
「将来有望ってことで」
 笑いながら降りてくるのは……男性。三十代、兄と似たような年代かな。
「わーいっ」

 第一印象。気に食わない。

 狭量だとは思うけど、人に媚びるような口調って好きじゃないし、機嫌を取
るような物言いも好きじゃない。正直由良木さんの印象も、最初は良くなかっ
たけど、ただ彼女の場合はあれが天然で、女性でも男性でもあの調子だっての
が判ったんで……それはそれで別に今は特に印象が悪いわけでもない。

 でも、あの男性のほう。

 こちらですよ、と、言いながら由良木さんが棚を示す。ありがとね、これあ
げる、と、ポケットから飴を出してその手に乗せて。

 よく判らないけど、何だかものすごく、そういうのが手馴れて見えて。
 いけすかない。

 見ているうちに由良木さんは上の階に戻ってゆく。その人は教えられた棚に
向う。しばらく探してからCDを二枚ほど引っ張り出し、そのままレジに来る。
「あ、どーも」
 橋本さんの口調からして、どうやら常連なのだろう。
 ……まあ、お客なら仕方ない、のかなあ。
 あ、また面白いの聴いてますね、などと言いながら橋本さんがレジをうつ。
こちらは品物を受け取って、ビニール袋に入れる。
「この曲、最近聴いたねえ」
「あ、珍しいの聞くんですねー」
「ああ、友人に借りてさあ」
 おや。
 このグループってあまり日本では知られてなくて、中古CDで見ると相当安
い。姉はよくそれで文句言ってたけど。
 姉と同じ趣味の人、いるのか。
「え、本宮さん?」
「いや、たまに一緒にきてるやつ」
「ああ、あの姉さん」
 女性、なのか。
 にしても……本宮?
 姉がどこかで、その名前言ってなかったかな。
「おかげで聞くジャンル増えたねえ」
「へえ」
 万引き防止のタグを外して。
 袋の中に、一緒にチラシを入れて。
「ありがとうございました」
 袋を手渡す。
「あ、どーも」
 渡した弾みに、目が合う。その人は少し眉根に皺をよせてこちらを見ていた。
 ……何だ、一体。


 雪崩れのようなもので、一人がレジに来ると、案外続いてお客さんがくる。
「あの……さっきの人の行ってた、御友達って……」
 だからそうやって尋ねたのは、数人のお客さんが通過した後のことだ。
「ああ、相羽さんの友達?」
「ええ。よく来る人なんですか?」
「ああ、うん、たまにくるよ」

 そう言って……何故か橋本さんは、こちらをまじまじと見た。
「……?」
 なんだろ?
「どう、しました?」
「ああ、いや」
 そういえば、と、やっぱりこちらを見ながら。
「なんか軽部さんによく似たちょっと年上のお姉さんだね」

 …………え?

「……それってもしかして」
 あたしと姉と。
 向こうは眼鏡かけてて髪の毛長いし、こちらは眼鏡無しで髪の毛は肩まで。
 それでも互いによく似てる、と言われる。
 ……って。
「眼鏡かけてて、髪の毛後ろでまとめてて、時々簪みたいなのでまとめた髪を
団子にとめつけてませんか?」
「ああ、そうそう」

 …………おい。

「長いスカートはいてて」
「黒っぽい上着とか着てますね?」
「そうそう」

 そうそうじゃねえよっ!!

 とか思ってたら、橋本さんは情報を追加して下さった。
 ……ええ非常に聞きたくも無い方向に。

「たまに、相羽さんと一緒にきたり待ち合わせて呑みに行ったりしてるみたいだ
けど」

 …………んだと…………?!

 てか百歩譲ろう。こちらの人間観察眼がなってなくて、それで気に食わないっ
て思ったのかもしれない。
 でも!!
 一緒にきてる『やつ』って何だよこのやろう!!

 と、同時に情報が噛みあう。
 姉が足が速くなった理由。
 一方的に姉に付き合せてる、ってこと。

「………………あんのやろ」

 思わず、口走る。

「………………多分それ姉です」
「あ、そなんだ」
 妙に乾いたような声で、橋本さんは言う。
「ああ、似てる」
 そら姉妹ですからねっ。
 とか、思った途端に。

「おねーさん相羽さんとつきあってんの?」

 …………んだとコラ!!

「…………橋本さん」
「……は、は、はい……」

 今更びびってんんじゃねえっ!

「人の姉を、そこまで愚弄なさいますか……?」
「いや、あの、こう、なかよさげに話してそうに……みえたんで、ええと」
「…………勘違いです」
「そ、そ、そう?」

 感じ良くて優しかった花澄さん。
 小柄で元気の良かったはつみさん。
 二人とも、本当に良い友人だったのに。

 ……それですら。
 
 それだってのに。

「不愉快な存在のことを、私の前で話題になさらないで頂きたいっ」
「は、は、はい」

 てか現在不愉快な存在になったぞきっちりと。
 お陰で現在、相当不愉快な顔になってるだろうけど。

 ……ん?

「…………って、姉、ここに来てるんですか?」
「え、ああ、たまに一緒に」

 …………どういうことだよそれ!!

 頭の一部では良く判ってる。あの人は姉で、それもあたしより余程年上で、
昔は泣くのをずっとおんぶしててくれたくらい年齢が上で。
 だからあの人が何やったって、あたしがケチつけるようなことは出来ない。
 そんなこた、判ってるけど。

 ……でも!

「…………ありがとうございます橋本さん」 
「……え、あ、ありがとうって?」
「まず、姉だな」

 本宮さん、という名前は、聴いたことあるのだ。ついでに六華さんという人も。
 それで、さっきの人の名前だけ、抜けるってのは、無い。

 相羽さん、と、橋本さんは言った。
 そんな名前、姉から一つも聞いてない。

「…………問い詰めてやる」

 拳を握り締める。
 心配性でも何でも構わない。
 花澄さんもはつみさんも、姉が堕ちてゆくのを止めることが出来なかった。
 そのときに、あの人たちは居合わせてくれなかった。

 止めることが出来たのは僥倖。
 あんな思いは、もう二度としたくない。

「…………情報提供、本当に有難うございます」
「…………い、いえ」

 あうあう、と、橋本さんはこちらから遠ざかる。
 丁度お客さん居ないし。

「……棚、少し整理してきます」

 気に食わない、のと。
 このやろうって思ってる、のと。

 さびしいのと。

 姉さんが、名前を言わなかった理由。
 多分、あたしがこうなることを、あの人は見越していたのだろうけれども。
 だけど。

 …………だけど。

 
 天安門からベルリンまでの距離が500マイル。
 圧殺される自由から、その壁を崩した自由までの距離が500マイル。

 ……姉との間も、500マイル?


 そんな風に考えると、本当に泣きそうになったので。
 考えるのを止めて、CDを並べなおした。

 姉に、確認しよう。
 まず、そこからだ。

 指先で滑りかけたCDのケースを持ち直して。
 奥歯を噛み締めて。

 もうすぐ閉店時刻。


時系列
------
2005年4月、12、3日くらい。

解説
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シスコンすぎる妹が悪いのか。信用を無くした姉が悪いのか。
ジャニスガレージでのやりとりです。

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