[KATARIBE 28645] [HA06N] 小説『一流の風』

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Date: Mon, 11 Apr 2005 01:06:51 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28645] [HA06N] 小説『一流の風』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年04月11日:01時06分51秒
Sub:[HA06N]小説『一流の風』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
現在進行形で進んでいる、CD屋さんの風景……の、ちょっと前。
片帆の一人称の話です。

**********************************
小説『一流の風』
===============
 登場人物
 --------
   軽部片帆(かるべ・かたほ)
     :目立たない割に毒舌な大学生。この話の語り手。 
   軽部真帆(かるべ・まほ)
     :自称小市民。片帆の姉。

本文
----

 一緒に歩いていて、ふと気がついた。

「姉さん?」
「何?」
「足の速い友人居るの?」

 ふっと、姉は足を止めた。

     **

 新学期が始まったその日に、姉を呼び出した。
 近くのCD屋でいいとこがある、面白い曲があるよ、と前から聞いていて。
それなら面白いから行ってみたいな、と言ったのを姉は憶えていたらしい。
「……姉さん、でもこのお店とお隣と、どっちに良く行くわけ?」
「…………訊くなそこ」

 ついでに兄からの内部情報で、そのお隣が結構日本酒の品揃えのいい酒屋さ
んだということもこちら知っていたりするのだ。

「ったく、基之も余計なことを言うなっての」
「でも姉さん、兄さんが心配してたよ?CD代より絶対酒代のほうが掛かって
るって」
「……うーるーさーい」

 たかたかと姉は歩いてゆく。
 たかたかと、あたしもその横を歩いてゆく。

 ……そして、ふと、気がつく。
 姉の足は、確実に速くなっている。

        **

 これは姉妹揃ってのことだけど、あたし達は結構足が速い。本を片手に読み
ながら、普通に歩いていても、友人達(基本は女子だけど)は大概途中で文句
を言う。あたしも何度一緒に歩いている友人に手を引っ掴まれて、「早い、待
て、もちっとゆっくり、んじゃなければあたしをおんぶ」とやられたかわから
ない(そこでおんぶまで言うあたりが流石に悪友だなと今実感)。
 だからこうやって本を持たない状態で、歩いている限り……何というか、こ
れ以上速くなる必要はない、筈。
 なんだけど。

「何でまた?」
「何でって……姉さんえらい早足になってるもの」
「……そう?」
 何だか困ったように、姉は二三度足踏みをした。
「あんまり自分では気がつかないんだよね」
「って、その理由は判ってるんだ?」
「んーと」

 しかし、これだけ年の離れた妹が言うのもなんだけど、この姉ってほんとに
嘘が下手だ。

「友人で、多分真帆姉より足が速いったら……女性じゃあんまり居ないよね。
男性?」
「…………」
「で、真帆姉、また女扱いされてないね」
「……また、てのは余計」

 留学していた頃に、姉はそれこそ日本各地に知り合いを作った(つまり日本
各地から留学に来てたわけだ)。その中に結構沢山弟分が居るらしい。
 何だかんだ言っても、姉は面倒見がいい。そのせいか弟分なる連中に呼び出
しを食うこともある(というか、その電話を取り次いだことが結構あって、そ
の電話の成り行きを聴いていたこともあるのだが)。

 そうすると、見事に。
 姉は女扱いされてない。
 
 ……そらー、真帆姉は女らしいかったら妹としてもそれは無かろうと思うけ
ど。
 だからって遠慮会釈なく扱うことはないじゃないか、と。
 妹としてはほんっとそう思う。

「姉さんが、何で合わすわけ?」
「……別に合わせてるわけでもないけど」
「向こうにゆっくり歩かせればいいじゃないの」
「歩きそうにないんだよね」

 ……あ、なんか腹立つ。

「姉さん、さあ!」
「何?」
「どーしてそうやって相手に遠慮するわけ!」
「遠慮はしてないよ、全然」
「でも、ゆっくり歩けって言わないの?」
「言う」
「……で?」
「五分で元に戻るんで、莫迦らしいから止めた」

 なんかとっても腹が立ちます、それ。

 どうしてだろう。この人結構辛辣で口も悪いし、そんなに他人に遠慮する人
じゃないのに。
 なのにどうして、友人というと……こうなるんだろう。

「たかが、歩く速度じゃない」
 なのに姉は、そんな風に笑う。
 けろん、と。
「それで遠慮されるより、普通に歩かれたほーがあたしは楽なんだよね」

 たんたん、と、また姉は歩を進める。
 羽織った薄い上着が、その勢いで風を孕む。
 その背中の具合が……ふと。

 昔の姉を、思い出させる。


 威勢のいい、人で。
 本当に勝気で、言うことはきっちり言うし、必要ならどこででも喧嘩を売る
人。

 一流の、鋭く吹く風に似た人。
 ……だった、のだ。


「……姉さん?」
「なに?」

 何だか、一瞬。
 妙に……

 何だろう?


「……こら片帆、あんた行き過ぎ」
 ひょい、と、手が伸びてくる。
「あ……ここ?」

 商店街から少し外れた位置にあるコンクリート二階建ての古びた小さなビル。

「結構ね……あの国のCDとかもあったんで、びっくりしたよ」
「……ふうん」

 店に入って、棚のアルバム名を見てゆく。
 成程、姉さん達が気に入るわけだ。

 と。

「ん?」
 壁に貼ってある……これはバイト募集?
 時給を確認。まあ妥当だろう。
 期間も確認。今年ならまあなんとか。

「…………」
 姉を、見る。
 有難いことに気がついてない。
 ……よし。


「あ、片帆おいでおいで、面白い曲あるよ」
 のんびりと、姉が声をかけてくる。


 バイトは、前から探してたし、ここの曲の揃いを見てると、働くの面白そう
だと思ったのも確か。
 でも、一瞬思った。ここでバイトしてれば、姉の友人なる連中を見極められ
るかな、とも。

 ……姉さん絶対嫌がりそうだけど。

「片帆?」
「あ、うん」

 
 鋭く吹く風のようだった姉を憶えている。
 その姿を、憶えている。

「これ、いいなあ」

 ぽつ、と、姉がそう呟いた。


時系列
------
 2005年4月はじめ。

解説
----
 その後、片帆はジャニスガレージにてバイトをはじめるわけですが。
 その前段階の、風景です。
 一応、足の速い、遠慮しない友人は、相羽先輩ですね。
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てなもんで。
なかなかに、火種含んだ話かも。

ではでは。


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