[KATARIBE 28630] [HA06N] 小説『ただいま・おかえり』

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Date: Thu, 7 Apr 2005 21:00:53 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28630] [HA06N] 小説『ただいま・おかえり』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年04月07日:21時00分53秒
Sub:[HA06N]小説『ただいま・おかえり』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
話書いてます(自明)。
ある意味、本体準拠の話。

桜木さんお借りしてます。チェックお願いします>ねこやさん

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小説『ただいま・おかえり』
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  登場人物
  --------
   桜木達大(さくらぎ・たつひろ)
     :底の知れないシステム管理者。 最近すっかり若旦那扱いされている。
   六華(りっか)
     :元花魁の冬女。現在桜木宅に居候中。


本文
----

「……あの、達大さん、お聞きしていいですか?」

 来たばかりの頃、六華がそう尋ねたことがある。

「勿論。何でしょう?」
「あの……おかえりなさいって……言っていいですよね?」
「はい?」

     **

 一人で暮らすことが長い場合、一番怖いのは、怪異でもなければ天変地異で
もない。
 一番怖いのは……人間だと思う。

     **

「……真帆サンが駄目だったんです」
 紅茶のカップを包み込むように持ちながら、六華は困ったようにそう言った。
「駄目、というと?」
「おかえりなさいって聞くの、苦手だって……言うの禁止って言われました」
 にしても同居人が戻ってきた時に、何も言わないわけにはいかないではない
か。
 そう問うと、六華は首をすくめた。
「真帆サン、自宅勤務が多い人だから……それに、もしあたしが先に戻ってた
ら、電気がついてれば判るからって」
「それじゃ、六華さんが後から戻ってきた時にも、挨拶無しで?」
「いえ、おかりえなさいって言うのは、平気なんだ……って」


『家に誰か居るって感覚、駄目なんだよね』
 そう、言われたのだという。
『電気付けて、何か音立てといて。そしたら誰か居るってのわかるし、それで
充分』


「……ちょっと……偏屈のように思いますけどね」
「うんと偏屈です」
 気を使いながらの達大の発言を、六華はあっさりと引っくり返す。苦笑しな
がら彼女は続けた。
「だって、誰かが居るのが嫌い、って……どうしてだと思います?」
「さあ……」
「誰かに待たれるってのが、しんどいって言うんです、真帆サン」


『誰かに待たれてるって、ほんっと肩凝らない?』
『あたし結構、時間適当に戻るしさ』
『待ってないことが多くても。それでも待たせてるって感覚、大嫌い』
『だから、おかえりなさいって言われるの嫌いなの』
『わがままって知ってるけど……譲歩お願いして、いい?』


「それでも自分が、おかえりなさいって言うのは平気?」
「そっちは自分が待つだけだし、待つってほどでもないから平気だって」
「それは……」
「逆もまた真なり、って言わないかって、あたしも訊きました」
 苦笑しながら六華が言う。
「返事は?」
「最強呪文で返してあげよう……って」

『そーれがどうした?』
 その一言、だった、と。


「だから、少し心配になってしまって。……達大さん、平気ですよね?」
「無論です」
 良かった、と、六華が目元を和ませる。
「六華さんは?」
「あたしは……」

 空になったカップを、そっとテーブルに置いて、六華は苦笑した。

「あたしは、ほっとしました」

 ただいま、と、声をかけると、振り返りもせずにおかえりと言われる。
 どれだけ夜更かししても、心配した顔もされず、ただ何となく。

「おかえりー、って真帆サン、それしか言わないから。言ったら後は放ってお
かれるから。あんたはあんた、あたしはあたしって、はっきり線を引いてたか
ら……かえって」

 ほっと、したのだ、と。

「あたし、だから……ずっと真帆サンのところに居るの、少し心苦しかったの
そのせいもあるんです。あたしには居心地良かったし、あのひとのところって
少しも気を張らないで居られたし、気を使わないでいいって判ったけど」
「真帆さんが、気を使いますか?」
「全然使ってないように、見えるんですけどねー」
 くす、と、六華は笑った。


 おかえりさない、と、聴くことが苦手で。
 おかえりなさい、と、言うことは平気で。


「さびしくないんですかね」
「さびしいことは、あるって言ってました」
 空になったカップを手を伸ばして受け取り、お茶を注ぐ。ぺこん、と、頭を
下げて、六華はそれを受け取った。

「でも、年に一度のさびしいのために、誰かを引き込むのはわがままだ、って」

 たとえその為に、身食いのような真似をしようとも。

「火狐ちゃんも、大丈夫ですよね?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「……良かった」

         **

「達っちゃんおかえりー」
「おかえりなさい」

 たとえば二色のそんな声。
 決して不快ではない筈の……むしろほっとする、その声と言葉を忌避する人
間も居るということ。

 (その癖、六華さんが居なくなるのには大荒れだったんだよなぁ)
 苦笑しながら、後ろ手で扉を閉めて。

「ただいま」


時系列
------
 2005年3月下旬頃

解説
----
 確かに一人暮らしが長いと、帰ってきたときに誰かが居るというのは、
結構怖い……んじゃないかなとか。
 まあそういう、風景の断片です。

**************************************
……いやつかこー。
たまに実家に戻って、出かけて戻ると「おかえりー」といわれるんですけど。
一度『今日留守にするからねー』と言われて出かけて、戻ったら親が先に戻ってまして。
「おかえりー」といわれて、「うぎゃっ?!」と。

…………まじびびったですよええ(汗)
以来『おかえりー』は禁句なんです。ほんとに怖いって。

というわけです。
ではでは。


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