[KATARIBE 28626] [HA06N] 小説『ラセンウジバエ雑感』

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Date: Thu, 7 Apr 2005 00:31:04 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28626] [HA06N] 小説『ラセンウジバエ雑感』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年04月07日:00時31分03秒
Sub:[HA06N]小説『ラセンウジバエ雑感』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーる@居直りです。
話がでけるんです。ごめんなさいっ(平身低頭)。

………なんで、この二名です。チャットログ加工して話にしてみました。

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小説『ラセンウジバエ雑感』
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 登場人物
 --------
   相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警巡査。ヘンな先輩。お菓子好き。
   軽部真帆(かるべ・まほ)
     :自称小市民。多少の異能有り。この話の語り手。 

本文
----

 悪辣、と、本宮さんが言い、相羽さん自身も否定しない。
 そういう情報収集法。
 犯罪に関わる女性を手懐けてたらしこんで、情報を得る。
 相羽さんのおネエちゃん情報て言ったら相当有名であるらしい。

        **

「具体的な方法、聞いてもわかんないから聞かないけど」
「まあ具体的な説明きかれても企業秘密だからねえ」
「……聞いても、あたしは使用できないし」
 つーか出来てたまるかよって話ですがね。
 まあ尤もだ、と、相羽さんは笑った。
「だってこれって決まった手段ないからね」
「あそうなんだ?」
「相手によって様々だし」
「あー」
 そう聞いただけで、こちら気力が減退しますな。
「……めんどくさ」
 思わずそう言うと、それじゃ駄目だ、と、言われた。
 駄目でいいです、そんなめんどいもん。


「で……何これ」
「ああ、アメリカの友人から送ってきたグミ」
「……ミミズ形?」
「それが一番美味しいとのことで」
 味重視、見かけ重視?と尋ねられて、それなら味、と言ったのはあたしだが。
「でも色からしたら、ミミズじゃなくてもいいな、これ」
 緑とオレンジのだんだらのを一つとって眺める。
 ミミズじゃなくて、これならウジって言っても通るな……なぞと思って。
 あ。
「ラセンウジバエ解決法」
「……勘弁してよ」
「あ、知ってんの、あの話?」
「ティプトリーは読むからね」
「……悪い」

 片手で拝む。確かにあの話、それなりに壮絶な話だったもんなあ。
 ……出張中お弁当食べながら読んでたのはあたしだけど。


        **
 
 情報を巻き上げる方法。
 本当にケースバイケースなのだ、と、相羽さんは言う。
「お父さん代わりが欲しい人にはそういう立場とるし、ただ擦り寄る恋人が欲
しいならそうする」
 お父さんにもなれるし、恋人にもなれる……って。
 それが並じゃないよなあ……なんて思ってたら、相も変わらず極悪な一言が
おまけでついてきてまして。
「まあ、要は弱味につけこむこと」
 これだから悪辣って言われるんだろうなあ……。

「弱味につけこんで、本音つかまないとさ、こっちの欲しい情報ひきだせない
でしょ?」
「それは、そうだろうね」
「ともすれば本人も犯罪に手を染めてることだってあるんだ、そりゃあ警戒す
るよ」
「うん」
「その警戒をどこまで解けるか、そしてどうやって尻尾をつかむか」
 そのためには……ってことなんだろうけど。

「……でも、そこで相羽さん、よく……」
 本気じゃないって、気がつかれないな……と言いかけて、流石に止める。
 相手が気が付かない、ということは。
 ……どういうことか、って言ったらそれは
 
「ほら、良くある言い訳」
 それでも口調はあっさりとしたもので。
「……ん?」
「口説いてる時は本気だよ?」

 思わずグラスを落としかけた。

「…………それは」
 慌ててグラスを持ち替える。
 苦笑するまでの、少しの間を稼いでから。
「きついねえ」
「そりゃもう」
「……そこで、本気、なんだ」

 最初から裏切る予定で、それでも口説く時は本気で。
 ……よくそれで、この人ここまで正気で生きていられるな。

「だから、裏切るときはきっちり本人に顔見せて裏切るよ」
 ……そういうところが敵わない。
「だから、刑事さんとしては、ほんっと尊敬するんだよあたしは」
「そう?」
「礼儀を守ってるからね、刑事さんとして」
「最後の礼儀だよ」
 それは、そうだろうけど。
「でも、そうやって裏切った代償を、相羽さんが得てるわけじゃないから」
「まあね」
「それで得をしているのは、相羽さんじゃなくて、あたしたちだからさ」
「給料はたいしてかわりゃしないしね」
 ……ほんとになあ。
 それでどうして、そこまでやるのかな、と。
 何だか聞いていて……笑うしかなくて。
「だから、尊敬するんですって」
「そりゃ光栄」

 
 ミミズ形のグミを一本持って、くにくにと振ってみる。
 正直、あたしにはそんなに気持ち悪いものには見えないのだけど。

 くにくに、と、オレンジと緑の半透明が揺れる。
 どうしてこの人はそこまでするんだろう。
 お父さんの仇という面はあるだろうけど、ただそれ一筋というわけでもない。
 心は痛まないんですか、と、本宮さんは尋ねたというけれど。
 多少なりと、本気で口説くというならば……痛まないわけがなかろう。
 確かに情報源として確実だろうけど、でも、何でそこまでして。

 何で。

                    …………ぁ


「何?」
「いや……」

 一瞬。閃くように。
 
 ……このひとも、しにたいのか。

 (不思議なほどその一行は、疑問文の形を取らず)
 (自明のことのように)


 無論、そんなことは訊けない。
 単なる……勘である。


 口説く時は本気、と。
 一瞬……背筋が冷たくなった。
 確かに、この人は本気で口説いている。だからこそ。

 だからこそ。


「食べんの?」
「……あ」

 手の中のグミを見る。
 やっぱりこれは……ラセンウジバエかもしれない。
 ラセンウジバエ解決法。世界中の女性を男性が攻撃し、そうして結局、人間
全てが滅びてゆく。その理由がまた悲惨といえば悲惨なもので。

 本気で繋いだ絆を、本気で裏切って。
 ……そして得るものは?
 そこまでさせる、その理由は?


「…………でもあたしは『ラセンウジバエ』より『おお、わが姉妹よ』のほう
が怖かったけどなあ」
「……あの郵便の女性の?」
「そう。あれでお母さんが『どうして娘は諦めないの』って言うあたりが非常
に怖かったよ」

 虚無、と。
 半ば勘のように思った。
 だから、話を強引に変えた。

「それ、怖いわけ?」
「お父さんじゃなくてお母さんってとこが非常に……あれだけでも、ティプト
リーさんが女性だってのがよく判るくらいに怖い」

 グミを引っ張って、ちぎる。
 口に入れると……やっぱり香りと味がきつい。
 
 ラセンウジバエ解決法。他を攻撃しながら自己も同時に滅びるその手法。
 
「……しかしお酒に合わない、この味」

 そりゃそうだ、と、相羽さんが笑った。



時系列
------
 2005年4月初句。

関連ログ
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 http://kataribe.com/IRC/HA06/2005/04/20050403.html#230000

解説
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 ティプトリーの『星ぼしの荒野から』にある、短編にからめて。
 みみず形グミは、気持ち悪いって人も居るんですが、本体は案外平気です。
 いやほらだって、動かないし<想像させるなっ
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てなとこで、ではでは。



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