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Date: Sun, 3 Apr 2005 16:20:45 +0900 (JST)
From: 久志 <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28613] [HA06N] 小説『結婚騒動 三章〜県警への呼び出し』
To: kataribe-ml@trpg.net
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Web: http://kataribe.com/HA/06/N/
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2005年04月03日:16時20分44秒
Sub:[HA06N]小説『結婚騒動 三章〜県警への呼び出し』:
From:久志
久志です。
結婚騒動続けて三章です。
助けて史兄!この事態をまとめられるのはお前しかいない!
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小説小説『結婚騒動 三章〜県警への呼び出し』
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登場キャラクター
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本宮史久(もとみや・ふみひさ)
:本宮家長男、屈強なのほほんお兄さん。吹利県警刑事課巡査。
:難儀者の弟連中にしょっちゅう苦労をかけられている。
本宮和久(もとみや・かずひさ)
:本宮家末っ子、生真面目さん。吹利県警生活安全課巡査。
:生真面目だが融通が利かないところもある。長兄を尊敬してるぽい
本宮麻須美(もとみや・ますみ)
:本宮家母、ちょっと天然ぽいお母さん。
御堂ロザリンデ花梨(みどう・ろざりんで・かりん)
:日独ハーフで貴族なパンパネラ。通称ローザ。
:ワケあって、和久が彼女の保護者になっている。
史久 〜緊急連絡
----------------
土曜日の昼、とはいえ今日は出勤日。でもまあ、特にめぼしい事件が起きて
いるわけではないけれど。
捜査方針会議。いつ何時どんな事態が発生しても対応できるよう、各自の報
告をもとに対応方法を整理していくか。
ホワイトボードに書き出された内容を、ひとつひとつ頭で整理しつつ、必要
事項を洗い出してノートにメモを取る。あとでレポートにまとめて提出しない
といけないから、きっちり会議内容を噛みくだいて要点を読み取っておかない
といけない。各報告と意見を聞きつつボールペンを走らせる。
そのとき、会議室のドアがノックされた。
開かれたドアの向こう、総務課のお姉さんが青い顔で立っている。
「会議中失礼します、本宮巡査いらっしゃいますか?!」
その尋常でない様子に、一瞬その場の空気がざわついた。
「ご家族の方からお電話で、至急連絡をとりたいとのことです」
一同の視線が僕に集中する。隣に座った相羽先輩がかすかに眉をひそめて、
向かいの席で議長を務めていた卜部警部がまっすぐに僕の目を見た。
胃の底がすうっと、冷えるのがわかった。
「わかりました。すみません、会議中失礼します」
「本宮巡査。早く連絡を」
「すみません」
一体、何が?
会議室を出て、ほとんど駆け足で電話口に向かう。
「もしもし、電話代わりました史久です」
『史ちゃん!』
ほとんど悲鳴のような声をあげているのは母さん。
「母さん、どうしました?」
『大変よ!大変よ!大変なのよ!』
「母さん、まずは落ち着いてください。ゆっくり深呼吸して、気を落ち着けて。
なにがあったんですか?」
『卒業なのよ!!』
「はあ?」
卒業?
すいません母さん、話がさっぱり見えません。
そんなに興奮したらまた倒れますから、まずは落ち着いてください。
「母さん、落ち着いて。どういうことですか?とりあえず今起こってる出来事
だけを教えてください」
『幸ちゃんが!』
「幸久がどうしたんですか?」
『幸ちゃんが……』
母さんの話に思わず受話器を取り落としそうになった。
「幸久が……駆け落ちしたあ?」
和久 〜昼食時の電話
--------------------
かつおダシのいい匂いがする。
お箸でたぐると、ちょっと太めのうどんにほんのりダシが染みている。
ダイニングテーブルに向かい合わせに座って、ローザと二人で昼食のうどん
を食べている。普段はローザは学校の給食だし、自分も県警勤務でお昼はいな
いし、夜勤やシフトもあるから土日も必ずしも休みというわけじゃない。
だから、こうやって一緒にお昼ご飯を食べるとのはちょっと珍しい。その分
ちょっと手の込んだものを作ってあげようと思って、こないだ史兄に作り方を
教わった自家製手打ちうどんに挑戦してみた。手打ちというとなんだか小難し
いイメージがあったけど、実際作ってみると思ったより簡単にできて味もなか
なか悪くない。
「どうかな?味のほうは、初挑戦なんだけど」
「とってもおいしいですわ、カズヒサは器用ですのね」
「そう?よかった」
「この間みんなが遊びに来たときに作っていただいたケーキもとても好評でし
たし、お土産にもらった家族の方も喜んでいたそうですわ」
「ホント?よかった、練習したかいがあったよ」
色々練習したなあ、うん。でも試作で作った分は県警でもそれなりに美味し
いって言ってもらえたし。遊びにきた子達も喜んで食べてたし。
そんな風に喜んでもらえるなら、頑張った甲斐がある。また新しいお菓子に
挑戦してみようかな。ちょっと手の込んだものとか、ああ和菓子とかでもいい
なあ、さっぱりした和菓子なら署内の年配の人のお茶受けにも良さそうだし。
今度は生活安全課と総務課だけでなくて、史兄や相羽さんの刑事課にも持って
いこうかな。
うどんを手繰りつつ考え事をしていると、リビングの電話が鳴った。思わず
箸を置いて立ち上がろうとした自分を軽く制して、ローザが席を立つ。
「わたくしが出ますわ」
「ああ、ありがとう」
そのまま、受話器をとって丁寧に名乗った。しっかりしてるなあ、ホント。
ふと、思った次の瞬間。ローザが受話器を片手に勢いよく振り向いた、その
顔は真剣でちょっと尋常でない。
「カズヒサ!」
「ローザ、どうしたの?」
「お母様からお電話です!大変なことが起きてるそうですわ!」
「え?」
「早く代わって!」
ローザの言葉の意味を理解するのに一秒。
何かに引っ張られるように、手を伸ばして差し出された受話器を受け取る。
「もしもし、和久です!母さん一体なにが!?」
史久 〜昼行灯豹変
------------------
事件の早期解決は初動にかかっている。
パレス吹利に到着したのは一時を少し過ぎたところ。現場になった一階のロ
ビーははまだ混乱の渦中といったところか。あちこちで怒鳴りあう声や半分悲
鳴のような声、現状を把握できない困惑の声で騒然としている。
混雑する人並みをかき分けて、片手に手帳を掲げて会場中に聞こえるように
声を張り上げた。
「みなさん落ち着いてください!警察です!」
辺りがしんと静まり一斉に視線が集まる。その中、一人の中年の男が困惑し
きった顔で前へ進み出た。その立派な服装や名札から察するにこちらの会場で
の上の人間といったところか。
「あの、すみません……」
「あなたがこちらの責任者の方ですか?」
「は、はい。パレス吹利の支配人をしております……」
「わたくし、吹利県警刑事課巡査の本宮史久と申します。このたびの事件解決
の為、ご協力お願いします」
とりあえず有無を言わせず了解させないことには、状況が収まらない。
「こちらの指示に従ってください、よろしいですね?」
「は、はい」
「まずは、現在ロビーにいらっしゃる列席者の方を会場へ誘導してください。
人数確認と列席者名簿との照会も一緒に、お食事もお出ししてしまって構いま
せん。とにかく関係者を外へ出さないように、よろしいですか?」
「はいっ、かしこまりました!」
慌てて係員らに指示を出す。列席者達もあちこちで顔を見合わせながらも素
直に誘導にしたがって移動を始めた。
「誘導と名簿確認が完了し次第、こちらへ連絡をお願いします。現在会場に居
ない方は、知り合いの方から連絡をとってもらって居場所の確認をして会場へ
戻るように指示してください」
「は、はいっ」
「あと新郎新婦のご家族の方には、別室を用意してそちらへ案内してください
追って事情を聴取します」
「かしこまりましたっ」
ばたばた走り出す支配人と係員達を横目に見ながら、頭を回転させる。
とにかく今の段階では、混乱する現状を治めないことには始まらない。
花婿の不在と花嫁の拉致。
とりあえずは現在逃走中の花嫁拉致犯の追跡か……って幸久なんだよなあ、
まったく。
事件発生から約一時間。目撃者から確認したところによると、最初走って
会場を後にしてから途中から車を使って逃走したという。
休日昼間という時間帯からすると、今の時間は買い物目当ての車両で大通り
は大分込み合ってくるはずだ。しかし、土地鑑でいうとあいつは普段から仕事
で相当車を乗り回している、裏道や抜け道などはかなり詳しいはずだ。ここか
ら一時間圏内での逃走先、行くとしたら……
思わず舌打ちが出た。
対処しなければいけない状況に対して人手が足りなさ過ぎる、僕一人だけで
はどんなにフル回転したところでカバーしきれない。
ふと、背後から聞きなれた声が聞こえてきた。
「史兄!」
「和久か」
「母さんから、連絡が!」
「わかってる」
一応、捜査員二人か。でも、こいつじゃまだまだ人員として考えるにはヒヨ
コもいいとこだしなあ。悪いけど半分と見積もって行動してもらおう。
「和久」
「はい」
「これから吹利県内各所と、吹利県外から先の京都・奈良・大阪の高速料金所
へ不審車両と不審人物の目撃情報を募って。人物特徴と状況説明をしっかりね。
今後、不審人物か不審車両もしくは関係した情報がわかり次第、僕の携帯に連
絡を入れるように伝えて、できるね?」
「は、はいっ!わかりましたっ!」
逃走者の典型思考パターンからして、まずは県外へ向かったと考えるのが妥
当だろうね。よほど計画的でない限り服装もそのままだろうし、ああでもどこ
かのホテルとかはいられて服調達してとかだと、わかりにくくなるな。
でも、正直賭けてもいい、あいつ絶対考えてない。
とりあえず、各種高速入口と料金所に連絡とって不審者と不審車両の目撃情
報募って、情報が入り次第動くか。思うにたぶん行き当たりばったりだろうか
ら、下手にこっちで予測すると無駄足を踏まされかねない。
それにしても。
なんかワケがありそうなんだよなあ、あいつがわけも無くなくこんな大胆な
ことやらかすとは思えないし。
とにかく、こっちの会場で親族や会場関係者、新郎の会社関係者から事情聴
取した後であいつの家を家宅捜索して手がかりを探すか。
それにしても。幸久、お前さあ。
ホントもう、どうしていつもいつもいつもこんなに僕の手を焼かせるかな。
まったく。
和久 〜やっぱりすごい
----------------------
道路地図と道路情報誌を片手に、パレス吹利で借りた電話でかたっぱしから
情報を集める。けど、今のところは目ぼしい目撃情報はあがってきていない。
でも、こう。
ええと、なんだか、史兄や関係者の人には悪いけど、正直ドキドキする。
今まで警察学校での勉強や研修ばかりだったし、一応それなりに交番勤務で
の経験もあったけれど、こんな風に実際の事件の空気に触れるというのは正直
初めてな気がする。
もちろん、緊張もするし、気合も入るけど。
なんといっても。
史兄、やっぱカッコいいなあ。
俺も、いつかはあんな風に毅然とした立派な刑事に……
って、そんなこと考えてる場合じゃなくて。
電話番号を叩く、とにかく史兄から振られた分の仕事をきっちりこなして。
足ひっぱらないようにがんばらなきゃ。
よし、やるぞ。
史久 〜苦労人だね
------------------
親族関係者が通されたという別室に入るなり、いきなり襟首をつかまれた。
「一体どうなってるんだ!」
「美絵子が……美絵子をどこへ……」
「新婦のお父様ですね、まずは落ち着かれてください」
「何をいうか!お前の弟がしでかしたことだろう!信用できるか!」
ああ、美絵子ちゃんのお父さん怒ってますね。まあ無理もない、かなあ。
「僕が本宮幸久の兄であるという事実は確かですが、それ以上に警察官という
立場です。職務をまっとうして今の状況を整理します、ご協力お願いします」
「貴様!」
「お父さんやめて!」
「お巡りさん、うちの一也はどこへ!どうして一也!」
ああ、修羅場だ。とにかく落ち着けないことには話にならない。
「皆さん、落ち着いてください。この度は弟が皆様に大変な心配とご迷惑をお
かけして、兄である僕が代わってお詫びいたします。この件は僕が責任を持っ
て必ず解決します。どうかご協力ください、お願いします」
とにかく信用してもらわないことには聴取もおいそれとできない。目に力を
込めて、気を落ち着けるように一人一人ゆっくりと見回しながら、襟元の手を
外す。
「お嬢さんは僕が必ず探し出します、信じてください」
毒気が抜かれたようにするりと手が外れた。
「まずは事情聴取します、僕が質問することに対して正確にお答えください。
よろしいですね?」
しんと静まった中、その場に居合わせた全員が小さく頷いた。
聴取を終えて、親族用控え室から出た後、ため息をひとつ。
はあ。まったくもう、なんで僕がこんなとぱっちりをくうかな。
「史兄!」
「和久」
「霞山高速入り口で、助手席に白いドレス姿の女性を乗せた黒服の男を目撃し
た情報が入ってます!」
「わかった」
霞山方面、てことは大阪か。
「和久、じゃあ次」
「は、はい」
「今から幸久の家に家宅捜索いってきて」
「え?」
「すぐに向かって、大家さんには僕から電話で連絡しとくから。着いたら立会
いで鍵開けてもらって、参考になりそうなもの片っ端からかき集めて」
「はいっ」
「その間こっちも聞き込みと情報集めを続けるから、証拠集めてからどう動く
かは電話で追って指示する」
「わかりましたっ!」
そんなに気合入れなくても。まあ、お前には初事件って感じなのかな。
「……史兄」
「なに?」
「やっぱカッコいいっ!」
おーい、お前こんなときにはしゃがないの。はやく行きなさい。
「はい!わかりました!本宮史久巡査!」
いや、兄貴に敬礼しなくていいから。なんでそんなにノリがいいの、お前。
まったく、弟一号といい弟二号といい。
頭を押さえそうになった一瞬、胸ポケットの携帯が鳴った。
「はい」
『史久か』
「父さん!?」
なんで父さんが?出張中のはずじゃあ?
『ついさっき電話で幸久が大変なことになってると聞いて』
「……母さんですか」
『なんでも駆け落ちとか心中とか』
母さん、また誤解と混乱をまねく発言を……
『今から何とか都合をつけて吹利に戻るから、新幹線なら夜にはなんとか』
「父さん、大丈夫ですから。そんな無理をしなくても僕がついていますから、
父さんはお仕事がんばってください」
『しかし、心中とは穏やかでないぞ』
「それは誤った情報ですから、本気にしないでください。この件は僕がなんと
かしますから、状況が落ち着いたらちゃんと僕から連絡をいれますから大丈夫
です」
『お前がそこまで言うなら心配ないとは思うんだが、あまり背負い込みすぎる
のはよくないぞ。私のことなら気遣わなくてもいいんだから』
「大丈夫です、本当に心配ありませんから。父さん無理しないでください」
『そうか、また連絡を入れるから無理をするなよ』
「……すいません」
ああ、もう、母さんまで混乱を広げないでください。
勘弁してくださいよ、幸久だけで充分です。
電話を切ると間髪いれずまた携帯が鳴った。
『もしもし、小池です。史久くんですか?』
「小池さん!」
『いや、先ほど麻須美さんから連絡があって』
展開が読めた。
「小池さん、弟がご心配かけて本当に申し訳ありません。会社の方にもご迷惑
をおかけしてしまって、代わってお詫びします」
『ああ、幸久のことだからそんな物騒なことはないとは思うのだが、最近様子
がおかしかったので気になって』
「本当に申し訳ありません、その件に関してはまた追ってこちらからご確認の
電話をいたしますので、協力お願いします。ご迷惑をおかけしてすいません」
電話を切ってため息。
母さんから携帯をとりあげよう、まずはそれからだ。
どうして、こう。うちの家族は…………
時系列と舞台
------------
2005年3月26日
解説
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結婚式当日。県警で勤務中の史兄のもとに寄せられた一報。
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以上
迷惑な三男と、混乱を振りまく母と、はしゃぐ末っ子。
苦労が耐えない長兄です。
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