[KATARIBE 28611] [HA06N] 小説『どこか似た相手』

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Date: Sat, 2 Apr 2005 18:29:38 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28611] [HA06N] 小説『どこか似た相手』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年04月02日:18時29分38秒
Sub:[HA06N]小説『どこか似た相手』:
From:久志


 ちは、久志です。

 たまには三人称に挑戦してみようぜということで。
史兄が白雲くんに会う話を書いてみました。

しかし、わかった。
三人称で話を書くとものごっつ書くのが遅いということが!

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小説『どこか似た相手』
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登場キャラクター 
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 本宮史久(もとみや・ふみひさ) 
     :吹利県警刑事課巡査。屈強なのほほんおにいさん。通称昼行灯。
 白雲(はくうん)
     :魍魎喰らいの仙犬。

オフの公園で
------------

 近鉄吹利駅前の通りを抜けて、吹利本町商店街を歩く。
 昼食時間も過ぎて、三時少し前。平日ということもあり、ランチタイムの終
わったこの時間帯ではほとんどの飲食店は準備中の札が店の前に出ている。
 昼食にはもう遅く、夕飯の買い物に出るには少し早い。そんな半端な時間帯
のせいか、買い物予定の主婦の姿もまばらで、普段のにぎやかなはずの商店街
の印象とがらりと変わって、なんだか微妙な違和感を感じる。

「さて、どうしようかな」

 あごに手を当ててしばし考える大柄の男、本宮史久。吹利県警勤務で今日は
平日の非番。同居人であり婚約者でもある卜部奈々は通常出勤なので、たまの
オフの時間を一人で過ごしている。共働きで怠りがちな家事に専念していたせ
いで、昼食をとるタイミングをちょっと逸してしまったようだ。

(うーん、お昼まだなんですよね、でもお店ほとんど閉まってるし。こんなこ
となら洗濯早めに切り上げて早めに昼食を買いに出るんだったなあ)

 商店街の飲食店はほとんど準備中。マンションに戻って何か作ってもいいが、
朝から掃除に洗濯とがんばったせいで結構小腹が空いている。

「なにか買って公園で食べよう。それからお買い物かな」

 大通りの途中立ち寄ったパン屋でサンドイッチとコーヒーを買って、人通り
もまばらな大通りを歩いていく。
 三月ももう終わりの時期。空もすっきりと晴れて、やわらかい日差しが心地
よい。思わぬ散歩になったけが、この陽気なら悪くはない。
 駅から少し歩いて小さな公園に出る、平日なうえ時間帯が時間帯だけに人の
姿はない。中ほどの芝生沿いに置かれたベンチに腰掛けて、珈琲を一口飲む。

「桜は、もう少し先ですね」

 ベンチのすぐ脇に植えられた桜の木を見上げる。花こそ咲いていないものの
枝の先にはいくつものつぼみが膨らんでいるのが見える。
 サンドイッチの包みを開け、一口ほおばる。ゆっくり噛み締めながらぼんや
りとあたりを眺める。

「ん?」

 ふと史久が目をやった先で、白い大きな影が動いた。ひたひたとゆっくり
こっちへと歩いてくるのは、一匹の犬。
 頭の先から尻尾まで2m以上はある大きな体、垂れた耳に、全身は毛足の長
い真っ白な毛でおおわれている。大きな体でのしのしとゆっくり歩いてくる様
は妙に威厳があって、そこらの犬とはちょっと貫禄が違う。
 すぐ目の前の位置まで歩いてくると、彼(?)が足をとめた。

「こんにちは」

 言葉を理解したのかしてないのか、ふすん、と。小さく鼻を鳴らす。そのま
ますとんと腰を落とし、すぐ目の前で尻尾をひとつ小さく振った。

「お腹、空いてるんでしょうか?」

 ふすん、と。ひとつ鼻を鳴らす。それが肯定なのか否定なのかは理解できな
いけれど、ここは気持ちを推し量って、サンドイッチに挟まっていたハムを一
枚引っ張り出して目の前に差し出す。
 おんっ、と、一声鳴いて、ぱくりとハムにかぶりつく。ぱたぱたと揺れる白
い尻尾が風になびいている。

 これだけ大きい犬は何の種類だったか。
 ピレネー犬かレトリバー系か?それにしても、飼い主らしき人物もおらず、
首輪もなく綱もないということは野良だろうか。それにしては毛づやもよくて
穏やかで人を警戒していない。

 先日、勤務する県警の知り合いに言われた言葉が史久の脳裏によぎった。

(犬にたとえるとピレネー犬、か)

 先日友人に話したところ、ぴったりだと言われて笑われたような気がする。
自分で考えても、否定できないあたりがちょっとひっかかるところか。

「似てます、かね?」

 小さく首を傾げて、目の前で座った彼の黒い瞳をじっと見つめる。
 ふすん、と。鼻を鳴らす。それが肯定なのか抗議なのかわからないけれど。

 穏やかな陽気の中、不意に春の風が吹きつける。
 思わず目を細めてコートの襟元に首をすくめる、彼の方も黒い目を細めて頭
を少し下げる。吹きつけた風に白い毛がふわふわと踊った。
 お互い似たような反応にくすくすと笑いがこみ上げてきた。

「似てるのかな、やっぱり」

 すん、と。彼の返事が聞こえる。
 食べ終わったサンドイッチの袋を丸めて、ベンチのすぐ脇に置かれたゴミ箱
に捨てる。軽くコートを手で払って、目の前の白い犬に小さく手を振った。

「それでは、また」

 おん、という小さな返事が返ってきた。

「さて、お買い物かな」


時系列 
------ 
 2005年3月の終わり
解説 
---- 
 オフの日、公園で昼食をとる史久。どこか似た雰囲気の白い犬に出会う。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。




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