[KATARIBE 28598] [HA06N] 小説『結婚騒動 二章〜花嫁泥棒』

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Date: Fri, 1 Apr 2005 00:24:46 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28598] [HA06N] 小説『結婚騒動 二章〜花嫁泥棒』
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2005年04月01日:00時24分46秒
Sub:[HA06N]小説『結婚騒動 二章〜花嫁泥棒』:
From:久志


 ちは、久志です。

 とりあえず締め切りは過ぎようと話は書き上げねばなりますまい。
というわけで、第二章です。れあなんの書いてくれた断章を間に加えてます。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『結婚騒動 二章〜花嫁泥棒』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ) 
     :葬儀屋さんで霊感のある軟派にーちゃん。 
     :今更自分の気持ちに気づいた鈍い奴。
 藤村美絵子(ふじむら・みえこ) 
     :幸久の元カノ。ちょっと気が強いけどいいお姉さん。 
     :微かに心を残しつつも、今日は結婚式当日。
 桜木達大(さくらぎ・たつひろ) 
     :底の知れないシステム管理者。
     :六華に協力して幸久と美絵子の仲を応援している、らしい。
 蓮池芽衣(はすいけ・めい) 
     :美絵子とは中学時代からの親友、幸久とも仲が良い。 
     :幸久に想いをよせていたらしいが…… 
 仲本佐緒里(なかもと・さおり) 
     :その昔、幸久を狙ってたらしい人。現在は関係ないらしい。 
     :何だかんだいって美絵子や幸久とは今では友人らしい。 

幸久 〜逃亡中
--------------

 抱き上げた体は、意外と軽かった。

 混乱に乗じてパレス吹利を抜け出して。
 外の表通りは、土曜の昼前ということもあって歩道の人通りは少ない。その
かわりというか、駅前のショッピングセンターへ買い物目当ての車で交通量は
結構激しい。幸い、ここは大通りの広い歩道で人通りも少ない時間のおかげで、
道に余裕がある。
 でもまあ、道行く買い物帰りらしい主婦やら午前あがりの学生やらは目を丸
くして走ってくる俺を避けてくせいでもあるんだが。

 そりゃ、こんな街中で花嫁抱えた男が全力疾走してれば目立つよなあ。

 てか、おい。
 俺、何やってんだよ。
 いや、でも、美絵子のやつをぶんどってやろうとは最初から思ってたけど、
この展開は想定外だ。そもそも、鼻っ面に証拠を叩きつけるはずの相手自体が
会場に来てねえし。
 でも。
 昔っから勝気で、言いたいことは何でもバシバシ言って、いかにも姉御肌の
はずの美絵子が、大勢の列席者に見られながら、今にも泣き出しそうな顔でへ
たりこんでる姿を黙って見てるのは、正直耐えられなかった。
 ただ、頭で考えるより先に体が行動を起こしてた。
 けどよ、少しは後先考えろよ、俺。
 どうすんだよ、これから。

 走りながら、風になびく白いベールが頬をかすめる。
 美絵子の腕はしっかりと俺の首に回されて、俺の首筋に顔をうずめてる。
かすかに首筋に感じるのは、涙。
 ちくしょう。
 あの野郎ふざけやがって。

 抱きかかえる手に力がこもる。
 さっきから振り向きもしないで全力疾走してるものの、女一人抱きかかえた
状態じゃあ遅かれ早かれ追いつかれるのは目に見えてる。
 くそ、このまま捕まってたまるかよ。
 なんか、逃げる手段を……

 その時、大通りの脇に止まった車のクラクションがけたたましく鳴った。
 思わずその場で足を止めて、目をやった運転席に居たのは。
 貼り付けたように、にこにこと腹の底で何考えてんだかわかんねえ笑顔を浮
かべた男……

「桜木!」
「え……桜木さん?」
「やぁ、幸久さん。お困りのご様子ですね」

 窓をあけたまま、のんきに片手を上げてやがる。あいかわらず人を食ったよ
うな桜木の態度に、一瞬気が抜けそうになった。首筋にしがみついてた美絵子
も急な登場に驚いて顔をあげた。
 って、お前なんでこんなとこにいんだよ。しかもこんなタイミングよく。

「さ、桜木、お前っ!なんでこんなとこにっ!」
「そんな瑣末なことを気になさる余裕が?」

 遥か後方から小さく怒鳴り声が聞こえてきた、早くしないと追いつかれる。
もう何でこいつがいるだの、んな細かいこと考えてる暇ねえ。

「……桜木、頼む。車貸してくれ!今すぐ!」
「わかりました。それでは、一つ貸しということで」
「わかった!わかったっつの!」

 桜木の奴はひょいとドアをあけて歩道に下りると、どこぞの執事のごとく車
のドアを押さえて中へどうぞとばかりに手をそえた。
 とりあえず抱えたままの美絵子を奥の助手席に座らせて運転席に飛び乗る。

「ボクはこれから六華さんとデートなので。車は里見マンションの駐車場に返
しといてくださいね」
「わかった、すまん!」

 勢いよくドアを閉めて、開いた窓の向こうでのんきに手を振ってる桜木に向
かって叫ぶ。

「桜木!サンキュ!借り絶対返す!」
「健闘を祈りますよ」

 車の流れを見計らってアクセルを踏む。
 どこ行くかなんてさっぱり考えてないけど、捕まってたまるか。


美絵子 〜流されるまま
----------------------

 運転席でユキが真剣な顔でハンドルを握ってる。
 いつだったか言ったことあるけど、車運転してるときの真面目な顔、あたし
結構好きだったのよね。いつの頃のことだろう?
 あんたはそれ言われても、あまり嬉しそうじゃなかったね。まあ運転してる
当人にはわかんないよね、うん。

 ああ、そういえばあたしあの人にも同じこと言ったことある。
 莫迦みたいだね、あたし。

 あの人、こなかったのに。
 あの人、嘘ついてたのに。

 でも、あたしだってあの人のこと言えない。
 今まで忘れたふりをして、でもずっとユキのこと引きずってたのに。心のど
こかで、期待してたのに。あの人のこと言えないよ。

 莫迦だね、あたし。
 打算や理論で自分を塗り固めて。結局、中身からっぽだったんじゃない。

 涙が頬を伝う。
 うつむいた顔から、涙のしずくが一粒、手の甲に落ちて白い手袋を濡らした。
 なんだか、もう。なにもかも遠い世界のことのように感じる。

 ふと、涙の落ちた手にふわりと大きな手が重なった。
 もう片手でハンドルをつかんだまま、手を引き寄せて自分の膝の上に置いた。
そして、また両手でハンドルを握って運転を続ける。

 莫迦だね、ユキ。今ごろ大騒ぎだよ。
 でも……

 手のひらに感じる膝の温かさ、真剣に運転する横顔。
 また涙がこみ上げてくる。でも、さっきまでの涙とはちょっと違う。

 あの、本当にみじめで辛くて泣きそうなとき。
 ユキが周りも気にせずあたしに駆け寄ってきてくれたこと、あそこから連れ
出してくれたこと、すごく嬉しかったよ。


芽衣 〜取り残された式場で 
--------------------------

 走り去る幸久の姿を見送って、芽衣は小さくため息をついた。 
 新郎は未だ現れず、新婦が連れ去られた会場は当然のことながら騒然として 
いる。式場の人間も同様だ。ドラマなんかではありがちな、『花嫁強奪』とい 
う展開だが、実際はそうあることじゃないだろう。 
 そう思って芽衣は、少しだけ同情的な視線で関係者一同を眺めやった。 

「でもま、ある意味理想的な展開か」 
「なにがよ? 大騒ぎじゃない」 

 芽衣の独り言に、佐緒里が耳ざとく反応する。 

「佐緒里のことだから感づいてたでしょ、美絵子の微妙な気持ち」 
「一応、薄々とは……ね」 

 美絵子は、二股をかけない。 
 芽衣は一度、なにかの時に話したことがあった。美絵子は最低限の礼儀だと、 
そう言っていた。 
 美絵子と幸久を見て、しこりのような違和感が残った。 
 好きな人が出来たから幸久と別れたか、幸久から別れたかったから好きな人 
が出来たことにしたのか。少なくとも、美絵子の幸久を見る目は、多少の翳り 
こそあれその奥に潜む情熱は、あの頃と全く変わりないように思えてならなかっ 
たのだ。 
 疑問を確かめることは、けれど芽衣には出来ようもなかった。例え聞くこと 
が出来ても、美絵子は答えなかっただろう。 

「このまま何事もなく結婚してたら、美絵子はきっとユキを引きずってた。だ 
からあたしは、今の展開は理想的だって思う。こうなったらもう、美絵子はどっ 
ちかいらない方を選んで、捨てなきゃならない」 
「でも、結婚式はメチャメチャじゃない」 
「美絵子とその婚約者サンが付き合って何年になる? あたしは日本にいなかっ 
たから正確には知んないけど、結構になるって聞いたよ。それだけの時間を一 
緒に過ごして、ユキがちょっと横槍入れたくらいで破綻するってんなら、最初 
から愛なんてなかったってことよ」 
「芽衣、あなた幸久くんのことが好きだったんじゃないの?」 

 芽衣が淡々と言い切ると、佐緒里は複雑そうに眉をしかめ、言った。 
 直球の言葉に、芽衣は一瞬だけ口ごもる。 

「好きだったよ。うん、今でも多分、あたしはユキのことが好きなんだと思う」 
「じゃあどうしてそんな、恋敵が有利になるような状況を喜べるの?」 
「……美絵子のことも好きだから、かな?」 
「あなたの気持ちは?」 
「ちゃんとあるじゃん、好きって気持ちはさ。あたしは二人ともが好きだから、 
二人ともに幸せになって欲しい。それだけだよ」 
「呆れた、それって恋愛じゃないんじゃないの?」 
「じゃ、アガペーとでも言う? なんでもいいの、別に」 

 実際は、そんな簡単に割り切れることでもなかった。日本へ帰って美絵子と 
幸久が別れたと聞いて、芽衣の心が高鳴ったのも確かだ。 
 しかし、嘘をついたり、自分を騙しているつもりは、芽衣にはこれっぽっち 
もなかった。 

(あたしもまだまだ未熟ってことか……) 

 また一つため息をついて、辺りを見回す。 
 喧騒と混乱、怒鳴り声も時折聞こえる。本当に来るのかすら怪しい新郎もま 
だついていないようで、打開案も無いためか、先ほどから状況は変化していな 
い。 

「ちょい……」 

 芽衣は唐突に立ち上がると、佐緒里に手招きをして歩き出す。 

「なに?」 
 追ってきた佐緒里が不審そうに聞いてきた。 

 どうせ誰も聞いていないだろうが、一応もう一度辺りをうかがって、声をひ 
そめ耳打ちする。 

「ユキに電話。ここじゃ落ち着いて話せそうにもないでしょ」 

 あっと口を開く佐緒里。まさか、幸久の電話番号を知らないわけもないだろ 
うに。流石の佐緒里も動転しているのか、携帯の存在に思い至っていなかった 
ようだ。 
 そんなことを考えながら、人気のない場所を探し、携帯を取り出す。 
 十秒、二十秒、まさか、電源切ってないだろうなと心配になり始めたところ 
でようやく、声が流れ出てきた。 

『はい、本宮です』 

 電話の向こうから聞こえたのは、はいつもと変わらない幸久の声だった。 

「このドアホがッ!!」 

 芽衣は思い切り罵声を叩きつけた。 


幸久 〜とりあえず遠くへ
------------------------

 これから、どうするか。
 とりあえず吹利を離れるとして、どこいくか。まずはこっから霞山方面から
高速乗って大阪でて、そっから状況見てまた考えるか。しょっちゅう仕事で乗
り回してる分、ここらへんの抜け道や裏道にはかなり自信がある。

 助手席では、美絵子がうつむいたまま涙を拭おうともせずに座ってる。
 やっぱり、ショックなんだろう、な。

 てか、俺。こういうときこそ行動しろよ。
 とりあえず道は当分直線が続いてる。前方に注意しつつ、ハンドルから片手
を離して美絵子の手を握る、そのまま手を俺の膝の上に乗せた。
 それがあいつの慰めになるかどうかももわからないけど、手はそのまま膝の
上に置かれている。

 ふと、胸ポケットに入れた携帯が震えた。
 信号待ちで車をとめるのを待ってから、胸ポケットの携帯を取り出して通話
ボタンを押す。

「はい、本宮です」

 次の瞬間耳が割れそうな音量の罵声が聞こえた。

『このドアホがッ!!』
「うわっ」

 耳にじんとくるような罵声に思わず声が上ずった。
 助手席の美絵子が驚いたように顔を上げた。

「め、芽衣?!」
「え?」

 アホってなんだよ、お前。
 いや、ええと、アホなことやらかしてるのは認めるが。

『そういうことは相談してからやれッ! いや、言っても無駄か。どうせ行き
当たりばったりなんだろうし』
「うっ……」

 返す言葉も無い。
 いや、まあ、行き当たりばったりの考え無しなのは、ええと。

「悪かったな!でもっ!……俺は……あきらめてねえんだよっ」

 少しの沈黙の後、小さなため息の音が聞こえた。

『ま、決断したのは立派ね。でも、一言くらい相談とか、断りがあってもいい
もんでしょ』

 相談とか断りとか、考えなくも無かったけれど。

『あたしはなにがあっても、アンタや美絵子の味方なんだからね』
「…………ああ」

 芽衣の言葉がちょっと響いた。
 こいつのこういうところも、高校の時から変わってねえよな。

「……ありがとな、芽衣」

 電話の向こうからちょっと照れた声で芽衣が言葉を続ける。

『よしてよ。で、これからどうするつもり?』

 助手席で涙目のまま、黙ってこっちを見る美絵子を横目でちらりと見た。
 膝に乗った手が暖かい。

「……ともかく、美絵子の奴落ち着けさせる……あとは」

 信号が変わって、車をスタートさせる。
 美絵子が一瞬前方に気を取られた隙に、小さくつぶやいた。

「……あとは、俺からあいつをつかまえる」

『上等。言ったからにはちゃんとやりなさいよ』
「おう!そんだけだ!切るぞ!」

 こっちを見た美絵子をごまかすように大声を出す。

「じゃあな!」

 携帯を切って、胸ポケットにしまおうとして。
 ああ、会場に芽衣以外に俺の番号知ってる奴……いそうだよな。とりあえず、
吹利出て落ち着くまでは電話出るのは避けた方がいい。後部座席に携帯を放り
投げて、両手でハンドルを握る。

「ねえ」
「なに?」

 少し涙で鼻にかかった、普段からは考えられないくらい、か細くて小さな声
で美絵子がつぶやく。

「……どこ、いく気なの?」
「とりあえず吹利でて、そっから考える」
「考え無し」
「悪かったな」
「今頃、大騒ぎよ」
「……ああ」

 ちょっと片手を離して、膝の上の手に自分の手を重ねる。

「こんなとこいたくない、って言ったろ」
「……うん」
「考えてないのは、そう、だけど。ただ」
「……ただ?」
「へたり込んでるお前見てたら……体が勝手に動いてた」
「……」
「こないだ、俺言ったろ?」
「え?」
「……取り返したい、って」

 重ねた手を、握る。

「俺はあきらめてねえよ」


佐緒里 〜可愛げないわね
------------------------

 言うだけ言って電話を切った芽衣を見つめる。
 なんだかねえ、もう。その顔、バレバレよ。

「芽衣、あなた。それでいいワケ?」

 あたしにはちょっと理解できかねるな。
 あたしだってさ、別に美絵子のことが嫌いなわけでもないし、張り合ったこ
とはあったけどそれなりに大事な友人だとは思ってるわよ。
 ただ短絡的に友情より愛だとか言う気ないけど、そういう気持ちってのは自
分じゃどうにもならないじゃない。

「……ほんと、それでいいの?」
「言ったでしょ、理想的な展開だって」
「そう。なら、いいんだけど、ね」

 その割には、煙草に火をつけてふかしてる姿、随分と辛そうに見えるけど?
 ま、言わないでおいてあげるけどね。

「ヤケ酒くらいなら、いつでも付き合うわよ、昔のよしみもあるしね」
「同じ男にフラれた女同士で? よしてよ、辛気臭い」
「可愛げないわよね、あんた」

 ヘコんでる時くらいちょっとは素直になってみたら?

「そんなもんなくったって死にゃしないっての」

 軽そうにケラケラと笑う姿が、ちょっとせつなげで。
 まったく、見てる方が痛々しいわよ。

 腕組みをして、柱の影からまだ騒いでいる会場を見る。
 芽衣のやつは理想的だの何だの言ってるけど。
 もう、どうなっちゃうのかしらね、一体。


時系列 
------------
 2005年3月26日
解説
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 結婚式当日。花嫁・美絵子を連れ去った幸久は。
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以上 





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