[KATARIBE 28595] [HA06N] 小説『犬猫狼』

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Date: Thu, 31 Mar 2005 12:45:30 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28595] [HA06N] 小説『犬猫狼』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年03月31日:12時45分30秒
Sub:[HA06N]小説『犬猫狼』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
姪っ子とのキーボード争奪戦に勝利後、ふと思いついた話。
久志さんの『犬にたとえると』の続き、の風景でしょうか。
先輩後輩、お借りしてます。
台詞等、問題ありましたら、宜しくです>久志さん

**********************************:
小説『犬猫狼』
=============
 登場人物
    本宮史久(もとみや・ふみひさ) 
     :吹利県警刑事課巡査。本宮家長男、屈強なのほほんお兄さん。 
    相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。おネエちゃんマスター。 
    軽部真帆(かるべ・まほ) 
       :自称小市民。毒舌家。

    
本文
----

「あーなるほど」
 声を適度に抑えてはいるものの、遠慮会釈の無い笑い声。
「本宮さんがピレネー犬って、ぴったりじゃないですか」
「……そうでしょうかね」
 居酒屋のテーブルを一つ占領して、遠慮なく笑う一名と、多少憮然として呟
く一名。そしてそれを笑いながら見ているのが一名。
「そういえば以前かす……友人が言ってたんですけど、野良で真っ白な大型の
犬が居るらしいんです、ここら辺。そりゃもう温厚な」
「……それがピレネー犬ですか?」
「いや、それは分からないけど、でも本宮さんに似てるったら似てるかも」
 とんとん、と、グラスのふちを突付きながら、彼女は言葉を継ぐ。
「友人、一度は枕にしたっていいますから」
「枕?」
「眠いからちょっと枕になってねーと五分。吼えもせずじーっとしててくれた
そうで」
「それが、似てますか?」
「うん」
 ごくごくかろく答えられて、一名が絶句する。
「で、枕にしたってのが……お前さんの友人?」
「悪友ですね。それはもう」
 同類じゃないか……と多分、突っ込みたかったのは一人ではなかったろうが。
 真帆のほうはけろんとしてグラスを傾ける。
 
「にしても、豆柴君ねえ……ああ残念だな」
「何がです」
「以前、豆柴のぬいぐるみが家にあったんですよね。人にあげちゃったけど」
「真帆さんが作ったんですか?」
「得意技でして……そいえばまだ布があるかな?」
「……作ってやろうとか言わないで下さいよ」
「かなり思いましたけど?」
 湯飲みを前に置いた一名が、くつくつと笑い出す。
「あ、いや、まさか弟さんにプレゼントはしませんよ?」
「じゃ、誰に?」
「そらーお父さんに」
「……お父さんは止めて下さい」
 くすくすと、笑いながら真帆がグラスを口元に運ぶ。
「でも、そーすると相羽さんは……犬じゃないですね」
「あれ?」
『お供え』のお菓子……今日は桜色の和菓子……をつまむ手を止めて、相手は
多少不本意そうに応じた。
「警察官はお国の犬なんだけどね」
「…………にあわねー」
 遠慮会釈一切無しの感想である。
「ひどいねえ、俺、職務に忠実だよ?」 
「それはそうでしょうけど」
 手の中でグラスを揺らしながら、妙に生真面目に真帆は続ける。
「相羽さんを飼える人が居るとは思えない」
 くす、と、笑う気配があった。

「どっちかってえと、狼、かなあ。犬科の動物なら」
「……成程」
 納得、と、頷いた後輩のほうを先輩が見やる。一切構わず、真帆はグラスを
下に置いた。ひとつ、ふたつ、と、指を折りながら勘定してゆく。
「人に飼われないし、群れの秩序にはそれなり忠実だし、攻撃力はありそうだ
し」
「その知識の出典何」
「シートン動物記の、狼王ロボとクルトー大王」
 速攻で返った答えに、相手は一つ溜息をつく。
「でも、両方とも人間が捕らえようとしてもとても捕らえられない、ついでに
仲間もきっちり守ろうとしてますからね」
「……なるほどね」
 納得したのかかなり微妙な返事をあっさり聞き流して、真帆は折った指を眺
めたが、
「……あ……でも、ちょっと違うか」
 と、折った指を、ぱっと開いてみせた。
「何がです?」
「ロボって、ブランカが捕らえられたら、あっさり人間に捕まってますもん」

 ちょっと沈黙。
 そして数秒後、後輩のほうが先にくすくすと笑い出した。

「確かシートン動物記で読んだと思うんだけど、狼の雄って、基本として一生
一匹の雌としかつがいにならないらしいですからね」
 さらりと言いたいことを言って、グラスに手をやる。生真面目な顔の中、目
だけが悪戯小僧のようにくるくると動く。
「そういうお前さんは何」
「野良猫」
 即答である。
「ピレネー犬さんと豆柴さんと狼さんが街の見回りしている間に、屋根に登っ
てぐうぐう寝てる野良猫ですよ」
「太平楽に?」
「そりゃあもう」

 何時の間にやら、グラスは空になっている。
 真帆は肩を揺らして笑い……ふと、その笑いを収めた。

「あれは……理想ですからね」

 妙に生真面目に呟いて。
 そのまますいません、と、店員を呼び止めて。

「そんでも本宮さんの弟さん、お会いしてみたいなあ」
 さらり、と、真帆は話を変えた。


時系列
------
2005年3月

解説
----
五月晴れの屋根の上でぐうぐう眠っている野良のぶちゃ猫くらい
生きているってすばらしいな存在はないんじゃないかと、私見。
呑み仲間三名の、風景です。

***************************************

一応念のために。
枕にしてたのは花澄です。

しかし、久しぶりに三人称で書いてみましたけど。
……先輩と史兄を、どやって地の文で呼べばいいのか(ぐたり)
まだ、史兄は『史久』でいいのかもしれないけど。
相羽先輩の三人称用の呼称が(^^;;;

ではではまた。




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