[KATARIBE 28590] [HA06N] 小説『犬にたとえると』

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Date: Wed, 30 Mar 2005 00:54:42 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28590] [HA06N] 小説『犬にたとえると』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年03月30日:00時54分42秒
Sub:[HA06N]小説『犬にたとえると』:
From:久志


 久志です。

 史久県警勤務中での一こま。
県警女子職員曰く、史兄はリアル白雲くんらしいです。

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小説『犬にたとえると』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮史久(もとみや・ふみひさ)
     :吹利県警刑事課巡査。本宮家長男、屈強なのほほんお兄さん。
 総務のお姉ちゃん
     :噂話大好きさん、女子職員の情報伝播力は半端じゃない。
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。おネエちゃんマスター。

お茶いかがですか
----------------

 時間は今三時半過ぎ。
 とんとんと、報告書を机の上でたたいて端を揃える。
 このところ、目立った事件もなく余裕のある日が続いている。

 さてと、書類作業もひと段落したことだし。

「みなさん、お茶でもいかがですか?」
「ああ、濃い目のやつ頼むわ」
「こっちも頼む」
「悪い、俺も」
「本宮、こっちも頼むな」
「ついでになんか甘いもんとか持ってきてくんない」

 わらわらと上がった手を数えて、給湯室へ向かう。
 ひとつひとつ濯いだ湯呑みを拭いて並べていると、背後から声をかけられた。

「史久さん。お茶ですか?」

 ああ、総務課のお姉さん、そちらもお茶の準備でしょうか?ちょっとだけ
待ってくださいね。

「いいですよ、私さっきお茶いただきましたから♪」
「そうですか」

 あ、そういえば。先輩甘いもの持ってきてって言ってたなあ。

「すいません、何かお菓子とかありませんか?」
「あ、相羽さんのおやつですか?」

 そこで嬉しそうに顔を赤らめて……って、騙されちゃいけませんよ、あの人
は悪党です。って先輩の実態知っててもこうなるってのがあの人の恐ろしいと
こだよなあ、ホント。

「じゃあ丁度いいものありますよ、えっと冷蔵庫にまだあるはずです」
「なんですか?」

 給湯室のすぐ脇においてある小型冷蔵庫のドアをあけると、ラップのかかっ
た紙皿をひとつ取り出した。オレンジ色のスポンジにパインとチェリーで飾ら
れたケーキがひとつ。

「これフルーツケーキです、きっと相羽さん喜ぶと思いますよ」
「おいしそうですね、江原さんが作られたんですか?」
「いえ、違いますよ」

 なぜかお姉さんが僕の顔を見てくすくす笑う。

「あの、どうしました?」
「実は、これ作ったの弟さんですよ」
「え?」

 和久が?
 なんでまた一体。

「なんだか弟さん、最近お菓子作りの修行しているらしくって、生活安全課の
人や総務課の人たちに試作品のお菓子を差し入れしてくれるんですよ」
「……あいつが、お菓子作り?」

 そういえば。
 あーあー思い当たる節あった。
 いつだったか前野さんと会ったときに、和久が同居人の女の子の友達が遊び
に来たときの為におやつの作り方を教わってると聞かされた気がする。
 なんというか、まあ。わかりやすいというか、単純というか。でもそういう
真っ直ぐで不器用なとこがあいつのいいところなんだとは思うけど。

「うふふ、なんか生真面目さんで可愛いですよね、弟さん」
「……はあ、ありがとうございます」

 ……可愛いって、なあ。
 それは男に対する誉め言葉として肯定していいものか。

「最近、女子職員の間でも人気なんですよ♪」
「それはそれは」

 どういう人気かは……推して量るべし。考えないでおいてあげよう。

「お菓子職人の豆柴くんって呼ばれてます」
「へ?」

 豆柴?
 って、あの小さい柴犬の?なんでまだ。

「知ってますか?このところ、女子職員の間で『犬にたとえるとシリーズ』が
流行ってるんですよ」
「犬にたとえるとシリーズ……ですか?」

 なんだそりゃ。

「たとえば史久さんだと、大柄で優しくて力持ちで穏やかだけど、いざという
時には狼とも勇敢に戦うピレネー犬かな、みたいな」
「……はあ」

 ピレネー犬、名犬ジョリー?
 って僕も古いなあ。というか、うーん、そう言われると……

「それで和久くんは、犬にたとえると柴犬かなって」
「……柴犬」
「なんか素朴で忠実なとこ、それっぽくないですか?」
「……言われてみますと」

 えーと、ああ、うん。なんとなく言われてみると結構しっくりくるかも。
 うん、素朴で忠実で従順なとことか、勇敢なとこもあるし。それに、あいつ
性格が元々犬っぽいし。
 というか、僕がピレネー犬で和久が柴犬となると、さしずめ幸久はやんちゃ
で甘えたがりの黒ラブってところかな。って、僕までのってる場合じゃない。

「だから最初、みんなでこっそり柴犬くんて呼んでたんですけど。なんかこう
真面目であちこち走り回ってる姿がなんだか子犬みたいで、いつの間にか豆芝
くんて呼ばれるようになったんですよ♪」
「……そ、そう、ですか」
「なんか可愛いじゃないですか、生真面目で一生懸命で純情なとこ」

 可愛い豆芝くん。
 和久、お前聞いたらへこむだろうなあ……

「じゃ、これどうぞ。丁度余ってたし、相羽さんにもよろしく♪」
「はい、すいません」

 なんだかなあ、もう。

 しかし、妙なたとえごっこするもんだね。
 そーだなあ、奈々さんなんかは、黒い大きな目にふわふわ柔らかい毛のトイ
プードルあたりがいいかな、そこはかとなく上品ぽくて愛らしいとことか雰囲
気にあってそうだし。相羽先輩は警戒をゆるめなくて他人になつかないドーベ
ルマンあたりかな、でも、女たらしなとこはどうだろう。
 って、僕まで犬にたとえるとシリーズにはまってどうする。

 お盆にお茶とフルーツケーキをのせて席に戻る。

「お待たせしました」
「おう、わるいな本宮」
「サンキュ」
「いよう、なんか甘いもんあった?」
「そんなに急かさなくてもちゃんと持ってきましたよ」

 相羽先輩の席にフルーツケーキとフォークをのせたお皿を置く。

「お、どうしたんだ、これ?」
「総務課の江原さんから先輩に差し入れだそうですよ」
「お、エッちゃんから?嬉しいねえ、エッちゃんお手製?」
「……ええと、差し入れでもらったものらしいです」
「ほう」

 うーん、いやまあ正直に言ってもいいんだけど、また人のことおちょくって
遊びそうな気がするんだよなあ。

「んじゃま、豆柴くんの手作りケーキを味わうとしますかね」
「…………先輩」

 ……知ってるんじゃないですか。しかもあだ名まで。

「俺の情報網、なめないでくれる?」
「……知っててなんで聞きますか」
「まあいいじゃん、ね?可愛い豆柴くんのお兄さんよお」

 楽しそうですね、先輩。
 この人……ほんっと底意地悪い。


時系列 
------ 
 2005年3月
解説 
---- 
 県警給湯室にて『犬にたとえるとシリーズ』の話を聞く史久。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。




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