[KATARIBE 28582] [HA06N] 小説『結婚騒動 一章〜式当日』

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Date: Mon, 28 Mar 2005 00:20:01 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28582] [HA06N] 小説『結婚騒動 一章〜式当日』
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2005年03月28日:00時20分00秒
Sub:[HA06N]小説『結婚騒動 一章〜式当日』:
From:久志


 久志です。

 結婚騒動、やっと式当日編です(もうリアル時間過ぎてますよ!)
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小説『結婚騒動 一章』
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登場キャラクター 
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 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ) 
     :葬儀屋さんで霊感のある軟派にーちゃん。 
     :今更自分の気持ちに気づいた鈍い奴。
 藤村美絵子(ふじむら・みえこ) 
     :幸久の元カノ。ちょっと気が強いけどいいお姉さん。 
     :微かに心を残しつつも、今日は結婚式当日。
 蓮池芽衣(はすいけ・めい) 
     :美絵子とは中学時代からの親友、幸久とも仲が良い。 
     :幸久に想いをよせていたらしいが…… 
 仲本佐緒里(なかもと・さおり) 
     :その昔、幸久を狙ってたらしい人。現在は関係ないらしい。 
     :何だかんだいって美絵子や幸久とは今では友人らしい。

幸久 〜意気込み
----------------

 結婚式当日。
 三月末にしては多少冷え込んではいるけど、空は奇麗に晴れてやがる。

 一昨日、奴の裏切りの証拠を押さえてから。
 奴が女の家に通う写真と、周辺の目撃情報集めで一日費やした。どうやら奴
が女のところに通い始めたのはここ数ヶ月でのことらしい。
 思い返せば、いつだったか美絵子がこぼしたことがあった。

『あの人仕事が忙しくて。式の打ち合わせにもなかなか来れないのよ』

 ふざけやがって、何が仕事だ。あの野郎、許さねえからな。
 今まで集めた証拠鼻っ面に叩きつけて美絵子のやつぶん取ってやる。

 近鉄吹利沿線の駅で下車して、歩いて五分のところにある茶褐色のビル。
 パレス吹利、ここらでもそこそこ昔からある結婚式場らしい。入り口に立て
られた看板には北原家、藤村家とでかでかと書かれてる。

 一応礼服──っても普段から着慣れた黒服だけど──を着込んで、列席者の
フリをして何食わぬ顔してロビーで辺りを見回す。
 他にも列席者らしい連中が数名ほど来てるらしいが、挙式までにはまだ時間
があるせいか、まだまばらだ。それにしても結構規模がデカイ式らしく一組だ
けで式場丸々貸しきっているらしい。
 式の開始は十二時半、まだ一時間半ちかく余裕がある。

 美絵子。
 お前、もう支度してんのかな?
 ウェディングドレス着て……楽しみに、待ってんのかな?

 胸ポケットにおさめた封筒の中には、この二日間でかき集めた証拠。

 奴の裏切り、知ったら。
 お前、泣くよな。

 でも。
 あんなろくでもない二股男なんざに、絶対お前は渡さない。

 手持ち無沙汰なまま、ロビーで煙草に一本火をつける。ゆっくりと煙を吐き
出しながら、ふと、夕べかかってきた電話を思い出した。
 かき集めた写真と資料をまとめてた時、かかってきた非通知の電話。

『はい、本宮です』
『…………』
『もしもし?』
『……美絵子?』 
『…………』
『美絵子だろ?もしもし?』 

 それきり、切れた電話。
 本当に美絵子だったのかはわからないけど、ただ直感で美絵子だと思った。

 美絵子。
 俺は、まだあきらめてねえからな。

 今度は、俺が追いかけてやる。
 見てろよ。


美絵子 〜純白のベール
----------------------

 鏡の向こうに映った顔。
 念入りに下地を塗って、おしろいをはたいて、きっちりアイラインを引いて。
なんか顔の皮一枚増えてそうよね、ここまでくると。
 首の後ろから背中、鎖骨から腕にまでかけて薄くおしろいが塗られて、なん
かくすぐったい。

 あの人はもう準備してるのかな?
 結局夕べはあの人は電話をくれなかった、結婚前夜だっていうのにね。遅く
たって、せめて一言ぐらい連絡を入れて欲しかったのに。

 肩より少し短めの髪が、ひと筋ひと筋丁寧にまとめてアップにしてピンで留
められていく。はあ、もう、花嫁ってあれこれ準備が多くて大変よ。

 男の人はいいわよね、準備短くて。
 そういえば、どっかの営業慣れした奴も、身だしなみは職業柄割とちゃんと
してたけど、身支度はえらく早かったわよね。
 ううん、そうじゃなくて。
 なんで式当日にあいつのこと思い出してるわけ。

「はい、こちら終わりました。ドレスの着付けですよ」
「あ、はい」

 鏡の前、窮屈なコルセット巻いて真っ白なドレスに腕を通す。
 最初にドレス選びに来た頃は、うちの母親も向こうの母親もレースのひらひ
らしていたり、一面ビーズのちりばめた派手なドレスばかり着せたがってたけ
ど、ここは自分のわがままを通して割とシンプルですっきりしたドレスを選ば
せてもらった。両家の母親的にはかなり地味に見えるらしいけど、あたしは派
手派手しいのより、さっぱりした方が着ていて落ち着くし、そんなに悪くない
と思う。
 絹の白手袋にネックレス、それと長い純白のベール。
 こうやってひとつひとつ身につけてくと、だんだん心が軽くなってく。
 そう考えると、あたしもやっぱり女なんだなあ。

「本当、お奇麗ですよ」
「ありがとう」

 そりゃあ、式場の係の人なんだから、似合わないなんていうはずないんだけ
どさ。やっぱりそう言われるのは嬉しい。

「お支度終わりました。ロビーへどうぞ」
「はい」
「こちらをどうぞ」

 衣装室を出る間際に渡された、白い百合の花を束ねたブーケ。
 顔を寄せると、ふわりとやわらかい百合の香りがする。

「あらあ!綺麗よ、美絵子ちゃん」
「お姉ちゃん、写真とるからこっち来て!お父さんも一緒に撮るから」
「ちょっと待ってよ里絵子、このカッコ歩きづらいんだから」

 もうすぐ、なのね。

 さよなら、だね。
 ホントに。


幸久 〜不穏な空気
------------------

 だんだん、人が増えてきたな。
 ロビーの隅にある柱の影に隠れて様子をうかがう。ちらほらだけど高校大学
時代の知り合いの顔も出てきたんで、顔見知りに俺の存在がばれるとまずい。
 当然だけど芽衣の奴もいるな、それに仲本も。あいつらに俺がいるのがバレ
るとちょっと厄介だ。特に仲本にはこないだ情報集めで協力させたのもあるし、
奴に引導渡す前につかまったりしたら面倒だ。

 しかし、結構な人数だよな。
 白いタイル張りのロビーはかなり広いんだが、それを埋め尽くさんばかりの
人数が集まりつつある。双方の会社関連らしいおっさん連中やら、親族関連ら
しい家族らしい集まり、俺も多少顔見知りがいる美絵子側の高校大学の友人に
奴の知り合いと思しき野郎の連中、軽く見積もっても百人以上。式まではまだ
もう少し時間があるからもっと増えんのか、これ。

 時計を確認する。
 それにしても、新郎はまだかよ。とっくに準備も終わってんじゃねえのか?

 ふと親族連中と思しき集団から歓声が上がる。
 支度を終えて出てきたらしい、その姿は。

「……美絵子」

 淡い桃色のドレスを着た若い女──たしか妹だったよな──に手を引かれて
出てきたのは、純白のドレスに長いベールをかぶった、美絵子。

 なんかウエディングドレスっていうとえらく派手派手しいイメージあるけど、
あいつが着てるのは、派手なレースやごてごてした飾りもないシンプルですっ
きりした白いドレス。
 すごく、よく似合ってる。

 なんか、ええと。
 奇麗、だな。

 本当。
 奇麗だよな。

 って、浸ってる場合じゃねえよ。
 肝心の奴はどこだよ、くそ。
 柱の影からロビーを見回しても、それらしき姿はない。

 ふと。
 脳裏に不穏な考えがよぎった。
 なあ、準備に時間か掛かってるにしろなんにしろ、新郎の奴遅すぎねえか?

 その時。
 親族側の連中のもとへ、式場の係っぽい奴らが慌てふためいて駆け寄ってく
るのが見えた。なにやらあっちの真面目な顔で話してる。連中が不安げに視線
を交わしあい始める。

 不穏な予感が、真実味を帯びてくる。
 あの野郎、まさか。

 まさか、ばっくれやがったのか!?


美絵子 〜花嫁、一人
--------------------

 妹に手を引かれるままロビーに出て。
 うわ、なんかすごい人が一杯。

「おお、美絵子!」
「きゃー美絵子きれ〜♪」
「ほらほら、お姉ちゃん写真」
「奇麗だよ、美絵子」
「なによ、似合ってるじゃない。美絵子」
「芽衣!佐緒里も」

 集まってくる両親に友人達、口々にあたしを褒めながら携帯カメラやデジカ
メをこっちに向ける。

「ほら、お姉ちゃんこっち」
「あ、あたしも撮るっ」

 次々とたかれるフラッシュの中、周囲を見回す。
 あの人は、もう準備終わったのかな?

「ねえ、一也さんは?」
「いないね、まだ準備終わってないのかな?一緒の写真撮りたいのに」

 どうしたのかな、一也さん。
 やっぱり昨日も帰りが遅かったらしくて連絡もなかったし。

「まったく一也ったら、先に出るって言っておいてまだ支度してるのかしら」
「お義母さん、一緒に出られたんじゃないんですか?」
「ええ、式場の人と話があるからって、私達よりずっと早くに出たのに」
「そう、ですか」
「そうだな。一也の奴、朝も早くから起きだしてすぐさま出かけていったはず
なのだが、何をやってるんだ」

 式場の人と話?でも、もう当日なのに。
 あの人、ほとんど式の打ち合わせにも顔を出してないのに、なんの話があっ
たのかな。それに朝からって、そんなに遠いわけでもないのに、どうして?

 お義父さんお義母さんと話をしている間、式場の職員と思われる人がこちら
にばたばたと駆け寄ってきた、息を切らせつつ口を開く。

「すいません、わたくし衣装室の者ですが。新郎の北原一也様はまだいらして
ないんですか?ご予定の時間より遅れているので気になって……連絡先の携帯
に何度もご連絡を差し上げたのですが、お出にならなくて……」

 え?

「ど、どういうことだ?!」
「そんな、とっくに家を出たはずですよ!まだついてないんですか?」

 お義父さんお義母さんが顔を見合わせて青ざめる。

「え、ちょっと……連絡とれないの?」
「一也くんがきてないって……一体、なにが?」
「み、美絵子ちゃん……」

 ねえ。
 一也さん。

 どうして?
 どういうこと?

「確かに、家を出ましたよ!それなのに……ちゃんと見たんです!」
「どうしたのかしら、一也さん……」
「まさか、事故にでも?」
「でも、どうして?」

 あちこちで飛び交う疑問符。

「さっきからかけてるのに……携帯がつながらない」
「ねえ、会社用の携帯でもだめ?」
「だめだ、どっちも圏外だ」
「電源を切ってるのか?それとも……なにか?」
「誰か本当に行方を知らないのか!?」

 するり、と。
 何かが抜けていくような。

 どうして?
 どうして、あの人、こないの?

 どうして?
 何かあったの?

「美絵子ちゃん!」
「お姉ちゃん!」

 一瞬、崩れ落ちそうになったのをお母さんと妹に両脇を支えられて。
 こちらの空気に気づいた列席者が遠巻きに集まってきた。

「北原くんがまだ来てない?」
「そんな、どうして?」
「まさか、なにか事故か、なにか……」
「誰か!連絡を取れる奴いないのか!?」

 足に力が入らない。
 ねえ、どういうことなの?

「一也は疲れていたのかしら?昨日だってお仕事で遅かったから……」
「え?……昨日は、北原さんは定時で帰られたはず……ですが……」

 え?

「そんな?!」
「どういうことだ!」
「ま、間違いないです。北原主任、式が明日だからって定時でお帰りになった
はず……です」
「どうして!?そんなこと!昨日だって帰ったのは十一時を過ぎてたのに」
「い、いえ、そんな。でも、このところ式の準備があるからって、北原さんは
いつも早上がりでしたよ」
「……そんな!一也の奴、毎日残業で遅かったはずじゃあ?!」

 嘘、なの?

「美絵子ちゃん……しっかりして」
「お姉ちゃん……」

 手を握り締めてくるお母さんと妹。
 わきあがってくる不安と……ああ、考えたくない。

 残業、してなかったの?
 あの人、嘘、ついてたの?
 なんで?

 考えたくないのに……考えてしまう、理由。
 あの人、

 膝が、崩れた。

「美絵子ちゃん!」
「お姉ちゃん!」
「早く!あの男に連絡を取ってちょうだい!どういうことなの!私の……私の
美絵子を待たせて!早くあの男を引きずり出しなさい!」

 お母さんがこんなに激しい口調で怒鳴るなんて、初めてきいた。

 ああ。
 体に、力が入らない。

 ざわざわと騒ぎ出す人たちが、とても遠いところにいるような気がする。
 周りに集まった友人達が、あちらこちらで顔を見合わせながら、ちらちらと
あたしを見る、何かを言おうとして何を言えばわからないといった様子で。

 ああ。
 みじめ、だ。

 一也さん。

 あたし、バチが当たったの?
 あいつのことまだ忘れてないのに、あなたと結婚しようとしたから?

 あたし、どうすればいいの?

「美絵子、しっかりして」
「……美絵子」

 芽衣、佐緒里。
 ああ、二人ともそんな目で見ないで。

「……美絵子ちゃん」
「お姉ちゃん、しっかりして」

 思わず両手で顔をおさえたまましゃがみこむ。
 嫌だ、周りの視線が耐えられない。
 ああ、本当に。
 あたし、莫迦みたいだ。

 もう、消えたい。


「美絵子!!」
「え?」

 その時。
 しゃがみこんだあたしの前に飛び出してきた人影。

 いつもの黒服に似合わない白タイをしめた……

「幸久くん?!」
「って!ユキ!?なんでお前が!」
「美絵子、しっかりしろ!」

 周りの声にも構わず、両手でしっかりとあたしの肩をつかむ。思わずあの雪
の日のことが脳裏によぎった。

「ユキ……」
「美絵子」

 ああ、涙が出てきた。
 もう、だめだ。
 そのまま、すがりつくようにユキの胸に顔をうずめた。両肩に回った手がそ
のまましっかりとあたしの体をを抱きしめる。

「ゆ、幸久くん?」
「あの、本宮……さん?」

 困惑げな母さんと妹の声も、耳に入らない。

「泣くな、美絵子」
「……ユキ」

 だめだ、もう涙止まらない。

「もう、いやだよ……」
「しゃべらなくていい」
「消えたい……」
「しゃべらなくていいって」
「……こんなとこ、いたくない」
「……美絵子」
「え?」

 急に、体が浮いた。
 ユキが右腕であたしの体を抱き寄せたまま左腕で足をすくい上げる。
 えっと、あたし、今抱き上げられてる?

「美絵子ちゃん!」
「な、なに?ユキ、おい!」
「ちょ……幸久くん!」
「お姉ちゃん!」

 思わずユキの首に両手を回してしがみつく。

「ユキ?」

 耳元で聞こえる声。

「逃げんぞ、美絵子」
「え?ちょっと」
「こんなとこいたくねえんだろ」

 え?
 でも、本気で。

「行くぞ!」

 あたしを抱き上げたまま、走り出す。
 あまりに突然すぎる出来事に両親も妹も友人もあっけにとられて、駆け出す
ユキを眺めてる。周囲にいた列席者の人達も、何事か一瞬理解できず、止めも
せずに走り抜けるあたし達を見送っている。
 受付を出るあたりで、ようやく事情を飲み込んだ人たちが口々に騒ぎ出す。

「美絵子?……美絵子!どういうこと!」
「ちょっと!お姉ちゃんをどこへ!」
「何だあの男は!?」
「あの男!娘をどこへ!!」
「って、ユキ!お前なにやってんだ!」

 背後に飛び交う言葉も構わず、振り向きもせず、ユキが走っていく。
 首にまわした腕に力を込める。

 もう、あたしも考えるのをやめた。

時系列と舞台
------------
 2005年3月26日
解説
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 結婚式当日。式場に訪れない新郎、美絵子は?幸久はどうする?
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
以上 

 さて、やっちまったよ、ゆっきー




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