[KATARIBE 28580] [HA06N] 小説『前夜の溜息』

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Date: Sat, 26 Mar 2005 19:56:17 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28580] [HA06N] 小説『前夜の溜息』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年03月26日:19時56分16秒
Sub:[HA06N]小説『前夜の溜息』:
From:久志


 久志です。
 結婚前夜、美絵子の心情と佐緒里嬢とのやりとり。

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小説『前夜の溜息』
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登場キャラクター 
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 藤村美絵子(ふじむら・みえこ) 
     :幸久の元カノ。ちょっと気が強いけどいいお姉さん。 
     :明日に結婚式を控えていたりする。
 仲本佐緒里(なかもと・さおり) 
     :その昔、幸久を狙ってたらしい人。現在は関係ないらしい。
     :何だかんだいって美絵子や幸久とは今では友人らしい。
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ) 
     :葬儀屋さんで霊感のある軟派にーちゃん。 
     :今更自分の気持ちに気づいた鈍い奴。

因縁相手からの電話
------------------

 あの雪の日から。
 あいつとは一度も会わなかった。たぶんこれからも、もうあいつと会うこと
はもうないのよね、きっと。

 もう、明日なのよね。
 部屋の隅、ちょこんと置かれたバッグが見える。
 入れ忘れたものはないわよね、うん。装飾品や小道具とかは全部式場に置い
てあるし、こっちから持参するものは全部入れたし。でも、念のためもっかい
確認しとこうかな。でもいいか、さっきから三回は点検したんだし。

 夜九時前、寝るにはまだちょっと早い時間だけど。なんだか今日は全然寝付
けそうにないなあ。
 ベッドに座ったまま携帯電話を眺める、着信履歴はなし。
 あの人、今日も遅いのかしらね。
 明日が式だっていうのに、あいかわらず仕事なのかしら。昨日もおとといも
仕事で帰りが遅かったらしくて、全然連絡をくれなかったし。

 思わずため息が出る。
 ねえ、あなた。本当にあたしと結婚したいんですか?
 あたしが言えたことじゃあ、ないんだろうけど。

 その時、ベッドの脇にある固定電話の子機が鳴った。

「なに?お母さん」
『美絵子ちゃん、お友達からお電話よ』
「え?うん、わかった」

 お友達?
 って、あいつのわけないわよね。そもあいつだったらお母さん知ってるし。
 首をかしげながら保留を解除する。

「もしもし、お電話変わりました美絵子です」
『こんばんは、仲本です』
「は?」

 一瞬、子機を取り落とすかと思ったわよ。

「佐緒里?!突然何よ」
『何よとは随分な言われようじゃない』

 仲本佐緒里。
 ええと、その昔に散々火花散らして……って、そんなのいいわよ。

「だって、あんた。なんでこんな突然に電話よこすのよ」
『別にお祝いの一言ぐらい電話するけど?相変わらず可愛げないのね』

 あいっかわらず、ヤなやつね、この女。
 男相手と女相手で態度がころっと変わるんだから、もう。

「なんですって。でもあんた、そも式に招待してるじゃない」
『まあ、そうだけど。電話しちゃ悪いの?』
「そんなことないけど……ごめん、なんか突然でびっくりしただけ」
『最初っから、そういう風に普通に話してればいいと思うんだけど』
「あんたケンカ売ってる?」
『いえ、別に』

 ちょっと下手にでたらすぐこれよ、まったく。

「……何か用?」
『なんとなくかけてみただけよ』
「あっそ」
『ねえ』
「なに?」
『幸久くん、どうしてる?』

 って、あんた何よ。あたしにそれを聞く?普通。
 そりゃあ昔はあいつを巡ってあんたと火花散らしてたけど、今はあたしは他
に婚約者がいて、もう明日に式控えてるんですけど?
 なんなのよ、あんた。

「あんた、それ嫌味?」
『別に、最近ちょっと気になっただけよ』
「もう関係ないわよ!あいつは」
『ふうん』
「あんた、さっきから何言いたいのよ」
『なんでもないけど、ちょっと聞いてみたかっただけ』
「何よそれ」
『ああ、あと』
「何よ」
『おめでとうって、言っとくよ。一応』

 可愛くないわね、この女。

「ありがとうって、言っとくわ。一応」
『それだけよ、じゃあ明日ね』
「うん、じゃあね」

 言い終わると同時に電話が切れた。
 なんなのよ、一体。

 でも、なんだろう。ちょっと昔懐かしいような、心が軽くなるような感じ。
 あの頃、あいつを巡ってあの女と火花散らしてやりあってた時みたいに。

 ベッドに転がる。
 もう、なんなのよ、一体。

最後に一声
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 時計の針は十時半を回ってる。
 もうとっくに食事も済ませてお風呂入ってパジャマに着替えて、後は寝るだ
けでいいはずなのに。
 枕を抱えて横になる、ベッドの脇にある電話子機が視界に入った。
 ああ、もう。あの女の妙な電話のせいで寝れないじゃない。

『幸久くん、どうしてる?』

 知らないわよ。
 最後に会ってから二週間近く連絡もしてないし、これからもする気ないし。
 もう、会おうとも思わないし。
 もう、あいつは何の関係もないわよ。

『お前が好きだ。だから……取り返したい』

 今更なんなのよ。
 どうしようもないのよ。
 散々あたしにばかり追いかけさせておいて、今更何よ。

『……後悔、したくないから』

 後悔。
 したくないわよ、あたしだって。

 横になったまま、ベッドの脇にある電話をじっと見つめる。ゆっくりと手を
伸ばして子機を手に取った。

 なに莫迦なことやってるかな、あたし。
 ぽつぽつとボタンを押す、番号は指先が覚えてる。そのくせちゃんと非通知
にする知恵は回るのね。

『はい、本宮です』

 普段の口調とはさっぱり違う、きちんとした丁寧な声。
 いつも思うけど、営業用の外面だけはいいわよね、あんた。

『もしもし?』

 なにやってるんだろ、あたし。

『……美絵子?』

 なんで、わかるのよ。
 なんで……

『美絵子だろ?もしもし?』

 黙って、電話を切った。

 ユキ。
 もう、ホントにさよならだね。
 あんたのこと散々莫迦呼ばわりしてたけど、一番の莫迦はあたしだね。

 さよなら。

時系列と舞台
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 2005年3月25日
解説
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 結婚式前日、元ライバルの突然の電話に動揺する美絵子。
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以上 



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