[KATARIBE 28579] [HA06N] 小説『裏取り開始』

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Date: Sat, 26 Mar 2005 16:45:29 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28579] [HA06N] 小説『裏取り開始』
To: kataribe-ml@trpg.net
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
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2005年03月26日:16時45分29秒
Sub:[HA06N]小説『裏取り開始』:
From:久志


 久志です。

 いやあ、どうなることやらゆっきー騒動。
ああ、締め切りが……

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『裏取り開始』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ) 
     :葬儀屋さんで霊感のある軟派にーちゃん。 
     :今更自分の気持ちに気づいた鈍い奴。
 仲本佐緒里(なかもと・さおり) 
     :その昔、幸久を狙ってたらしい人。現在は関係ないらしい。
     :何だかんだいって美絵子や幸久とは今では友人らしい。

検索中
------

 あの後。いてもたってもいられず、不思議そうな後輩をなんとかごまかして、
一足先に吹利へと向かった。電車に揺られる道すがら、思いつく限りの知り合
いを思い浮かべながら。怪しまれずにそれとなく婚約者の奴の情報を引き出せ
そうな相手がいないか考える。
 美絵子の奴と高校からずっと知り合いで、俺とも面識があって、婚約者の情
報を知ってそうな奴が、たしか……
 思いつくと同時に胸ポケットの携帯を手繰ってアドレス帳から番号を捜す。

『はい?』
「もしもし仲本か」

 仲本佐緒里、高校の頃の元クラスメイトで。昔こう、ちょっと。いや、んな
こといいんだよ。とにかく話だ、話。

『え?その声、幸久くん?』
「ああ、俺、本宮。悪いな突然」
『どうしたの、急に?』

 こいつは美絵や芽衣と同じく高校時代からの共通の知り合いで、なおかつ例
の婚約者の男と同じ京大へ進学して、学生時代の奴と顔見知りだったらしいと
いうのを前に美絵子から聞いたことがある。

「頼む仲本。ちょっとお前に聞きたいことあるんだ」
『……聞きたいこと?』

 ちょっと困惑した声に躊躇する、が。

「お願いだ、美絵子の婚約者の事教えてくれ。頼む!」

 電話の向こうの相手に見えるわけもないのに、思わず携帯片手に頭を下げて
いた。挙動不審な俺の様子に車内のあちこちから視線が飛んでくるが、そんな
もん気にもならなかった。
 俺の勢いに押されたのか、戸惑いがちに仲本が口を開く。

『えっと、いい、けど。どうしたの?』
「その、ちょっと気になることあって……頼む!教えてくれ!」
『……うん』

 ひょっとしたら、俺の遠目での見間違いかもしれない、けど。俺の勘違いの
早合点かもしれない、けど。
 あいつが幸せになるなら、まだ引き下がれる。
 けど、もしあの時見たのが、本当に婚約者の奴だったとしたら。

 胃の腑のあたりがかあっと焼ける。
 野郎、てめえ。
 絶対許さねえ。

行動開始
--------

 あの光景を見た翌日、式まであと二日。
 後輩に頼み込んで社長に平謝りしつつ、なんとか休暇をとらせてもらった。
 昨日の電話の後、仲本に会ってなんとか拝み倒して奴の情報をあれこれ教
えてもらい、整理する。とりあえず名刺から奴の職場と部署。卒業アルバム
から実家の住所と電話番号、携帯番号とメールアドレスもかなり渋られたが
ひたすら頼み込んでなんとか教えてもらえた。
 あとは奴の動向を押さえて物証押さえて、鼻先に証拠叩きつけて美絵子を
ぶんどってやる。

 とりあえずは探りか。
 営業用の頭に切り替えて、携帯番号がばれないように非通知で番号を叩く。
 まずは奴の自宅。

『はいもしもし、北原です』
「こんにちは、私一也さんの大学時代の後輩の山本と申します。このたびは
ご結婚おめでとうございます」

 電話に出たのは年配の女性の声、おそらく母親か。しかしこういうとき営業
慣れしてるってのは得だよな。

『あらあら、わざわざお電話ありがとうございます』
「すみません、ご自宅にかけてしまいまして。一也さん、最近お忙しいらしく
て中々連絡がとれなくて」

 なんとか、会話のとっかかりつかまないと。

『ええ、そうなんですよ。もう式も間近だっていうのにこのところ毎日残業で、
せっかくお祝いをしてくれてるのに、本当ごめんなさいね』

 毎日残業の割には、昨日随分早い時間に悠長に女と会ってたじゃねえかよ。

「一也さん。夕べは遅かったんでしょうか?」
『ええ、もう帰りなんか十二時を回っていて』
「では、一也さんは本日もお仕事で?」
『ええ、今日も帰りは遅いと言ってましたから。何か伝言があったら伝えてお
きましょうか?』
「それにはおよびません、こちらから改めて本人にご連絡します」
『そう?ごめんなさいね、せっかくお電話していただいたのに』
「いえいえ、では失礼しました」

 携帯を切ってポケットにしまう。
 吹利から京都までの移動時間を考えたって、あの時女といた時間から家に帰
るまでにんな時間がかかるわけがない。今日も帰りが遅いってことは、今日も
女と会ってる可能性があるかもしれない、よな。やっぱ会社で待ち伏せて退社
した奴の後をつけて現場をおさえるしかねえな。

 普段は着ないグレーのスーツにカラーワイシャツ、しまいっぱなしで使って
ない古い春物のコートに銀縁の伊達メガネ。向こうはこっちの顔を知らないは
ずだが、万一きづかれたとしたらヤバイ。スーツのポケットにはデジカメを忍
ばせて、手にした黒カバンの中には、昨日あれから仲本に頭を下げてかき集め
たあの男の資料。

「……美絵子」

 ちくしょう。
 あの野郎。

 絶対、渡さねえ!
 見てやがれ。


追跡
----

 時計を確認する、六時をちょっと過ぎたところ。
 京都にある結構な大手商社、立地条件も駅から歩いて遠くないうえ、よく磨
かれた白い壁でおおわれた建物もこぎれいで真新しい、儲かってそうだよな。
ちなみに奴はそこで主任なぞ勤めているらしい。
 おまけに空いた時間で調べた奴の実家の方もなかなかの資産家らしく、吹利
でも結構イイトコの部類に入る本宮本家や戸萌分家にもひけをとってない。
 うまくいってりゃ玉の輿ってやつか、くそ。

 煙草に火をつけつつ、奴が出てくるのを待つ。
 三本目の煙草を吸いきって、七時少し前。建物玄関から濃茶のスーツを着た
奴が出てきた。そのまま駅に向かって歩くところを、感づかれないよう距離を
とりながら歩き出す。
 歩く背中を見ながら、無性に腹が立ってきた。思わず目の前の奴の首根っこ
つかんで殴り倒したいのを必死でこらえながら後をつける。
 駅までの長いようで短い距離、奴は尾行してる俺に気づかず、改札を通り過
ぎて駅のホームに並んだ。適度に距離をとりつつ、ふと奴が並んでいるほうの
ホームの行き先を見てどこかひっかかった。
 こっち方面て、実家の住所と逆じゃねえか?
 落ち着け、俺。まだこれからだろ。まずは事実確認して、証拠つかんで、
それからだ。
 アナウンスと共に滑り込んできた電車に、奴が乗り込むのを確認してから俺
も入り口に足をかける。

 一つ。
 二つ。
 三つ目の駅で奴が電車から降り、しきり時計に目をやりながら足早に歩き始
めた。改札をでてすぐの場所にある売店の前で奴が足を止めて、人待ち顔でし
きりに携帯を眺めつつ、何度となく改札の向こうを眺めている。
 やっぱり待ち合わせか?
 奴から見て死角の位置に立って、デジカメを忍ばせたポケットに手を入れて、
いつでも出せるように身構えながら、もう片方の手で新聞を持って顔を隠す。

 体感時間がえらく長い。
 帰宅ラッシュの中で人の波に揉まれながら、奴は何度も携帯と改札の向こう
とを見比べながら、落ち着かない様子で売店前にたたずんでいる。
 どんくらい待ったのか。
 何本目かの電車が到着し、人の流れが改札に押し寄せた。
 改札を睨んでいた奴が顔をほころばせて小さく手を上げる。

 その先には。

 考えるより先に手が動いてた。
 デジカメを持った手が奴と、奴に駆け寄ってくる──昨日涙ながらに手を取
り合ってた──女の姿に向けてシャッターを切った。

 様子をうかがいながら、新聞紙で手を隠しつつさっき撮った写真を確認する。
幸い奴らは互いに夢中で周囲のことなど目にも入ってない。

 奴に駆け寄る女。
 手を伸ばして女を抱き寄せる奴。
 そのまま手を握り合って見つめあう奴ら。

 証拠は、押さえた。
 けど。

 式まで、あと二日。

時系列と舞台 
------------ 
 2005年3月24日
解説 
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 幸久調査開始、そこで見たものは。
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以上 



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