[KATARIBE 28576] [HA06N] 小説『出会いは雪の中で…』

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Date: Sat, 26 Mar 2005 00:25:19 +0900 (JST)
From: 夢の使者  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28576] [HA06N] 小説『出会いは雪の中で…』
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2005年03月26日:00時25分19秒
Sub: [HA06N] 小説『出会いは雪の中で…』:
From:夢の使者


初めて投稿してみました。
小説自体久しぶりに書きましたので物凄い緊張^^;
誰も何も言わないと思いますが、何か言われても動けません…。

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小説『出会いは雪の中で…』
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登場キャラクター 
---------------- 
赤菱守人(せきびし もりひと)
:欲に忠実な軟派好きな青年。昔は純粋だったらしい…
赤菱カナ(せきびし かな)
:守人に取り憑いているサキュバス。今回の語り部。意外としっかり者

回想
-----------
 出会いは雪の中だった。

 その日は吹雪で前が見えない程の大荒れになっていた。
朝は晴れていたのにどうした事だろうと殆どの人間は思っていた事だろう。
スキー客が多く訪れるこの土地ではそんなに珍しい事でもないのかも知れない
のが…。その時私はお腹が空いていてペンションの中にいる人間の物色をして
いたのを覚えている。
なるべく綺麗な魂を頂くために……。

 そんな時にある30台と思われる男女が息子が居なくなってしまったと騒いで
いた。朝には一緒にスキーを楽しんでいたらしい、午後になってから姿が見つ
からないと必死な形相で喋っていた。
私はその時興味本位でその少年を探してしまった。
思えばそれが私の人生…いや妖生の中で一番の汚点になってしまったとしか言
えない…。


現実
-----------
 「お〜い、腹減ったんだけど…まだかぁ?」
間延びした声が頭の中に響く、やれやれ…また扱き使おうとしてる。
『たまには自分で作りなさいよ』
私は目を開き、目の前に居る青年を見渡しながら言う。
「いつも作ってくれてんだから良いじゃん別にさー」
眠たげに私を見上げながら欠伸をする青年、これが私が何故か取り付いてしま
っている青年『赤菱守人』だ。
昔は純粋な少年だったのに…と考えると頭痛がしてきそう。
「ふわぁ〜あ」
欠伸をして布団にまた潜り込もうとしている守人をちらっと見るとやはり魂の
色は灰色…食べる気にもならない。
「しょうがないわね…すぐ起きてよ」
溜息を吐きつつ実体化すると、エプロンを着て腕をまくる。
「おお〜…すまんな〜、ついでに出来たら起こしてくれ〜もちっと寝てるから」
布団でまた寝てる…全くもう。
手早く卵をかき混ぜスクランブルエッグを作る準備をする。
そんな事をしながらまたあの頃の事を思い出す…。


回想
-----------
 その子は魂の色が水色だった。
まさに純粋無垢な魂、水気を含んだ果実のように見える。
とは言っても今はもう死にかけてその魂の光もうっすらとしか見えないけど。

…勿体無い。
見つけてから瞬時にして私はそう思った。
雪焼けして健康そうな肌が青白くなっていくその姿。
魂の光もそれが深まれば深まるほどゆっくりと消えていく。
せめてこの魂だけでも頂ければ…。
私はこの少年にとって一番綺麗な女性に化け、ゆっくりと近づいた。

吹雪で雪に埋もれ、目を開けようとしない少年に近づくと少年がゆっくりと
目を開けた。
「お母さん…迎えにきてくれたの?」
この子にとって一番綺麗な女性は母親なのね…。
『ええ…、今お母さんが暖めてあげるからね…』
この子の魂に近づくと、私は服を脱ぎその魂を抱きしめる。
サキュバス…魂を抜き取る者。
その行為はその者の性的興奮を高め、魂を震わせる。
そして高ぶりが最高潮に達した時、魂を抜き出す事が出来る。
この子もその筈だった。

「お母さん…それじゃお母さんが寒いよ…」
この子の魂は私の抱擁を受け止めながら、震える事なくそう言った。
そしてあろう事か、自分の着ている上着を実体の無い私に着せようとゆっく
りと脱いでいた。
逆に私の魂が震えた…、危ない!とそう思った時にはもうこの子の魂に惹き
つけられた様にして魂がくっついてしまった。

そして…


現実
-----------
 「カナ〜、まだ〜?何か焦げ臭いぞ〜」
何時の間にか長く考えすぎていたのかも知れない、後ろからの守人の言葉に
ハッと我に帰りフライパンを見た。
スクランブルエッグが所々焦げていた。
「あ…やっちゃったわ…」
慌てて火を止めてから頭を抱えた、卵があった分はこれで最後だったのだ。
「ごめん守人、焦がしちゃった…」
とりあえず皿に移し、いつの間にやら焼きあがっていたトーストと一緒に
守人に前に出す。
「んー?ありゃりゃ、焦げてんな、まあ食べらりゃ何でもいいか」
皿を見てそうこぼした守人は「そんな気にすんなよ」と私に笑いながら言い、
「頂きます」と手を合わせて食べ始めた。
…そんなに気にしてるように見えたのかな?
変な気分になりながら、実体化を解除し透明になった。
『卵…無くなったから後で買いに行った方がいいね』
私はそう言ってからまた目を閉じた。
また何か失敗する前に思い出を最後まで思い出したかった…。


回想
-----------
 惹きつけられた私の魂はその子の魂の一番純粋な所にくっついてしまった。
一瞬顔が驚愕で強張るのが分かった。
このままだと同化されてしまう…!
そう思った時…、この少年の魂の中で『助けて…』という言葉が響いてきた。
押さえ込まれていた死への恐怖の気持ちが魂の奥底に潜んでいる…。
それをダイレクトに感じてしまった私は、同化しはじめて震える自分の魂に
導かれ気付くと実体化していたようだった。
胸元には冷え切った少年が居た。
そして…そのまま吹雪は去り、少年は生き残る事が出来た。

少年は家族と一緒にまた帰る事が出来た。
確かにそれは良かった…、でも…


現実
-----------
 今はこんなの…くっ。
そう、私はその事があった時から守人から離れられなくなり、そして守人は
どんどんあの時から魂が濁り始めたのだった。
いつかは元の綺麗な魂に戻してやろうと思ってるのに…。
「おい…何苦悩してんだ?カナ…」
『何でもないわよ!』
目を瞑ったまま怒鳴る私に、何が何だか分からないような守人の困惑の気配
がした…。

いつまでも灰色のまま変わらない魂を見据えながら、私と守人のこんな日々
が続いていく。
何とも言えない安堵と共に雪の中の出会いからこんな生活が続いていくのだ
そう…きっと。

時系列 
------ 
 2005年未明
解説 
---- 
 サキュバス『カナ』が子供の頃の守人と出会った頃の回想と生活の一部。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
終わりです。



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